ガーベラ
すべてのことにはいつか終わりが来る。
あたしのお城はたった半年でなくなった。
第二のお家みたいなあの店ももうすぐ誰もいない空っぽの箱になる。
あたしの人生も、彼との関係も、この気持ちも、いつか終わる。
寂しい。
夕焼けのピンクと紫を混ぜたみたいな色が好き。
朝焼けの光のオレンジも好き。
意味なんてわからないままあやふやに歌う洋楽も、歌詞を見て泣きそうになるラブソングも好き。
お風呂でただひたすら自分のために歌う時間も、あなたのことばっかりで埋め尽くされた頭の中も、ベッドに潜ってこんなことを書いている今も、愛おしい。
海や空や街の風景やご飯の写真ばっかりだったフォルダが肌色と笑顔と酒で埋め尽くされて、真顔で目を大きく見せる為だけの顔をした自撮りが、大好きな人たちとぐちゃぐちゃに笑って遊ぶ写真と動画になった。
なんて幸せなんだろう。
空を見上げることも朝日の美しさに気づくこともなく、誰かの目を見つめている。
家にいる時間より酒を飲んでいる時間が増えて、ひとり遊びの仕方なんて忘れて、携帯とにらめっこしてる。
なんて寂しいんだろう。
これでいいんだろうか。
一人だった頃の倍の金額を稼いでも遊びと酒にお金を溶かしてるせいでいつまでたってもお金がなくて、また稼ぐために身体を売ってる。
なんとなく、で生きてる。
嫌なことから逃げて、面倒なことを放棄して、汚い部屋で楽しいことだけを選んで息をしてる。
別に悪くはないと思う。
幸せでもあると思う。
ただ、軽蔑されるとも思う。
普通に働ける身体も時間もあるのに、手っ取り早いからってだけで身体を売って病んでる。
嫌な思いをして稼いだ大事なはずの大金をたった一ヶ月の飲み代に使う。
醜いはずのこの身体をましにする努力すらせずに好きに食べて寝て病院にも行かずにいる。
色んなことから逃げ続けて外面だけを整えてる。
よくはない、よな。
わかってはいる、けどな。
面倒なんだよな。
別に生きたくないんだもん。
いや、違うか。
生きたい、けど、面倒、なんだよな。
なにもかもが。
丁寧な生活とかありふれた幸せとか今更あたしには無理だって知ってる。
そんなもの望んでない。
どうなりたいかも分からない。
みんなきっとそんなもんだよって言われたらそうかもしれないけどね。
それでもみんな生きてるし。
みんな掃除をして飯を食って洗濯して働いて、恋をしたり遊んだり笑って泣いて生きてる。
すごいな。
死にたいとも生きたいとも思わないけど、死ぬ事を考えるのも面倒だからとりあえず、で生きてるあたしはどうしたらいいんだろう。
まあいっか。
そんなことを考えるのもめんどくさい。
ひとまず働かなきゃ。
あの人と付き合えるのはきっとまだ先だな。
部屋を片付けないと。
そろそろ洗濯もしないとまずいな。
月末の旅行の計画も立てなきゃ。
そうやって生きていく。
やっぱりあたしも生きたいみたいだ。
別れも終わりもこの先きっと沢山あって、泣くことも怒ることも山ほどあるだろう。
あたしのことだからもう嫌だって全部投げ出してまた逃げたりもするんだろう。
でもそうやって特になんの取り柄もないあたしもその他大勢の人と同じように普通の人生を歩んで死に向かってく。
人生なんてそんなもんでしょう。
ノスタルジックな気分になったり前向きにガシガシ未来を切り開いてみたり、後戻りしたりして今日が終わって、一年が終わる。
ライフイズビューティフルなんてよくいうけど、ほんとはいろんな感情と経験と記憶が交じり混じって真っ黒なんじゃないの。
でもその黒にラメをぶっかけられるくらいには人生楽しんでみたいね。
死ぬときに答え合わせしましょう。
それまでは何色だって引っ掴んで取り込んで混ぜていってやるよ。
ヤニで黄ばんだ歯を思いっきり見せて笑いながら、スキップでもして死にに行こう。
道のりはきっとまだ長いはずだから、別れを惜しむ時間はまだ沢山あるから、寝てばっかいないで起きて色んなものをこの目に見せてあげよう。
今日も一日。気合い入れていこう。
大好きなあの人からの返信なんて待ってないで、寝てる人たちを気にしてないで、起きてるあたしが一番パワフルに行こうぜ。
視界の端のキラキラの天使が拍手するくらい頑張っちゃうんだから。
見てなよ。昔のあたし。
なーんにも目標とか計画なんてないけど、こっからまだまだ幸せになれちゃうんだからね。
泣くなよ。
死ぬなよ。
お得意のピースサインで笑っていこう。ね。