出席簿を電子化するまでの道程
本校で出席簿を電子化し2年目になりました。
出席簿を電子化するまでの道程を残しておこうと思います。
出席簿の電子化に興味がある。
校務の効率化をしたい。
FileMakerを使ってみたい、教えてほしい。
このような希望がある方はぜひコメントをしてください。
私が学校に勤めだしたところから教務システムを作成し,出席簿を電子化するに至るまでの4年間をまとめますので少々長くなります。
出席簿の電子化を行いたい,業務の効率化を学校全体として取り組みたいと思われている方の参考になればと思います。
1年目・2年目:学校に勤めだして
大学院を卒業してすぐに現在の勤務校に勤めだしました。
就職した当時はEXCELを人生で一度も使ったことがありませんでした。連続データの挿入方法すら知らない程度でした。
最初の1年目は中学3年生の学年に入りました。覚えることも多く,部活も持っていましたので毎日をこなすことで必死で,業務の効率化などを考える余裕もありませんでした。
2年目に高校3年生の学年に呼ばれました。受験学年ということもあり忙しいと覚悟していましたが,部活を副顧問にしてもらえたため1年目に比べてかなり楽になりました。また,事務処理の鬼のような学年主任だったおかげで割り振られる業務が的確で余裕がありました。
余裕が出てくると学校のムダに目が行くようになりました。
もう少しうまいやり方があるんじゃないかと考えているうちにEXCELの勉強をするようになりました。
高校3年生の学年主任がEXCELに明るかったため,私がEXCELの勉強をすることを歓迎してくれました。おかげで半年ほどでかなりEXCELが使えるようになったと思います。
EXCELが使えるようになってくると作業の効率化に興味が湧いてきました。
学校にあるムダ
学校のムダの最たるものが出席の管理だと思います。
・担任が出席簿に出席状況を書き込む。
・授業担当が出席簿に授業名を書き込み出欠を確認する。
・授業担当が自身の教務手帳に出欠を書き込む。
・授業担当が学期ごとに教務システムへ授業の出欠状況を入力する。
・担任が学期ごとに教務システムへ出席状況を入力する。
・担任が学期ごとに通知表を打ち出す。
・担任が要録に出席の記録を記載する……
このとき,授業担当の出欠の把握と出席簿に記載されている内容,担任が把握している出席状況が必ずしも一致しないという問題があります。
殆どの生徒にとっては1日や2日のずれは大した問題ではありません。本校の場合,通知表を見て授業担当の入力の誤りが発見されることがよくありました。
多欠生徒の出欠の把握はシビアな問題です。どの授業をあと何回休むと単位が認定されないということを正確に数えなければなりません。
欠席が嵩んできた生徒が出ると,出席簿を開き,EXCELに1打ちをしながら数えるというのは気の遠くなる作業です。
また,学校の制度としても無駄がありました。
出席簿とは別に,学年単位で欠席・早退・遅刻が何人いるかを教務部に報告し,誰がどういった理由で欠席しているかを保健部に報告しなければなりませんでした。
さらに地獄のようなことに,保健部への報告EXCELシートが学年ごとに微妙に体裁の違うものを使っていました。コピペを続けてきた秘伝のタレ状態になったEXCELだったのです。元はうまく作られていたであろうEXCELも使い古される中で関数が壊れていき,集計を手打ちしているといった具合でした。
高3の冬:FileMakerとの出会い
受験学年はたしかに大変ではあるのですが,一方で終りが見えているため余裕もあります。冬頃になると受験の目処も立ってきたので,この学校全体のムダをどうにかできないものかと真剣に考え始めました。
学校全体となるとEXCELでは力不足なのでデータベースソフトを勉強しようという気になり,ACCESSに手を出しました。しかし,ACCESSが思ったように使えずに早々に挫折気味になりました。
勉強の相談をしようと思い,エンジニアのいる部署に相談に行きました。当時本校には2人のエンジニアが在籍していました。
相談をするとACCESSよりFileMakerの方が初心者には楽だから試してみたらどうかと提案をされました。どうやら過去にFileMakerを導入しようとしたけれど結局使わなかったという経緯があったようで,ライセンスが浮いていたのです。
