【まくら✖ざぶとん】⓵⓪⓪『年越しそば』
ようようついに到達したのは大台の百席目、思い返せば今年最初の『年賀枕』で月五回更新なら百席突破!とぶち上げた抱負を見事に達成、そんな節目の回を飾るのは定番の鉄板企画そば屋のせがれシリーズ。もひとつ思い返せば最初のまくらが『そば屋のカレー』だったってんなら初心忘るべからず、記念の一席で原点回帰のそば屋ネタときたらもちろん年越しそば。
例のごとく記事の冒頭でまくらをこねこねこねくりまわす間にそば屋のせがれも木鉢に入ったそば粉の生地をこねまわしてたわけだが、普段と違うのはそば打ち専用の「打ち場」でなく店内の客席でやっていること。
大晦日の年越しそばに限っちゃ特別営業、晦日こと三十日の夜はお店を閉めて晩から朝までそばを打ちっぱなし、生地をこねて玉を作る係と延して切る係、本来はひとりで行う工程を二分割した分業制、そば屋のせがれといつ雇い入れたか知れぬ見習い職人がそれぞれの作業に打ち込んでいく。
一晩で仕込むにゃ同じ作業工程を繰り返すこと二十回越え、夜が更けて何球目ならぬ何玉目だか覚束なくなってからが本当の戦い、夜通し打って朝まで投げ出しちゃいけない記者の夜討ち朝駆けならぬそば屋の夜打ち朝投げ、自分が打たねば誰が打つ、使命感と責任感は打席に入る強打者スラッガー以上のそば打者ソバッターだが集中力と持久力は事件記者ルポライター以下。
自分との戦いに弱ければ敵を作って見習いが休まないなら自分も休まぬ、「休んでいいですよ?」「そっちこそ休めよ」の意地と見栄の張り合いは「疲れてそうですよ?」「手が止まってるぞ」と足と袖の引っ張り合い、それでも目を血走らせて打って打って打ちまくっているうちに訪れたランナーズハイならぬソバッターズハイ、予定の分量を打ち終えた瞬間にゃ若旦那と見習いが抱き合ってのハイタッチはハグタッチ。
なんの打ち上げはまだ早い、ぷらっとくる近所の常連からぬらっときた遠方の馴染み客まで昼前から店前には引きも切らない長蛇の行列。年越しそばを喰らわずして年明けは迎えられぬ日本人、注文が多いのはなぜか天ぷらそばか揚げ玉入りのたぬきそば。嘘か誠か来年の運気がアガりますように…‼