
私は夫に3.5回話しかける。 #夫は数学者
「あれ、明日って何時に帰ってこられるんだっけー。」
お皿を洗いながらキッチンから隣の寝室にいる夫へ向かって声をかける。
ふすまの向こう側からは、カタカタカタカタ・・・という音だけ
ひびいてきており、返事はない。
「パパー、明日って何時に帰ってこられるのー。」
今度はちょっと大きな声をあげてみる。
それでも、返事はない。
仕方ないので洗っているお皿を置き、手についた泡を取り、水を止め、気持ちドシドシと大股で隣の部屋へ踏み込み、ごろんと横になりながらパソコンをカタカタしている夫の隣にドスンと座り、
「ねえーってば。パパに話しかけてるのワタシー。」
と、パソコンと夫の隙間に倒れ込む。
そこで初めて私が彼の意識下に入り、やっと
「ぐえっ。ん?ああ。」
と反応するがまだ脳みそが追いついていない。
そして10秒くらいして、
「・・・で、なんだっけ??」
と聞き返してくるので、そこで
「明日。何時に帰ってこられるの?」
と3度目の質問をする。
「明日はそうだね、早く帰ってこられるよ。」
「わかったー」
そして私はすくっと立ち上がりキッチンへ戻り、夫は引き続きパソコンをカタカタし始める。
これが我が家での会話の1クール。
彼から返事をもらうには、質問は大体3回、その間に呼びかけ1回。
*****
そんな夫との出会いは高校の時。
入学したばかりの初々しい教室で、同じクラスで出会ったのが最初。
私の夫の最初の印象は、
「なにやらかわいい子がいるなあ。」
夫の私の最初の印象は、
「なにやらSURFACEの椎名くんに似てる子がいるなあ。」
(男女逆転の印象だけどバグではありません)
当時の私は身長172cm、
夫は当時自称160cm(私の記憶では正しくは158cm)。
高校2年の秋、
ほぼ学年一番おっきい女子と、ほぼ学年ちっさい男子が付き合い始め
学年中が一度どよったのは今でも忘れられない。
そして、
小さい頃からどうしても友達の輪からはみ出してしまい、
自分には味方なんていないのかもしれないと
ひとりで孤独を抱え込んでいた私の隣にきて
すっと手を差し伸べてくれたということも、
実はこっそり忘れられない。
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大好きすぎて大学も追っかけて行ったら、
私が自分の貯金で契約し、毎月のバイト代で借りてた一人暮らしの家は、
同じ大学に通う夫(彼)にとっても便利な別宅扱いになった。(オイ)
自分の好みのジャズをかけ(私はロックが聞きたいのに)、
自分の好みのムーディーな間接照明にし出す夫と
「誰がお金払って借りてる家だと思っとんじゃー!!」
と毎回のようにバトったのはまだまだ記憶に新しい。
"結婚前に一緒に住んでおいた方がいい"
という言葉が頭の中をぐるぐるした数年だった。
たとえ好きな人でも、全く別の他人が「一緒に暮らす」って、本当に大変なことなんだな、、と。
でも結局その後住んだアメリカ・デンマークには
そもそもシーリングライト(天井の照明)はなくて
間接照明のみの暮らしになったし、
なんか海外暮らしにあてられて
朝にはムーディーなジャズかけながらコーヒー飲みたくなっちゃって
一緒に暮らしていくと好みも結局似てくるものか・・・と
うまいこと丸め込まれた気もするけど
今となっては懐かしい間接照明の乱。
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高校の頃から数学に没頭するタイプではあったが、
大学へ入ってヒートアップし、
夫は日常のほとんどの時間を数学を考えていた。
まあそれはよい。それはよいとして。
ヤツはなぜか考え事をしている時に歩き回るのだ。
そう、歩きながら考えるタイプの研究者なのだ。
研究室でホワイトボードを前にうろうろしまくって、万歩計の歩数が特に散歩行ったりランニングしてるわけでもなく1万歩を超えたりする。
