【まくら✖ざぶとん】③『除夜の鐘つき』
おい、これで買えるだけ酒買って来い、道中財布を放り投げたのも江戸っ子なら買いに行くのも江戸っ子、由緒ある寺の参道脇の飲み屋横丁で師走も大詰めのどん詰まり、大晦日の宵の口から年忘れに物忘れ、今宵呑まずにいつ呑むんでぃ、と酒盛りも盛りに盛られるうちに寺のほうからはゴーン、と鐘の音が聞こえてくらぁ。
ひょっとしてこいつぁあれかい、除夜の鐘ってやつかい、坊主が撞けば除夜の鐘、ウルトラマンが撞けばジョワの鐘、しょうもないネタで盛り上がったってのに次の鐘はどっこいどこへやら、忘れた頃にまたゴーンと鳴れば酔っ払いどもは拍手喝采、煩悩の数だけ打つんだっけか、ひゃくはち?しゃくはち?寺によって数が違うらしいぞ、と持ち前の知識を寄せ合えば、いっちょ数えてみっかと誰かが言い出すのも案の定か必の定。
ひとり五回ずつ「正」の字で数え上げ、聞き逃したやつぁ酒代に道中財布を取り上げられる、てことでいざまた乾杯、あっちで鐘がゴーッンと撞かれりゃこっちで杯がゴッツンコ、大晦日たるものこうでなくっちゃいけねぇ。
宵も酒も深まりゃ、撞きはじめはじれったかったはずの鐘の音が、ボーン、ボーンと調子づき、おや、今のは鳴ってたか、いや鳴っちゃいねぇか、(ボーン、ボーン)の耳鳴りも数のうち、ドーン、ドーンと大笑いの高笑いがあがりゃひとつ書き逃し、おやおや、べっぴんさんが通りを過ぎようもんならまたひとつ聞き逃し、鐘勘定が覚束なくなりゃ財布の中身が酒にドロンと早変わり。
年もゆかぬうちにへべれけの吞兵衛(のんべえ)たちの懐は気温に負けじと冷え込んで、ポッケに残ったわずかなあぶく銭もどうせ賽銭箱ゆき、なんのこれしき、宵は宵でも年明けのよよいのよいよい、ここぞとばかりに胸を張るのが江戸っ子よ。
新年のカウントダウンはさあいよいよだってのに除夜の鐘のカウントアップはもういいよいいよ、とまさに頭でっかち尻つぼみ、てやんでぃ、酔い越しの鐘は待ったなし、てのが今年の教訓ってことで、よいお年を!