【まくら✖ざぶとん】⓵⓸⓪『父子蕎麦』
えー、鳶の子は鷹にならず、とはよく言われるところではあるものの、親から子、子から孫へと継がれていく家業は数多あるがまくらではやはり定番ネタの下町そば屋、三代目のバカ…いや若旦那ことそば屋のせがれのゴリゴリに刈り上げたツーブロモヒカンはまさに三代目J.S.B.ことJapanese-SOBA-BATTERたるそば打ち職人、若旦那は若旦那でも趣味のサーフィンで感じてるのは湘南乃風ではなく九十九里の風、三代目の若旦那はポップチューンのステップもヒップホップチューンの韻も踏めぬかわりにドジを踏む。
そんな若旦那が切り盛りする下町のそば屋も影響を受けたのが台風19号、地球最大規模の嵐を前にして臨時休業にしたのは夜だけ、ランチ営業を決めたはいいが帰れなくなる従業員を出勤させるわけにもいかず、女将の留守も重なって大旦那と若旦那の二枚看板だけでのれんを掲げることに。
ちなみにこの父子、そば打ちに関しては師弟関係というよりも同じ師匠に師事した兄弟弟子、どちらのそばが上手いか美味いか意識はすれど営業中は分業制、打ち場にこもる大旦那に対して若旦那は焼き場から洗い場まで厨房の仕切り役、持ち場が違えばバチバチいがみ合うことなく共存共営。
そんなわけで時期もぴったりラグビー部上がりの父子ふたりでスクラム組んでのスクランブル体勢、緊急事態に連帯感を見せて一枚岩になったかと思いきや、若旦那より一枚上手の大旦那が仕込みの間に語り聞かせたのは昔話。いつかは自分ひとりの喫茶店を持ちたいせがれの野望を知ってか知らずか、「かつては先代が独りで店を開けて家族を帰省させていた」ことを吹き込めば、あっさり触発された単純明瞭な若旦那が単独営業、閑古鳥は鳴かずとも客がふらりとちらりほらりならひとりでもくるりぐるりと店まわし。
しめたもんだとしたり顔で棚ぼた休暇を謳歌した大旦那、昭和世代の職人気質はせがれにボソリと「よくやった」。それが父からの初めての褒め言葉なら若旦那とて悪い気はせず、豚もおだてりゃ木にのぼるしせがれもおだてりゃ一気にのぼせあがる、と思ったかは知らぬが非常時であろうと通常通りに全力を尽くしてこそプロフェッショナル仕事の流儀、ここぞとばかりにサボる父も父ならガンバる子も子、これぞ父子鷹ならぬ父子鳶!