変同による手順の対比

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。
今回は変同による手順の対比について書いていきます。

1.変同による手順の対比

どういうことなのか、早速自作を見てもらいます。

駒井めい作 詰将棋つくってみた 課題8 2021年8月1日

詰将棋つくってみた課題8

① 36銀、同飛、24龍、16玉、34馬、同飛、26金 迄7手。
② 36銀、同角成、24龍、16玉、27金、同馬、34馬 迄7手。

初手36銀に対する応手が問題となります。
2手目同飛でも同角成でも、それぞれ同手数で持ち駒は余らない手順が存在します。
仮に2手目同角成以下の②を本手順とすると、2手目同飛以下の①は変化同手数駒余らず、いわゆる変同という扱いになります。
つまり、どちらの手順を答えても正解になります。

本手順:36銀、(イ)同角成、24龍、16玉、27金、同馬、34馬 迄7手。
(イ) 同飛は24龍、16玉、34馬、同飛、26金迄同手数駒余らず。

ただ、最終4手以上の変同は基本的に減価事項です。
詰将棋として不完全ではなく、許容範囲というのが一般的な認識です。
本作はだいぶ序盤で手順が分岐します。
結局何を狙っているのかというと、2つの手順を対比させることです。
①では馬を捨てて金で詰め上げ、②では金を捨てて馬で詰め上げます。
①も②も私の中ではどちらも作意手順という扱いです。
変同をポジティブな意味で使っているわけです。
このように複数の手順を対比させるのは、現代のチェス・プロブレムでしばしば用いられる表現方法です。
誤解のないように言っておくと、詰将棋をチェス・プロブレム化しろと言っているわけではなく、詰将棋においても十分に可能性を秘めた表現方法だと思っているから採用しています。
さて、本作は伝統ルールの範囲で扱える変同を意図的に利用して、解を2つに分岐させています。

2.出題の仕方

私としては表現の幅が広がるので、以前から興味を持っている表現方法です。
同じような考えの作家は以前から何人もいて、既にいくつも作品が発表されています。
しかし、解答者視点で見ると結構厄介な表現方法なのです。
解答者が変同手順を見つけた場合
「どれが正解手順なのか?」
「自分は読み間違っているのではないか?」
などと困惑する人も結構いますし、現代では変同を嫌う人は多いです。
「だったら出題時に変同があることを明記すればいいのでは?」
というのが普通の感覚でしょう。
変同に関しては必ずしも明記する必要はなく、主題者がどう扱うべきかは悩ましいです。
私個人としては、
「変同だろうと作意手順が複数あるなら、出題時に明記すべきだ。」
と思っています。
解答者に対して不親切であるデメリットの方が、現状では大きいと感じているからです。
何よりも不可避的に生じた従来的な変同とは意味合いが全く異なります。

3.可能性の模索

では、
「なぜ今回は普通の詰将棋として投稿したのか?」
という疑問が出てくると思います。
「変同があることを出題時に明記してください。」
と一言添えて投稿することもできました。
これは私の天邪鬼的な考えによるものです。
「出題時に変同があることを明記しない方が、表現上得なケースがあるかもしれない。」
と思ったわけです。
先程「出題時に明記すべきだ」とは言ったものの、私の中で様々なことが手探りの段階なのです。
本作において2手目同飛・同角”成”と一方を”成”にして対比構造を僅かに崩しているのは、そういった背景があります。
複数の手順が互いに等価であることは、対比構造を際立たせる上でとても重要な条件だと思います。
それをわざわざ崩しているのですから、本作の手順構成は冒険的な意味合いが強いです。

「複数の手順を関連付けて如何に面白くできるか?」
ということは、大いに議論されるべき重要なテーマだと思っています。
特に
「変同による手順の対比にどれほどの可能性があるのか?」
について、私はとても気になっています。
何か可能性があるかもしれないし、もしかしたら全くないかもしれません。
挑戦してみなければ分からないことは沢山あります。


最後に、関連する作品を紹介しておきます。

志賀友哉作 詰パラ 2016年8月

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初めて見たという方は是非挑戦してみてください。