映画『Tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』(2021)の感想
映画『Tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』を映画館で観てきた。この映画はNetflix製作で、すでに配信されているので、映画館に行かなくても観ることはできる。
ただ、ミュージカル映画なので、映画館で観たほうが、より臨場感を味わえると思う。
監督はリン・マニュエル・ミランダ。ミュージカル『RENT レント』のジョナサン・ラーソンの自伝的なミュージカル『Tick, tick... BOOM!』の映画化作品だ。
主人公のジョナサンを演じるのは、アンドリュー・ガーフィールド。30歳を迎えることを時限爆弾にたとえている。時限爆弾の針の音が「チックチック」で、爆発する音が「ブーン」なのだ。
(邦題がカタカナにしただけなので、ちょっとわかりにくいかなと思う。それが少し残念)
舞台は1990年のニューヨーク、ジョナサンはダイナーでウェイターのアルバイトをしながら、ミュージカルの脚本を書き、作詞作曲を続けている。取り組んでいる作品の『スーパービア』にはすでに8年かけているが、ブロードウェイでの上演の目途はまったくたっていない。
ジョナサンの友人のマイケルは広告代理店への就職を決め、年収1千万円超え、駐車場係のいる高級マンションで暮らしている。恋人のスーザンも、フリーのダンサーではなく、教師としてダンスの学校への就職を決めてしまう。ジョナサンは、周囲に置き去りにされているように感じ、30歳を目前にして焦っている。なんとか作品を目にかけてもらい、試聴会を開くことができるのだが、そう簡単に成功できるわけもなく…、という厳しい現実が描かれる。
試聴会は成功するものの、作品を上演しよう、というオファーはなかった。SF超大作なので、わかりにくいし、費用がかかりすぎる。
(この舞台化されなかった『スーパービア』は近未来が舞台で、人々はスクリーンに夢中で、富裕層の暮らしがスクリーンに映し出され、貧乏な人々が、金持ちの暮らしを観て生活しているのだという。これって、結構、現代を予見しているではないか。それもすごいなと思った)
8年もかけた作品がブロードウェイで上演できない。批評家にジョナサンは助けを求める。そろそろ、29歳も終わる。
「じゃあ、次にぼくはどうすればいいんですか」
「次の作品を書きなさい。この業界はそれしかないの」
と言われる。これは至言だ。作品が失敗しようが成功しようが、一つの場所に留まることはできない。次の作品を作るしかないのだ。
そのときのもう一つのアドバイスはこれだ。
「自分がよく知っていること、身近なものを作品に書きなさい」
ジョナサンはアドバイス通り、この映画の原作である『Tick, tick... BOOM』、ヒット作の『RENT』を作り上げる。
『RENT』はトニー賞とピューリッツァー賞を受賞するが、彼は前日のリハーサルを見ただけで、大動脈瘤破裂によって35歳で亡くなっている。
彼は自分が成功したことを知らない。だからこそ、『レント』は伝説的な舞台になったのだとWikipediaには書かれていた。
わたしたちは年齢に振り回される。もちろん、年齢によってあきらめなければならないこともある。しかし、やりたいことを年齢を理由にやめる必要はない。ジョナサンのように「普通の30歳だったら家を購入して、結婚して、子どもがいて、犬を飼っているのが人並みだ」なんて劣等感を覚える必要はない。わたしも悲しいことに、どれも持っていないが、実のところ、それに対する焦りはない。人間は、本当に欲しいものに対しては努力をするものだ。欲しくないから、手に入っていないのだと思う。
焦りは、やりたいこともやれていないことに対して感じている。努力できない自分だったり、労働に疲れ果てて、何もできなくなってしまったりする自分の体力のなさが歯痒い。
ジョナサンには才能はあった。ただ、時機を逃してしまったという感はある。人生は、本当にままらない。でも、みんなそうだよ、という気もする。
ジョナサンは、皮肉っぽいところが全然ない人で、卑屈にはなるが、嫌味なところはなかった。そこも、おすすめポイントだ。