【まくら✖ざぶとん】①④⑧『おでん屋台➌』
えー、巷は早くも年の瀬今年の瀬、このまま一年が終わっていいものか、よくなかろうとそそくさ進んでいくせわしない師走にそわそわそわそわ、忘年会にクリスマス、それが終われば大掃除して大晦日は年越しそばに紅白歌合戦、行事の行列でそれぞれ決まった過ごし方がある年末年始、お部屋騒動はなかったがまくらに関しちゃおでん屋台の一席がこの時期の風物詩。
とある私鉄沿線の駅前にちょこんと佇むおでん屋台は令和の時代に昭和のまんまの佇まい、匂いでも提灯でもなく湯気に釣られて誘われて、夏の虫は光にたかるが屋台に集まる冬の人はそろいもそろって二軒目に三軒目のはしご客、赤い顔した名無しの呑兵衛が長椅子や丸椅子に掛け着け一杯。
今年も終わっちまいますなぁ
屋台の親爺が詠む何の変哲もないはずの決まり口上が酔客に響くこと響くこと、過ぎ去った一年を思い返すも来たるべき一年に思いを馳せるもよし、来年のことを言えば鬼が笑うし今年のことを言えば己で嘆くだけ、あえて言葉にはせず思い思いにおでんはふはふ、熱燗ちびちび、酔いがぐんるりとまわった頭をからっぽにするかのようにぼんやりとだんまりでゆんるり。
あいよ、ほらよ
大根に厚揚げとゆで卵、注文通りに取り分ける親爺もちくわかちくわぶは両方つけちゃう太っ腹のご愛嬌、屋台にゃ気の利いたつまみもなければおでん一択で奇をてらった変わりダネもなし、酒も熱燗とお湯割りだけならあるのは徳利とお猪口に湯呑みのみ、呑みたい奴さんだけ来りゃいいと土手っ腹をくくった営業形態、それを見た客も客で無用の長居はゴボ天ならぬ野暮天、一合一会を済ませたらはしご酒でふくらんだ下っ腹でお愛想。
帰る客に掛ける言葉は「よいお年を」、屋台の場所が親爺の気まぐれ当たりと風まかせなら今日の客がいつかの客かもめぐり合わせの運まかせ、ひと冬によく寄る駅もありゃ一回こっきりそれっきりの駅もあり、常連客がおらねば初めましての一見さんはおことわりどころかお気に入り、二度目ましてはまだしも三度目の正直者はうっかり八兵衛ならぬばったり呑兵衛、熱燗で赤らんだへのへのもへじは見覚えあるべしへべれけもへじ!