今年度オスカー関連作品一押しは、『リアル・ペイン』に決めました(12月18日現在)
今年の賞レース、ほとんどの作品が未見ですが、先週試写で観た『リアル・ペイン』は自分にはとても刺さる作品でした。普段あまり「これ好きだな~」と思う作品に出会うことがない中、鑑賞後ネットでジェシー・アイゼンバーグのインタビューを漁りまくるくらいはまりました。個人的にはとても珍しいケース。アイゼンバーグ演じる主人公とキアラン・カルキン演じる従兄弟が、亡くなった祖母の故郷であるポーランドを訪ねるといういわばロードムービーの一種なのですが、この二人の関係性を描くのと同時に、ホロコーストを描く作品になっていて、その手法がとてもオリジナルかつ心を打つものになっています。ポーランドで観光ガイドを務めるイギリス人役にウィル・シャープ、ツアー参加者にジェニファー・グレイなど、新旧の個性的な俳優が出演していて、みんなとても良い。中でもキアラン・カルキンの演技は、サンダンスで最初にお披露目された時から絶賛され、オスカー助演男優賞候補としても最有力と言われています。
キアラン・カルキンは言うまでもなく『ホーム・アローン』で大ブレイクしたマコーレーの弟で、デビューも同作、マコーレーの弟役でした。そのまた弟のローリーも俳優で、子役の頃は3人ともお人形のように可愛く、周りの子役と一線を画す存在でしたが、育つ過程での俳優キャリアにおいては、キアランが一歩リードしてきました。『マイ・フレンド・メモリー』に始まり『サイダーハウス・ルール』『イノセント・ボーイズ』等で一流監督と仕事をし、カルト的インディー作品『17歳の処方箋』では思春期の主人公イグビーを熱演。常に一味違う、作家性に富んだ作品を選択してきた印象です。その後、最大のブレイクは2018年に始まったHBOの大ヒットテレビシリーズ『Succession』におけるローマン・ロイ役で、最終シーズンが対象だった今年、エミー賞の主演男優賞を初受賞しています。
『リアル・ペイン』におけるカルキンは、自由奔放で落ち着きがなく、自立していない一方で、純粋でカリスマ性があり、誰をも魅了する複雑で繊細な役柄を見事に演じています。彼の言葉はしばしば芯を食っていて、腹落ちすると同時に深く考えてしまう。カルキンの見事なまでに自然体の演技には感動するばかりですが、彼の発するその秀逸な台詞を作り、その演技を引き出す演出をしたアイゼンバーグの才能は、この先も楽しみで仕方のない発見です。カルキンが演じるベンジーの魅力は、彼がたびたび発する想定外の台詞にあります。台詞に息を吹き込むカルキンの力は、今年の賞レースを席巻しているところを見れば明らかですが、もともとその役柄を作っているのがアイゼンバーグと言うことを考えると、やはりこの作品を特別にしているのは彼の才能なのだろうと思うのです。
ジャンル的に技術系でノミネーションを稼げない本作は、勢いに乗るカルキン以外、オスカーを考えた時に決して強い作品ではないかも知れません。ただ、私にとっては、他の候補作品に劣らない、心の奥深くに響く良作です。日本でも授賞式より一か月以上前に劇場公開になるので、多くの人の目に触れ、感動を呼ぶ作品になるのではないかと思います。