【まくら✖ざぶとん】🈞『築地市城』(とじちゃったので再掲!)
さぁ移ルンですか移ランですか宙ぶらりんの空中楼閣と化してるそこは異世界の異空間、もはや「築地市城」なんて記してもよさそうなディープでドォープな城内は粋でいなせな商売人たちの縄張りとあっちゃ自分みたいな門外漢ならぬ場外漢、おっと違った城外漢はそうそう奥の奥まで入れやしねぇ、となればそば屋のせがれの仕入れについてってみるわけだ。
水産物運搬用の特殊車両ターレーが城内を縦横無尽に行き交うさまは想像の斜め上、「交通整理」なんて言葉はこの城の辞書になし、強気に操縦する角刈りに鉢巻きの強面業者におどおどするやつはヘターレー、当たるなら当たってみろよほととぎす、どいつもこいつも威勢のいい場所柄に合わせ、反り返ること伊勢エビの如く胸を張って歩いてみせるのがこの城の不文律。
「そこのおっちゃんとは仲良しでよう」
「あそこのおばちゃんに気に入られててさ」
城内の勝手知ったるそば屋のせがれ、得意げに水産先案内人を務めたかと思えば次の瞬間にはヘターレーな虫が顔を覗かせ、いつやら取り引きを取りやめたエビ屋の前はビビって通れず、どこやらいったさっきの威勢は虚勢、伊勢エビの如く反り返らせたのは胸までで腰はへっぴり腰の及び腰。
そそくさと迂回した先のお目当ては牡蠣。冬期限定の献立に「牡蠣そば」を出すからにはまさに牡蠣いれどき、度胸がない代わりに愛嬌を前面に押し出して仲卸に授かるは冬なのに牡蠣講習。男は度胸、なけりゃ女の愛嬌借りて、オネェは酔狂ときたら子供と半人前は勉強でもしてろってか。
仕入れを済ませりゃ城内の食堂で朝メシを食らうのが定番。市城移転の前に食堂店主がよそに移ったようで、やれ「味が落ちた」だの「活気がなくなった」だの、腹は肥える一方の割に舌は一向に肥えねぇそば屋のせがれの生意気はもちろん気に食わねぇが、気の毒にも世の移ろいの割を食って空宙にぶらりんと浮かされた空中楼閣たる築地市城を想って折句を一句。
空咳の
きかれて久し
築地より
はるばるゆかぬ
立ち退きぞ思ふ
どうれ見事に此度の築地市城見学こそ伊勢エビ物語は東下り(⇒豊洲)の段、牡・蠣・つ・ば・たってわけで世相をバッサリ斬り捨て御免!