【まくら✖ざぶとん】➊➒⓪『蹴球事変』
その界隈ならずとも蹴球界の二大巨星を尋ねれば知らぬ人は少ないリオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウド、絶大な影響力を持つ二人がそろって移籍するなんてもう事件も事件よ蹴球事変、欧州戦線の勢力図が新時代に突入する分水嶺となりそうならここに記録しておかねばなるまいに。
野球漫画でもやりすぎなほど現実を超越したキャラクター設定を実現しているのが大谷翔平なら、蹴球漫画でもやりすぎなほど常識を逸脱したライバル関係を体現してきたのがレオ・メッシとクリ・ロナ。
なにせなにしろどこを切り取っても対照的なこの二人、カンテラという下部組織が送り出した背番号10は世界最高傑作、ひとつのクラブで選手生命を全うするバンディエラことワン・クラブ・マンになると信じられていたメッシが「静」ならロナウドは「動」、カントナというキングの背番号7を受け継いだ悪魔の一員から銀河系軍団員にキャリアチェンジするやレアル王朝の王様に君臨、覇権を築いた後は跳ね馬に跨ってなおも暴れ回る天下統一ぶり。
小柄な俊敏性を活かしたクイックターンとステップワークで相手を次々と手玉に取っての独力突破、チームメートかゴールネットへ左足から鮮烈な軌道を描き出すメッシが「柔」ならロナウドは「剛」、細身テクニカルから筋肉フィジカルにモデルチェンジすると両足で強烈な弾道を振り抜く地上砲撃に長身と跳躍力を活かした空中爆撃、独りでみなまでやろうとせず最後の仕上げ役に徹して決めきって見得切ってみせる千両役者ぶり。
そんな彼らを雇うための莫大な給与を払えるクラブとなると欧州にも数えるほど、行き先となりうる英仏・三都市のうちクローズアップされたのが世界有数のビッグクラブを二つ擁する英国北部のマンチェスター、メッシのプライムタイムを指導した恩師が指揮を執る青いシティーとロナウドのネームバリューを高騰させた恩師が根幹を担う赤いユナイテッド、運命の歯車が噛み合っていたらエル・クラシコに続いてマンチェスター・ダービーで再会…なんて妄想をした人も少なくないはず。
此度の蹴球事変で心のクラブから初めて立ち去ったのがメッシなら心のクラブに初めて舞い戻ったのがロナウド、恩師の元に行けなかったメッシと恩師の求めに応じたロナウド、プレーヤーとしてのスタンスやスタイルにはじまり移籍の経緯まで好対照な好敵手であり続ける二人のスター、これあるいはまさしく去る者は(恩師を)追わず、来たる者は(恩師を)拒まず。