FileMakerの本を3冊ほど読むと一通りの使い方がわかりました。
ここで,出席簿を電子化しようという気持ちが大きくなってきたのです。
出席簿の構想
出席簿を電子化するにあたってどのようなものにするのかを考えてみました。
・担任が終日の状況を入力する。
・授業担当が時限ごとの出欠を入力する。
・教務部が発表する時間割が入力される。
・これにより誰がどの授業をいつ受けたかが記録される。
当時考えた方針はこんなものでした。
ネックになるのが時間割であると考えました。というのも,本校は120名ほどの教員がおり,どの教員も18コマ以上持っているのが普通の状態です。すると出張や年休のために時間割変更が多数出ます。どのクラスで見ても1日中時間割通りということはなく2割程度は変更されています。
ですので,時間割について詳しくならなければならないと思い,教務部に相談に行きました。
1月:教務部長に目をつけられる
教務部に出席簿の電子化をしたいから時間割について教えてほしいと何度か頼みに行っていると教務部長に目をつけられました。
ある日,教務部に呼び出されて「データベースを勉強しているのなら教務システムを作れるんじゃないか」と詰め寄られました。
実はこのとき長年使ってきた教務システムを新しいものにするという計画があったのです。元号が変わることに対応していない,WindowsXPを使っている,保守が切れるなどの理由がありました。
教務システムは成績と出欠を入れることができ,それを取り出して調査書や要録に反映できればいいだけのものです。
ですので自作してできないものではありません。しかし市販品を買うとなると云千万円します。しかも市販品は多機能であるがゆえに使い勝手が悪いです。
週に何度か呼び出され,教務システムに必要な機能についてミーティングを重ねました。その結果,教務システムの自作は十分に実現可能であるという結論に至りました。
2月:教務システムの作成
教務システムではデータの保存と取り出しをFileMakerで行い,データの編集や収集はEXCELで行うことにしました。
FileMakerから授業ごとの成績処理ファイルの元となる名列を出力し,EXCELを使って各教員にデータを入力してもらうことになりました。
このあたりの技術的な内容についてはFileMaker関係の記事で紹介しています。FM2~8です。
細かなルールづくりとFileMakerの作成,EXCELの作成を同時並行で行っていきました。
1月を半分過ぎセンター試験が終わったあたりから,受験指導の裏側で教務システムの作成を行っていきました。
2月には「次年度の保守契約は切ったので,4月から君の作った教務システム一本で行くよ」というプレッシャーを教務部長から受け,泣きながら必死にFileMakerとEXCELの勉強をしたことを覚えています。
教務部1年目:教務システム運用
教務システムに手を染めているので当然の流れではあるのですが,翌年度からは教務部の所属になりました。
教務システムのお披露目は定期考査です。定期考査が始まるぎりぎりまでEXCELの使い勝手の向上やルールづくりを行いました。
定期考査が始まってからは成績処理ファイルに欠陥がないかヒヤヒヤしながら過ごしたものです。
新しいものに否定的な人はどこにでもいるもので,成績処理ファイルについての苦情もたくさんもらいました。
ときには職員室の真ん中で怒鳴りつけられるようなお叱りも受けたものです。
多くの意見を聞き,取り入れられるものは取り入れていき,成績処理ファイルは徐々にいいものにとなって行きました。
多くの教員から以前のシステムより楽になったというお言葉もいただけるようになりました。
教務システムと並行して調査書と要録,通知表のシステム作成も行いました。特に調査書の作成は5月ごろから行いますので,急いで作る必要がありました。幸いにしてこのときの高校3年生の学年団と私の関係がよかったこともあり,グダグダしたところが多くありましたが協力的にことが進みました。
前述しました出席の報告を保健部と教務部に別々に行うというムダをなくすシステムの作成をFileMakerで行いました。
1台のパソコンをつけっぱなしにし,FileMakerのホストコンピュータとしました。そこへ各学年の担当の先生がFileMakerでアクセスし出席状況を打ち込むというものです。
小さなシステムでしたので特に大きな反発もなく受け入れられました。
