”モノ” と”別の価値”との交換
2020年3月4日、その日も変わらず私はオークショニアとして開催中のオークションを仕切っていました。それは22年間変わらないルーティンで、競り台と呼ばれる机の真ん中に陣取って、全国から集まったバイヤーさん達を相手に競りを取り仕切っていました。その時ふと感じた”違和”が会社の行き先をこれほど大きく変えることになるとは思ってもいませんでした。
改めて見直してみると疲れてるし、覇気ないなーって感じです。まぁ私の中では一生に一度あるかないかの決断をした瞬間でもあったわけです。
22年前、山一證券の自主廃業を受けて家業である質屋を継ぐことを決意しました。そこからの22年間はB2Bオークション事業と共にありました。山口県下関市という田舎町で「全国に通用するプロが集うオークション事業に成長させる」というモチベーションが全てのグループ事業の源泉になっていました。全国を何周も営業で周り、会員社数17社でスタートした小さなオークションも、2020年3月時点では会員数900社にまで成長させていただくことができました。この時の決断は「オークションをストップする」ということでした。生々しいお話をすると、その決断は月間3千万円近い赤字を出すという決断でした。実際、3月はそれ以上の赤字になりました。決断の翌日、会社から戻ってお風呂に入ろうとした時に、ふと思った「オークションをオンラインで開催しては?」という選択肢。頭の中では数年前からイメージしていたことですが、実際に出来るのは5年先か、10年先かと考えていたオンラインオークション。すぐに知り合いの開発会社の社長に電話をし、その会社が持っているオークションアプリを弊社バージョンに開発してくれませんか?(3週間で!)という無茶なお願いをしていました。まさに藁をもつかむ思いでした(なにせ上半身裸でパンツ一丁でのお願いでしたから)。1日時間をくれと仰っていただき、翌朝「なんとか間に合わせます!」と快諾していただきました。
そこからの1年は全力疾走でした。たくさんの会員様のご協力をいただき、また2020年3月には900社だった会員も2021年4月時点では1,500社を超え、たくさんの新しい会員様を迎えることも出来ました。その全力疾走の中で、また、テレビをつければコロナウィルス一色の日本の中で、息を切らして走りながら”ある想い”、それは数年前からずっと想っていた”ある想い”が思考の真ん中に居座るようになりました。
私たちは祖父の代から60年間、”モノの目利き”を磨いてきました。時代と共に、呉服から家電製品、ブランド品、時計と商品はさまざまに移り変わりましたが、やってきたことは”モノを適正価格でお金に変える”ということに尽きます。モノを適正価格で目利きすること、そしてそのモノをオークション運営を通じて全国に、今では世界に流通させていくことを生業としてきました。受け継いだ吉田屋質店という屋号を「モノの銀行monobank」に変更した時の想いも「より多くの”モノ”を必要としている人に届けていく企業であること」をお客様によりイメージしてもらいやすくなるからという理由からでした。そんな想いの中で22年間変わらず抱えている課題、普段は目を背けてしまいそうになる課題ですが、は「モノとお金の交換の限界」です。どうしても「モノをお金に変える」という行為についてくる(恐らく日本人特有の)罪悪感というか、羞恥心というか、そういうネガティブなイメージを完全に拭うことは難しいのではないかという不安です。もちろんこの20年間で二次流通市場は数倍以上に大きくなりました。それでも家庭に眠っている不用品は数十兆円という試算もあります。その眠っている”モノ”はお金に変えるという選択よりも「捨てる」「そのままにしておく」という選択の方が圧倒的に多いことも調査で分かっています。
長年持ち続けていた”不安”は”使わなくなったモノ”をお金以外の別の価値に交換することが出来れば、もしかしたら解消できるのはないか?という想いに変わりました。お金に変える為の目利きを愚直に追求してきた私たちだからこそ、”使わなくなったモノ”を別の価値と交換することができるのではないか?と考え、3年前にモノの鑑定AI「MEKIKI」を開発すべく、株式会社メキキを設立しました。その時の想いは「モノを適正に定量化し、別の価値に変えることが出来るアプリの開発」です。それから3年、AI開発も紆余曲折を経て目処が立ちつつあります。そしてコロナ禍でオークションを完全にオンラインに切り替えたことで”いつかやってみたいと想っていた使わなくなったモノをお金以外の別の価値と交換する”可能性を見出すことができました。
コロナ禍で体験した事業の大転換、そして「いま、生き残るための意思決定」という経験は、「来ないかもしれない”いつか”を待つのではなく、いま、やってみよう」と私自身の意識を変えてくれたと思います。
そして、構想からは数年、やってみよう!と決めてから2ヶ月、実現することになりました。インターン生とスタートした社内ベンチャー事業の名前は「ものはぴ」です。このネーミングには「使わなくなったモノで、誰か(自分)をハッピーに」という想いが込められています。
着なくなった洋服と焼肉が交換できたり、
使わなくった腕時計でハワイ旅行に行けたり、
買い替えた釣竿でディズニーランドに行けたり、
使わない壺が近所の滑り台に変わったり、
使わなくなったモノがお金以外の価値に交換できる社会を創り出すことで、持続可能な循環型社会実現の一助になれればと想っています。
第1弾の「ものはぴ」は5月10日情報解禁し、6月末に実行されます。ぜひ皆様も”使わなくなったモノが誰かのハッピーに変わる”ワクワクを体験してください!
この想いが一人でも多くの人に届くことを願って。
令和3年5月6日モノの銀行monobank 代表取締役 吉田 悟
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