普通

久しぶりに橋本紡の小説を読んだ。
やっぱりこの人の書くお話が好き。

私は普通のお話が好き。

戦争もタイムスリップもない。
宇宙にも行かないし魔法も使えない。
海賊王を目指すこともしない。
本能寺で自害もしない。

何の変哲もないお話。
どこにでもいる普通の人のお話。

そういうお話が読みたい。

恋や苦悩や青春。
誰も気に留めないような小さなもの。
でも誰もが一度は経験するもの。

ちっぽけでくだらなくて美しくて尊い。

未解決事件を追うジャーナリストでも
殺人事件を解決する旅館のおかみさんでも
スクリーンから飛び出してきた白黒の美女でも
夜の京都を練り歩く黒髪の乙女でもないけど。

お父さんとお母さんがいて
お姉ちゃんとおもちゃの取り合いをして
おじいちゃんとおばあちゃんに可愛がられて
勉強もスポーツも人並みに出来て
クラスで5番目くらいに人気の子に恋をして
高校も大学もそこそこの所を卒業して
そこそこの企業に就職して働いて
幼馴染と結婚して
可愛い子を産んで育てて
老後は静かに過ごして
子供と孫に看取られる

そういうごくごく普通の人生。
世界中が涙するような大恋愛もない。
世界中が笑うような大失敗もない。

それでも当たり前に泣いて笑って悩む。
当たり前に片想いも失恋もする。

それがたまらなく愛しい。
普通が一番難しい。

だから普通の人の話が好き。
何もないように見えてとても面白い。

そういう話を書きたい。

ごく普通のサラリーマンの人生とか。
ごく普通の主婦の生い立ちとか。

いつか書いてみよう。

それはきっとすごく普通で
すごく面白い。

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