家の中でも狭い場所なのに机のまわりをぐるぐるまわりながら
考え事をよくしている。
そしてそのあとを2歳の娘が歩いていたりする。
外でも考え事をしているとうろつくことがある。
一度びっくりしたのは、そこそこ混んでいる駅のホームで
電車を待つために並んでいた時のこと、
考え事がヒートアップしてじっとしていられなかったのか
突然ふらふらと歩き出した。
・・・・私を中心として、円を描くように・・・・。
わかるだろうか。
ホームにはそれなりに人がいて、
次の電車を待つために並んで列をなしている。
そこを、半径2mくらいの円を描きながらヤツは徘徊するのだ。
列の間をむりやりすり抜けてまで。
まるで私が太陽で、夫が地球である。
私が地球なら、ヤツは月。
私が木星なら、ヤツはイオ・・・
・・・しかしいくら愛していても
ちょっとそれはご勘弁いただきたいものである。
「すみません、私を中心に回るのやめていただいて、
あちらのちょっとスペースあるところで
勝手にくるくるしていただいても・・・?」
と、丁寧に提案してみたものの、
最初の1周こそ空いているところでうろうろしていたが
2周目あたりからゆるやかに軌道が戻り、
3周目にはもうすっかり元の衛星軌道に戻っていた。
・・・私はそこでそっと目を閉じた( - ∇ - )。
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小さい頃から「将来は好きな人と幸せな家庭を築きたい」が夢だった私には、ささいなことではあるけれど、"理想の家庭像"があった。
たとえば食事は全員揃って「いただきます」で食べるとか。
食事は私が作って、夫がお皿をあらってくれるとか。
休日には夫と息子が公園でサッカーをしているとか。
すごくステレオタイプな家庭像だったなと今では思うけど、
でも小さい頃、狭い家で、
両親がいつも険悪な空気を出していたあの家で暮らした18年、
そういう夢を見た小さな子供がいたとしても不思議じゃないと思う。
いざ結婚してみたら現実は、
何度言っても私が食卓に戻る前に家族は食べ始めちゃってるし、
なぜかかたくなに夫がお皿洗いを拒否するので
お皿山積みになりがちだし、(私も苦手)
公園にいくと5分で「もう帰らない?」という超インドアな夫と、
運動神経の比較的良い私とでイメージと逆転してるし、
まあ、イメージどおりになんか行かないよね。
ジャズがかかる家で暮らすなんて思ってなかったし。
でも、
夫はわがままな私に対してとても寛容(下手すると無関心)だし、
息子は家族や友達が大好きな子に育った。
娘は毎日ニコニコしていて、音楽がかると踊る明るい子だし、
私はぽんこつなかあちゃんだけど、毎日みんな笑っている。
さらに、
まさか海外に住むことになるなんて思っても見なかったし、
自分がフリーランスで働けるようになるとも思ってなかった。
仕事をしている私を夫も子供も認めてくれて、
私が辛い〜って言ってると「ケーキか?!アイスか?!」と
元気出させようとしてくれる。
理想通りじゃないけど、
理想なんか本当にちっぽけに感じるくらい、
私の現実ははるかにはるかに、はるかに幸せなんだって、
あらためて夫と出会ってからの時間を思い返して感じた。
辛くて辛くて前も見えない日もあった。
でもそれを超えられたから今があって、
またもしそんなことがあっても、きっと乗り越えていけると思う。
付き合って20年、
結婚して10年。
初めての彼、最後の夫との暮らし。
きっとこんな夫のことだから、あと20年もして息子と娘が家を出て二人になった時、もっとどうせ人の話聞かなくなってるんだろうなあ。笑
3.5回話しかけただけではもう
返事が貰えなくなる未来もそう遠くはないな、と思いつつ、
4.5回でも、5.5回でも、何回でも
返事をくれるまで話しかけるわよ、私は、と
今から夫に宣言しております。
これからまだまだ長いですが、
末長く、末長く、よろしく。
そんな、結婚10周年の日記なのでした。
今目の前にある奇跡に、毎日感謝。