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フルーツケーキの記憶

我が家では、クリスマスになるとシュトレンがよく食卓に登場します。

本当はクリスマスまでにちょっとずつ消費していく食べ物らしいのですが、買ってくると、すぐに食べきってしまいます。そうしてまた別のところで買ってきては、「ベストな味」を探し続けるのが毎年の恒例行事になっています。

さて、つい最近、買ってきたばかりのシュトレン(それも、今までに買ってきたことのないお店の!)を切り分けた時のことです。

脳裏にふと、フルーツケーキを作る情景が浮かびました。

シュトレンではないものの、シュトレンのような、洋酒浸けのフルーツをたっぷり入れたケーキを作っている記憶のようなものが、自分の中に呼び起こされました。それは、とてもあたたかくて楽しい記憶ではあるのですが、そのキラキラとした気持ちは、最後は風船のようにしぼんで消えてしまう、そんなイメージが、ふわぁっと私の中を通りすぎていきました。

もちろん、自分の記憶であるはずはありません。きっと、どこかで読んだ物語の情景の一つに違いないのです。しかし、一体どこで読んだのか、どういうタイトルだったのか、全く思い出せません。

そのうちに、登場人物たちはかすかに思い出すことが出来ました。男の子と女の子。いや、女の子じゃなくて、女の子みたいに元気なおばあちゃんだったかもしれない……。

子どもの頃に読んだわけではなく、記憶にはまだ新しい。それなのに、ずっと昔から何度も読み聞かされたかのように物語の一端が自分に染み込んでいて、まるで、自分が経験したことのように、男の子とその友達である年とった女の子(おかしな言い方だけど、これがきっと正しい)がクリスマスに向けて一緒にフルーツケーキを作るという情景が浮かぶのです。

気になって仕方なかった私は、「クリスマスにフルーツケーキを作る話」なんて検索して、そして、とうとう、その答えに辿り着きました。

カポーティの『クリスマスの思い出

あまり、ピンとは来ません。カポーティって誰だっけ、と一瞬思ったくらいです。

でも、その作家の代表作が『ティファニーで朝食を』だということに気が付いた瞬間、『ティファニーで朝食を』に一緒に収録されていた短編が、こんなにも生々しく自分の記憶に刷り込まれていたのだ、ということが分かったのです。

読んだことのない方のために、内容に深く触れることはしませんが、カポーティの『クリスマスの思い出』、本当に良いお話です。

歳の離れた親友二人組(七歳の「僕」と、その子のいとこで六十を越した「彼女」)がクリスマスに向けて、フルーツケーキを力を合わせて作るのですが、二人の友情の美しいこと、フルーツケーキ作りのためのお金をせっせと集める姿の魅力的なこと!(しかも、そのフルーツケーキは自分達以外の沢山の人に配るのです)

想像するだけで、私たち読者も、カポーティの幸せなクリスマスの思い出に浸ることが出来ます。

それだけに、切ない終わり方がいつまでも胸に残ってもしまうのですが、短編とは思えないほど鮮烈に記憶に刻まれることで、自分の中の「クリスマスの思い出」が一つ増える……。そんな作品です。

もしまだ読んでいらっしゃらない方は、ぜひ、お手に取ってみてください。

……あぁ、それにしても、こんな風に、フルーツケーキをクリスマスに向けて作れたらなぁ。

12/23 追記:「シュトーレン」を「シュトレン」に書き換えました。日本語だと「シュトーレン」とのばすのが一般的なのでそう書いたものの、実際は、"Stollen"はのばさずに発音するのが正しいので……。「シュトーレン」と書いて公開したことに、わりともやもやしていたので、思いきって書き換えました。


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