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ストロングゼロの誘惑

わたしは、アルコールに弱い家系の人間だ。

母方はほとんど下戸。父方の祖父は、アルコールが弱いにも関わらず深酒を続け、40歳で肝臓がんで亡くなっている。

だから、わたしも、アルコールを飲めば、飲み続ければ、確実に健康が蝕まれることはわかっている。

大学時代もお酒は断ってきたし、社会人になってからも、極力飲まなかった。飲めば頭痛やくしゃみに苦しむことになるのだから。

今、わたしは無職で、明日の仕事もない。誰かと会う予定もない。もし、二日酔いになっても、酩酊状態になっても、誰に迷惑をかけるわけでもない。

サントリーのストロングゼロは小説にも登場するし、薬物依存患者さんが好むものだと、Buzzfeedの記事で知っていた。

記事によれば、アルコール依存症(中毒)が自死の原因になっているらしいのだが、むしろ逆なのではないかと思う。死にたいから酒を飲むではないか。

酒を飲んだら、何も考えずに済むかもしれない。酒飲みにしてみれば、なんてことはない行動だと思われるが、500mlのストロングゼロと焼き鳥をスーパーで買って帰宅した。

どうにでもなれ、という気分であったのも確かである。

ストロングゼロのグレープフルーツ味の缶を開ける。驚いた。フレーバーの香りではなく、アルコールの匂いがした。アルコール消毒液と同じ。アルコール中毒患者は、消毒液もなめてしまう、という話を思い出した。さすが、アルコール度数9℃。

マグカップにあけて、飲み始める。ジュースみたいなもので、ごくごく飲める。焼き鳥を食べながら、飲み進めていく。全部は飲めなかった。おそらく、400mlは飲んだ。

そして、ある瞬間から、体が自由に動かなくなる。首が下がってしまう。立ち上がるのに時間がかかる。ふらついて、足元がおぼつかない。

あ、これが酔っぱらう、という状態なのか。酩酊状態にあたるのだろうか。わたしはベッドに倒れこみ、目を閉じるが、眠れない。ただ、麻痺した状態が続くだけで、気絶なような眠りはやってこない。

わたしは、深く眠りたかったのだと、そのとき、気が付いた。わたしにとって眠りとは現実逃避であり、どうしようもない思考を強制終了させてくれるものだ。

願いは叶わず、単に気持ちの悪い状態が続き、また、どうしようもないことを考えはじめてしまい、涙が出てきた。アルコールで理性がやられているのだと、もう一人の自分が思う。

わたしの知人にエスパーなんていないので、暗い部屋でうずくまっていたところで、誰からも、連絡なんて来やしない。

というか、わたし自身が気安く連絡できる人間ではないし、誰かに気安く連絡する人間でもない。人嫌いで、人を遠ざけて生きてきて、今も、誰にも頼りたくない。誰かに相談なんてしても、意味がないと思っている。自分の足で立たなければ、結局、立てなくなってしまう。

この考え方は、重要だと思っているけれど、自分で自分の首を絞めている気もする。

そして、わたしが今感じている「孤独」は、妄想である気もする。

誰にも必要とされていないとか、誰にも気にかけてもらえないとか、ふとした瞬間にそのような思いにとらわれる。

しかし、日曜日に業務メールが頻繁に来ることは果たしてよいことだったのか。これは仮定に過ぎないのだが配偶者や子どもの世話をして一日が過ぎていくことをわたしは望んでいるのだろうか。考えるまでもなく、答えは「否(いや)」なのだ。

「孤独」は、最良の友である。わたしは、わたしにだけ時間を使える。あまりにも恵まれている。樋口一葉や金子みすゞがわたしの暮らしを見たら、羨むはずだ。

ないものねだりではなく、自分の幸運をもっと噛みしめて、大切にしたい。わたしはわたしのためだけに生きていてもいいのだから。

そして、わたしが健康で元気でいることが、パワハラ上司に対する最大の復讐にもなる。

あんな奴に、わたしの人生をつぶされてたまるものか。(出る杭は打たれ、上司のご機嫌伺いだけがうまく、ほぼ何もしていない人が生き残るという不毛な職場。働く人間にフリーライドして搾取しやがって。ああ、腹が立つ)

わたしにとって「怒り」は毒であると同時に、生きる原動力でもある。

これがなければ、わたしの人生は動かなかったはずだ。だから、正直に言う。わたしは「怒り」が嫌いではない。ただ、付き合い方には気を付ける。「怒り」はカフェインや砂糖のようなもので、摂りすぎると人生を害する。ただ、「怒り」がなければ幸せだなんて嘘。あきらめることに慣れたくない。それは、死んでいるのと同じだ。

そして、今回の学びは、500mlのストロングゼロ、3本をハイペースで飲んだら、アルコールに弱い人間は、わたしは死んでしまうだろう、ということだ。

そして、酒を飲んでも、気分も、体も、楽にはならなかった。翌朝も、顔に強張りがあり、体が怠く、まぶたが重い。頭も痛いし、眠い。

ただ、この気分の乱高下は、まだ続くだろう。それを覚悟して、生活していこう。


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佐藤芽衣
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