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【まくら✖ざぶとん】①⓻⓻『泥棒市➍』
さあさあやって来たのは節目となるゾロ目の一席、なんて云うのもおこがましいくらい前回から開きに開いた間隔は一ヶ月半以上、反省しきりの態度などまるでなきまま仕切り直しの一席は泥棒市シリーズ、過去三編をまるっとまとめてゆくゆくは小噺小説にもできるよう仕組みと仕来りをおさらい。
それぞれのサムネイルのような薄暗い夜の路地を通り抜けたあたり、住宅街がぱっと開ける界隈に人影がぽつりぽつりまたぽつり、泥棒たちがひっそりこっそり立ち寄り持ち寄りして開かれるのが盗品の泥棒市。〈わらしべ長者〉ならぬ〈わらしべ盗者〉たる物々交換の尺度となるのは、懐が潤う金銭的価値のある貴重品よりも心に触れる琴線的価値のある稀少品。
たとえば見るからに古めかしい万年筆や懐中時計、たとえば書きかけの原稿やデモ音源入りのレコーダー…泥棒が忍び込む家に置いてある物こそ多かれど、記憶や思い出の詰まった形見の品や持ち主が魂を吹き込んだ物はそう多からず。押し入れや引き出しの奥底にしまってあるような物をしれっと盗み出し、「あれ、どこやったんだっけ?」、持ち主にいつなくなったのかさえ気づかせない盗り方ができるようになってこそ泥棒の中の泥棒。
それはタカラかそれともガラクタか、泥棒市で問われるのは出品物の質感や真贋を心眼で見抜く審美眼、どこにでもある品物をつかまされたら次の交換には至りにくく、値打ちのある代物も相手が値踏みできなければ取引はまとまらず。泥棒市に盗って出しされる品物は需要より供給が先、両者両得にはなりにくいが交換することに意義があり、泥棒たちの目的は手に入れるよりも手放すこと。タカラとて持ち腐れたらガラクタ、ガラクタは捨ててしまえばゴミ、捨てずに持ち腐れさせないために同業者の間で持ち寄り持ち回り、互いの盗品に価値を見出した盗事者同士で交換できれば後腐れもなし。
もちろん闇市とあらばそんじょそこらにはない品物も出回って然るべし、拳銃や日本刀など法律に触れる道具もあれば〈神器〉と呼ばれる人智を超えた力を持つ道具が取引されることも珍しくないが、それはまた別の機会に。
ともあれ、泥棒市に出入りするのは盗む物ではなく盗むという行為それ自体に泥棒としての矜恃を持つ者たち、金に準ずる物には見向きもせず誰かの命に等しい物を探し出し盗み出してはあっけなく市場に流す冷酷非情ぶり、盗人猛々しいとはまさにこのこと!
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