【まくら✖ざぶとん】①⑥④『低反発まくら➌〈地獄の悪魔〉』
えー、地獄の沙汰も金次第とよく言われる通り、蓄えの有無が物を言う昨今の非常時をルー語で表せば《備えあればウォーリーなし》、というツカミではじまったこの一席は例のごとく〈低反発まくら〉、こんな時だからこそ肩肘張らず毒にも薬にも香辛料にもならない小噺にして与太噺。
コロナウイルスがもたらしたのは命を守ろうとするほど金が回らなくなるジレンマ、業種によって命運の分かれた天国と地獄と現状維持、在宅勤務リモートワークで電車に乗らない会社員と営業制限リミテッドワークで火の車に追われる接客業、最前線の医療業界は〈コロナ取りがコロナ〉と隣り合わせの背中合わせだが背に腹は代えられず、外出自粛を横目に日本全国津々浦々へ粛々と荷物を届ける運送業。
パンデミックが続いても人は死ぬし、エコノミックが止まっても人は死ぬ。言葉は悪かれど「医療的な病死」を取るか「経済的な瀕死」を取るかの二者択一。病死の確率は低くとも瀕死には直結する若者、財政的な蓄えがあっても死亡率の高いお年寄り…両者が社会の中で混ざり合って絡み合うことで因果の糸が糾われて絡まった末にほつれたりほころんだり。
そんな時期にちょうどお勤めから退職するのがうちの父親、年金を満額受給するまでは死ぬに死ねぬと息巻くも、高血圧に糖尿病で動脈硬化、長年の会社員生活で蝕まれた基礎疾患によって感染したら重症化待ったなし、天国に昇るか地獄に落ちるかはまさに神のみぞ知るところではあれ、あえなく死んでしまえば年金どころか貯金があろうと天国にも地獄にも持ち込めず。
ところがどっこい時は二〇二〇年、天使が天国にいるなら地獄にいるのは悪魔、より話の通じる相手は清廉潔白な天使よりも悪鬼羅刹の悪魔?なら進んで赴いたのは地獄の一丁目。「地獄は地獄でもどの地獄がいい?」とそそのかす悪魔に対し毒を以て毒を制すのも一手にして一興、刑務所で看守を買収するがごとき交渉のエサにしたのは遺言で死後に買い上げた仮想通貨。
天国も地獄も仮想世界なら通用しうるのが仮想通貨、地獄だろうと関係なく取引できる金があってね、という甘言に釣られた悪魔が涎をじゅるり、全財産と引き換えに「地獄は地獄でも生き地獄」に送るのが交換条件、死中に活を求める交渉を成立させて悪魔を騙し切れば地獄からの死者ならぬ使者として見事に生還、悪魔と契約を交わし生きながら地獄と現世を往来するのが生き地獄、これぞまさしく地獄のサタンも金次第!