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(Kindle小説紹介・試し読みあり) 王女の剣と偽りの婚約 : 運命を変える宮廷ロマンス

明月文庫の小説「王女の剣と偽りの婚約 : 運命を変える宮廷ロマンス」の紹介です。Kindleから購入可能です。Amazon Kindle Unlimited ご利用者様なら無料で読めます。

(紹介)

剣を愛し、自由を求める王女エレノアは、レオニス王国が誇る第一王女ながら、その型破りな生き方ゆえに「変わり者」と呼ばれていた。ところが、隣国エルヴァンスの第三王子・レオンハルトとの政略結婚が急遽決定し、彼女は自分の意思とは裏腹に婚約を受け入れる羽目に。
しかしその裏側では、王宮に潜む闇の組織と陰謀が動き出す。偽りの婚約に隠された秘密、燃え上がる薬物取引、そして“赤き満月”がもたらす予言めいた危機──王女としての責務を背負うエレノアは、護衛騎士エドワードや侍女フローレンスらと協力しながら真相を追うことを決意する。
互いの気持ちを隠しつつ、忠誠を超えた想いを育む騎士との絆。さらには、婚約者であるレオンハルト王子の抱える事情と苦悩。入り乱れる思惑の中で、エレノアは「剣を握る王女」として自らの意志を貫けるのか。
華麗なる宮廷ロマンスの裏側で紡がれる謎とサスペンス、そして“自分の人生を切り拓く”強さを描いた長編ファンタジー小説。王宮ファンタジーや政略結婚モノが好きな方に、時にコミカルに、時に切ない展開でお届けします。
「偽りの婚約」をめぐる陰謀が明るみに出たとき、王女は運命を変える一歩を踏み出す──。

(試し読み)

 第一話 変わり者の王女

 

 レオニス王国の王城は、建国以来続く伝統ある威容を誇っていた。高々とそびえる尖塔、連なる回廊、そして広大な庭園をめぐる衛兵たちの姿──どこを切り取っても、絵画のように美しい。

 だが、そんな王城の内部を誰よりもせわしなく走り回る者が一人いた。レオニス王国の第一王女、エレノアである。

 

 エレノアは、今まさに兵士たちの訓練場に姿を見せていた。風になびく長い髪も、そのままにしておくと動きづらいからと後ろで簡単に結わえている。絹織物の優雅なドレスではなく、動きやすい騎士用のズボンと薄手の革の胴着。年頃の王女としては型破りな姿だが、兵士たちはもう慣れっこだ。

 兵士の一人が訓練用の木剣を手渡すと、エレノアは軽く握り、その重さとバランスを確かめる。中背の彼女には少し大きいかと思われたが、彼女は器用に振り回し、苦もなく扱い始めた。

 

「それじゃあ、頼むわ。いつもどおり稽古をつけてちょうだい」

 

 軽口を叩く声もどこか弾んでいる。目の前の兵士──ここ十年来の顔なじみである中年の教官は、苦笑しながら構えをとった。

 

「参ります、姫様」

 

 その瞬間、エレノアは躊躇なく踏み込んだ。木剣同士がぶつかり合い、鋭い音が響く。ほとんど剣士同士の真剣勝負さながらの稽古に、周囲の兵士たちもつい手を止めて見入る。

 彼女は生まれながらにして“王女”という存在であったが、少なくとも宮廷の女性らしい優雅さだけを求められる生き方にはまるで興味がない。王宮では「変わり者」呼ばわりされるのも無理はなかった。

 

 だが、兵士の多くはそんなエレノアに悪い感情を抱いてはいなかった。むしろ、彼女のまっすぐな性格と行動力に、一種の尊敬や親近感さえ覚えている。王女の身分にあぐらをかくことなく、厳しい稽古に汗を流す姿は、単なる好奇心だけで続けられるものではないからだ。

 激しい打ち合いの末、エレノアは教官の木剣を強引に受け流し、そのまま柄で押し返した。教官の肩がわずかに揺らぐ。これを見逃すほど鈍くはない。続けざまに木剣の平で教官の胴を軽く打ち、「勝ったわ!」と声を上げて笑う。

 

「まったく、姫様にはかないません。お見事です」

「いえ、まだまだよ。今の最後の一撃だって、ちょっと強引だったし」

 

 勝ったことに満足するより先に、自分の動きの粗さを省みる。それがエレノアのこだわりだ。教官が脱帽するのも無理はない。

 

 ちょうど稽古を終えたところへ、大股で歩み寄ってくる男がいた。華やかな衣装を身にまとい、胸にレオニス王家の紋章をあしらった男──宦官長カシムである。彼は普段、王と王妃の意向を取り次ぐ役割を担っているが、こんな調子でエレノアを探し回るのも日常茶飯事だ。

 

「姫様、またこんな場所に! 大事なお打ち合わせがあると申し上げていたではありませんか」

「お打ち合わせ? ああ、そんなこと言ってたわね」

 

 エレノアは木剣を兵士に返しながら、さして興味のなさそうに答えた。汗ばんだ額を拭い、少しうんざりした顔つきで付け足す。

 

「まさか、また“お見合いの話”とかじゃないでしょうね」

「どちらかというと、それよりもっと重大な話です。いいえ、重大すぎると言うべきか……」

 

 カシムは言い淀みつつも、どこか深刻そうな顔をしている。いつもなら「身なりを整えて」と口うるさく説教するところだが、今日はそれどころではないらしい。

 エレノアはわずかに訝しみながらも、カシムの後に続いて歩み出した。訓練場の兵士たちが一様に頭を下げて見送る。その背中に向かい、エレノアは名残惜しそうに手を振った。

 

 王城の奥へと続く石造りの回廊を抜け、エレノアは家族の集う謁見の間へと通された。そこにはすでに、国王である父と王妃である母、さらに側近たちが数人控えている。豪奢な椅子に腰掛けた父王が、申し訳なさそうな表情でエレノアを迎えた。

 

「エレノア、突然だが、隣国のエルヴァンス王国から正式な使者が届いた」

「使者、ですか? 今は隣国との外交も落ち着いていたはずでしょう?」

 

 エレノアは少し怪訝そうに問い返した。この時期に使者が来るというのは、単なる親善目的とは考えにくい。父王は苦い顔でうなずく。

 

「向こうから、ぜひ我がレオニスとの関係をより良くしたいと……そのために友好の証として、婚約を結びたいという申し出が来ておるのだ」

「婚約、って……誰と誰が?」

 

 まさかと思うも、答えは既に知れている。父王は視線を落とし、端的に言い切った。

 

「お前と、エルヴァンスの第三王子、レオンハルト殿下だ」

 

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