映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』(2021)の感想
映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』を映画館で観た。監督はケビン・マクドナルドで、イギリス映画(BBC制作)である。
公式サイトは主要キャストのインタビュー動画もあり、充実しているのでご覧いただきたい。
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの主犯をリクルートしたのではないか、という疑惑だけで、モーリタニア人のスラヒはグアンタナモ収容所に収監されてしまう。そこで、彼は14年間拘束され、数か月のあいだ、恐ろしい拷問を受けていた事実が明らかになる。この拷問のシーンは、フラッシュが何度もたかれるので、正視できないぐらいだった。おそらく、収容所で行われていた拷問が忠実に再現されたのではないかと思われる。
人権派弁護士のナンシー・ホランダーを演じるのがジョディ・フォスターで、この人物は何とも不思議な人だ。頭の切れる人で、冷徹な判断をする人物でもあるのだが、スラヒを励まし続ける、とてもあたたかい人でもある。人権派弁護士というのは、憲法や法律だけでなく、人間の善性も、信じているのだろう。
スラヒを起訴することが任されていた軍の弁護士ステュアート中佐はベネディクト・カンバーバッチも、アメリカの善なる人間として登場する。
本当の悪人は、ブッシュ政権の国防長官であるラムズフェルドだ。アメリカ軍に拷問を許可したのは、彼なのである。
今、何をしているのだろう、とWikipediaを確認したら、 2021年6月29日に亡くなったとあった。おお、マジか。悪事は闇に葬り去られてしまった。
10月18日は、同じくブッシュ政権の国務長官だったコリン・パウエルも亡くなっている。この人は、人間の善性を信じようとしている人だったと思う。
収監されているスラヒは、どんどん英語が上達していく。とても皮肉な描写でもあった。まあ、彼は優秀なので、10代で奨学金でドイツに留学しており、すでにドイツ語とフランス語が話せた。ドイツ語と同じ系統である英語をマスターするのはそれほど難しくはなかっただろう。
ただ、彼は起訴もされず、裁判も行われないまま14年間も収容所に拘束されていたのだ。アメリカによって奪われた時間はあまりにも長い。
そして、グアンタナモ収容所でいくら違法なことをしても、キューバなので、アメリカの軍人がアメリカの法律によって罪に問われることはない。
スラヒの弁護士であるナンシーは黒塗りにされた公文書を徹底的に読んでいく。もちろん、黒塗りで、何が書いてあるのか、さっぱりわからない。しかし、公文書は残っている。それがどれほど大事なことなのか、この映画を観るとよくわかる。
どこかの国は、公文書を破棄し、パソコンのデータも消してしまうらしい。こらから先、何かが起きても、誰も何も調べることができない。それを知っているにも関わらず、国民は野蛮な政府を容認してしまった。何をされても怒らない国民のほうが、よほど怖いかもしれない。
チップをいただけたら、さらに頑張れそうな気がします(笑)とはいえ、読んでいただけるだけで、ありがたいです。またのご来店をお待ちしております!