定期考査のたびに成績処理ファイルはうまく動くだろうかと心配し,調査書や要録,通知表の作成やマニュアルの周知,不具合への対応やクレームの受付…… 就職してからもっとも多忙で負荷のかかった半年を過ごしました。
秋になり,ある程度システムが落ち着いてくると,出席簿の電子化をしたいという欲求が再燃しました。
教務システムの作成を通してレベルアップを果たしたので,今なら作れるという自信もついてきました。
出席簿の電子化にあたり,EXCELで作る案やOffice365を使用する案,ACCESSを使用する案もありましたが,安定性と作りやすさを鑑みてFileMakerで作成することが決まりました。
同時にアクセスするであろう人数やシステムの規模を考えるとパソコンをホストにする運用では無理があるのでサーバーを建てるということが方針づけられました。
金銭上の問題
しかしここで今までになく大きな問題が立ちはだかりました。お金です。FileMakerServerの導入,ライセンス費用,新規サーバーの購入を合わせると数百万円になります。
部長から「出席簿だけではこの金額を出すことができない。もっと多機能で役に立つものでなければならない」という指示が出ました。
そこで学校内のムダを徹底的に洗い出すことにしました。
・年休等が紙で管理されていてスタンプラリーが必要
・出張も同じくスタンプラリーが必要
⇒ 紙でのスタンプラリーなので情報の回覧が遅い。
不在の把握のための一覧表が複数の部署でばらばらに作成されている。
・公欠は担任→学年主任→教務部長→部活の取りまとめ→……とスタンプラリーが非常に煩雑。
・保健関係の情報が保健室でのみ把握されている。
特に年休等と出張関係での管理職の負担が大きいことがわかりました。
ですので,出席簿と不在の管理の2つを目玉として推すことでFileMakerServerの構築の許可を取り付けることになりました。
これらの技術的な内容はFM9~17で掲載しています。
最終的には生徒の情報がひとつのデータベースに集約されることを目指しました。
教務システムを作成したときは違い,半年以上の時間をかけてゆっくりと納得行くまで作り込んでいくことができました。
教務部2年目:校務支援システム運用
2年目の春から校務支援システムの運用が開始しました。
出席簿は次のような仕様になりました。
・朝,担任が終日の状況を入力する
・日中,授業担当者が学年・組・時限・授業を選択し,出欠を入力する。このとき担任が「欠席」と入力した生徒は自動的に「欠課」となる。
・夕方,担任が出席簿の完成状況を確認し,不足があれば入力する。
なお,これらの作業はパソコンからのみならず,スマホからも行える。
紙の出席簿を使用していたときは,物理的に1つしか出席簿がなかったため分割授業では出席簿が手に入らないということもありました。前の授業の先生がすぐに出席簿を返却しなかったために授業前に出席簿が手に入らないということもありました。
しかし,パソコンやスマホから入力できるようになったためこれらの問題はすべて解決したのです。
すると,担任は朝に終日の状況を入力し,夕方に開けば出席簿は完成している……はずでした……。
方向性は良かったと思うのですが,教員はそれほどマメではありませんでした。現実には夕方出席簿を開くと歯抜けどころか入っている授業のほうが稀である。すると紙に比べて入力の手間が増えてしまう。
また,一覧性が悪いためにチェックが大変などの問題が多発しました。
一覧性に関しては出席簿を紙で打ち出すなどの補助を行い,チェックに慣れてもらうように努めました。
各授業の入力に関しては授業担当者に頼るのでは埒が明かないという結論に至りました。
その日の授業のベースの時間割を入力するボタンを作成しました。これは,時間割変更がなかった場合の時間割を自動的に入力する機能です。変更のあった部分は担任が手作業で入力し直します。これにより,授業担当者が入力していなかったとしても担任が入力する手間を少しでも減らすことができます。
その他の機能についても細々とした要望に応えていきました。
大変,大変多くのクレームを受けました。特に自身がACCESSなどを使える教員からのクレームは非常に厳しい内容のものでもありました。
パソコンの苦手な教員でも使えるようにと考えられたUIはパソコンの得意な教員から見ると操作の応用性が低いものに映るのだと思います。
