【まくら✖ざぶとん】🈞㉀『饅頭こわくない』
さあ六月も初旬から中旬に差し掛かればどこもかしこも祭りの季節、各地で神輿が揺れる景色を見越しての再掲。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
下町の長男だけあって温室育ちとは程遠いそば屋のせがれはイヤホンのことは「耳」と呼ぶ音質育ち、そばを打つだけじゃなく太鼓も叩くせがれにとっては祭りも毎年の恒例行事、例年によって今年も今年で意気揚々と馳せ参じた由緒ある祭りの名物は本社の千貫神輿。
シロートにクロート、ニートにエリート、気分屋と目立ちたがり屋に伏し目がちとサボりがちも同じ半纏を着て、いっせーの、でよっこいしょにどっこらしょ!臍に力を入れて神輿を持ち上げるや、ズシリと肩にのしかかった重さに腰を通り越して膝まで砕けそうになるも、担いじまったらぶっつけ本番の出たとこ勝負。おりゃ、おりゃ、掛け声に合わせてそいや、おいさ、なんでもいいから声を張り上げ、せい、えい、おい、やい、神輿を揺らす。
担ぎ手が抜けたり入ったりぐっと重くなったかと思えばふっと軽くもなる千貫神輿、揺らしていたはずが気づけば揺らされている満員電車ならぬ満員本社神輿で繰り広げられる押し合いへし合い殴り合いの小競り合い、饅頭は饅頭でもおしくらまんじゅうならこわくないからいかがでしょ。
押し上げた反動で神輿の重みが肩から腰、膝に降りかかり押しかかるさまはさながら天津飯の気功砲、額に汗、眉間にしわ、こめかみに血管が浮かび、腰はギックギクで膝はガックガク、頭に酸素がまわらず視界がゆがみ、あえなく意識が遠のきかけたそのときだ――。
そーれ、そーれ!
――あの娘だ。
耳が拾ったのは、去年も、一昨年も、一昨々年も聞いた声。
よく通る可憐にして芯のある高音が力強く神輿を盛り立てる。
そーれ、そーれ!
息を吹き返すように四肢に力を宿らせたのはそば屋のせがれのみならず。単純極まる男たちの性、膝をぐぐっと踏ん張ったら歯をぎっちり噛みしめて食いしばり、掛け声に応えるべく全員で目いっぱい力いっぱい神輿を揺らす。
…しゃーん! しゃーん! しゃーん!!
担ぎ手たちの息と足並みが見事にそろうや、高らかに響き渡るは神輿のてっぺんに鎮座する鳳凰の鈴。
――神様も喜んでらぁ…‼
祝福の啼き声が頭上から降り注ぐ、まっこと夢耳心地とはこのことと聞きつけたり。