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自分は変われるか 〜遺伝と環境について〜


 「自分は変われるのだろうか…」。ヒトが皆、願望を抱きつつ自分に問いかける言葉。人生において、自分に満足することほど難しいことはない

 ヒトの体は、たった一つの受精卵からスタートする。それが様々な種類の細胞に分化しながら、37兆個にまで分裂を繰り返して形作られる。

 直径0.1mmの一個の細胞から、形も働きも違う細胞が次々に生み出されて、それらが調和を保ちながら連携して生命活動を維持している。これは驚愕の事実である。

 ヒトの完成品の出来具合には、「遺伝子」と「環境」が同程度影響するといわれる。遺伝子は“設計図”であり、環境は遺伝子を発現させる“トリガー”と考えれば当然である。

 近年、環境の影響に関して、ストレス環境等がその世代の遺伝子の発現に影響するだけでなく、エピジェネティックに遺伝し、次の世代の遺伝子の発現にも影響を与えることが分かってきた。

 エピジェネティックな後天獲得形質の遺伝はさておき、自分のこの体は、父母から引き継いだ遺伝子と、その発現に関わる自分が育った環境により決定されている。

 では、人格はどうか。自分は、二元論的に人格が魂に依存するとは考えない。記憶や信念、情動、思考を司る脳が、人格を形成していると考える。

 脳内の神経細胞は、複雑にシナプスで連結され、ドーパミン、セロトニン、オキシトシンなどの神経伝達物質を放出・受容することで、活動電位を生み出しニューラルネットワークを活性化させて機能する。

 つまり、脳内の神経細胞の連結の仕方、伝達の仕方の違いが、個々の思考、感情、行動を規定し、人格を形成していくのである。その違いは、個々の遺伝的要因と環境要因による

 現在の自分、すなわち肉体と精神は、生まれ持った遺伝情報と生まれてから今日までどのような経験をしてきたかによって決定されている。

 ヒトは、自分の体型、容姿、健康、能力等に関わる遺伝情報を有利に書き変えることはできない。また、過去に遡って自分の生活環境や体験を修正することもできない。

 けれども、今後発現する遺伝情報がまだあるかもしれないし、未来の環境も変わるかもしれない。それに、脳のシナプス接続は可塑性があり、今後も変化し得るもののはず。

 「自分は変われるか?」の問いに、楽観主義者(オプティミスト)は肯定し、悲観主義者(ペシミスト)は否定するだろう。だが、その信念の持ち方も、やはり、“遺伝”と“環境”によって決定されているのだ。

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