【まくら✖ざぶとん】①①⑨『そば屋の皿割り➋』
やれやれ平成のまくら振り返りの一席で定番だの鉄板だのとちょっとほめちまったが最後、喜び勇んで馳せ参じてきたのがそば屋のせがれ、何かと思えば新しいまくらにしてほしい話があるとのこと、令和に入っても相変わらずのそば屋シリーズでせがれは続くよどこまでも。
気になる噺の主人公はといえば、いつぞやまくらで取り上げたそば屋の皿割りこと中年洗い場アルバイター、皿を割りに割れども悪びれることもなければサラリーからサラワリー分が天引きされることもないサラワリーマン。続編とあっちゃ前回の枕詞をとりあえず羅列してからさあ本題へ。
久しぶりに最近の働きぶりを聞けばビックリ、わけあってしばらく店の営業に出ていないときたもんだ。ついに皿という皿を割ってきた腕を見込まれて完璧主義者の陶芸家あたりに身柄をさらわれたのかと思いきや、例によってパックリではなくハッキリと割れていた居場所はなんと病院!
事の顛末はこう。家電を買い換えて旧冷蔵庫を階段から下ろしていたところ、最後の最後の大事なところでガンガラガッシャン、倒れかかってきたヘビー級家電の下敷きになって下半身がペッシャンコ、とはならずも脚をしこたま打ち付けて、立ち上がることもできず救急車で運ばれるや即入院。
診断結果は、右脚の膝蓋骨骨折。
さすがは皿割り、割ったのは皿は皿でも店の皿ならぬ膝の皿!
…とまあ出オチも出オチだが、話し終えたそば屋のせがれのドヤ顔を見りゃ、ははあ、さては、と合点がいってすぐさま問い質す。
で、ホントのところは?そんなうまいこと膝の皿が割れるかってんだよ。
厨房の〈洗い場〉が皿割りの持ち場なら〈そば釜〉を担うせがれにカマかけてみりゃ、案の定ヘビー級家電を持ち上げた腰のように仕草は途端にギクつき、目は釜の中のそば麺さながらに泳いで鼻もヒクつき、おい、どうなんだよ、と問い詰め寄れば白旗上げてあっさり白状。
…いや、実際はくるぶしの上。
洗い場さんの身に起きた事を洗いざらい吐かせりゃ、冷蔵庫のくだりは事実だが膝の皿も半月板も割れておらず折れたのは腓骨、膝蓋骨は皿割りにかこつけて格好をつけるため、まさに脚色したってわけ。
思い返せばせがれのそば屋は抜き差しばかりの〈抜け駆けそば屋〉、看板メニューは出し巻きならぬ〈出し抜き玉子〉だったが、そば屋たるもの定番中の定番の鉄板メニューこそやはり〈盛りそば〉。
そばも話も盛りに盛る!てなところで、お粗末様でした。