強い口調のクレームをたくさん受けましたが,年度の進むにつれて,欠課数のカウントが自動化されていることや,日数のカウントが正確であることなどの利便性に気づく教員が増えていったように思います。
応えられる要望にも可能な限り応えていったこともあり,年度終わりには好意的な意見が増えていきました。
挙げきれないほどの機能を追加しました。特に好評だったものは,出席簿を開くと誰がいつ保健室に行ったかが通知される機能です。
管理職からは回覧される書類の数が減ったと喜ばれました。
一方で最初に構想した出席簿電子化で実現できていない機能がありました。それは,時間割との完全な対応です。
このときはベースの時間割を挿入するボタンはありましたが時間割変更がどのようにされているのかを担任が手作業で確認し変更しなければなりませんでした。
出席簿と時間割の対応のためには,時間割作業を電子化する必要があります。時間割作業は紙で出力された全教員分のコマ割りに鉛筆書きで変更を書き込んでいくというものでした。
しかし,この作業には多くのイレギュラーが存在し,電子化が非常に困難なように思えました。
私が教務部に入り,マクロやFileMakerの勉強をしていると副部長が触発されてマクロの勉強をするようになりました。
この副部長がかなりのやりこみ気質なためにマクロを自由自在に使いこなすようになり,時間割の電子化を成し遂げてくれたのです。
教務部3年目:現在
今年から時間割も電子化されました。
これにより,「本日の予定時間割」ボタンをつくることができ,担任は朝出席を取りながらボタンひとつで一日の時間割を挿入することができるようになりました。
これにより,私が3年前に思い描いた出席簿の電子化が完全に成されたのです。
教務部に入る前数ヶ月で教務システムを泣きながら作り,1年目は怒鳴られながらも教務システムを運用し,2年目はクレームに挫けず校務支援システムを運用しました。
3年目の今年,いまのところ過去2年間のような大きな仕事はないのですが,新しい試みに挑戦したいという気持ちはあります。
コロナ禍で映像授業・WEB授業が一気に導入されたのでこれ関連でなにか仕事がないだろうかと考えてはいます。
校内でもほとんどの人に知られていないのですが,密かに今年から運用されている私作成のシステムもあります。
学納金システムです。生徒の学費などを口座から引き落とす依頼用データを作成したり,銀行から返ってきた結果から督促状を作成するなどのことができます。学納金システムは通常でしたら導入だけでも数百万,年間保守費用も数十万するのですが,FileMaker単体で動きますので,導入費用数万円で使用可能です。本校はもともとライセンスを持っているので1円もかからずに導入できました。
億単位のお金が動くシステムなので正直作りたくはなかったのですが,上からの期待に逆らえるはずもなく作成しました。
全銀データなどというものを扱ったことのある教員は日本広しといえども私だけ(とは言いませんが数えるほど)なのではないでしょうか。
業務を効率化したい方へ
最後に業務を効率化したいと思っている方への応援を書こうと思います。
業務の効率化を行うシステムを作ることは,楽しく,やりがいがあることです。
新しい技術が手に入っていくのは快感ですらあります。
業務の効率化の最大の難所は,その作成したシステムを他人に使ってもらうところです。
自分一人が使えるシステムを作成することに比べ,他人が,それも多くの人が使用するシステムを作成することは困難です。
マニュアルと作っても読まれず,想定外の操作を行う人が必ずいます。
どれほど心を砕いて作ったとしても文句を言う人も必ずいます。否定的な意見ほど耳に大きく響くものです。
しかし,一方でいいものを作ったのですから,当然肯定的に受け止めてくれている人もいます。
人は他人を褒めることが苦手です。肯定的な意見はなかなか届きません。
自信を持って「このシステムどう?」と聞いてみてください。きっと,多くの人は「おかげさまで楽になりました」と言ってくれるはずです。
学校というところは何十年と変化なく存在する場所です。
効率化できる部分は多くあると思います。
私のこのnoteが少しでも,効率化への勇気となればと思います。
多忙さを減らし,生徒にかけられる時間が1秒でも増えることを願っています。