拝啓、

海の前の人工的な丘。
幅の広い川に架かる橋。
月と街灯に照らされた静かな夜の公園。
線路下に垂直に通るトンネル。
それを上から見下ろせる私だけの場所。

私だけの思い出。

バイト先への近道。
帰り道の川沿いの桜。
峠のてっぺんから見た田舎の夜景。
誰も気に留めないような工場夜景。

音楽を聞きながら歩いた道。

思い出すと昔の私はたいてい一人だった。
そうでない時もあったけれど、一人の時間が大事だった。
楽しかった。一人が好きだった。
誰かと笑い合う人たちが少しだけ羨ましかった。

不安と絶望と怒りでぐちゃぐちゃになりながら、悩み苦しんでいたあのときの私になにか言うとしたら。

大丈夫だよ。永遠には続かない。いつか終わる。
あなたは自分で自分を救える。
思いもよらない方法で。突然に。

けれど、逃げることだけを考えてはいけない。
その先で何がしたいか、ちゃんと考えて。

欲望のままに生きていてはいけない。
あとで必ず後悔する。また辛くなる。

自分を苦しめないで。

でも、あれこれ考えすぎないで。

楽しんでね。

そう言うだろう。それでちゃんと伝わるだろう。
安心して眠れるようになるかな。

昔の私はもっと幸せな未来を夢見てた。
今の私なりの幸せは今もう充分にここにある。

けれど、何かが違う。

こんなはずじゃなかった、とどこかで思う。
もっとちゃんと自立できているはずだった。
もっとちゃんと生きているはずだった。

時間を無駄にしていないか。
体力や行動力を無駄にしていないか。

永遠じゃない。楽しいときも辛いときも。
すぐに終わりは来てしまう。
すぐに時は過ぎてしまう。

今しかできないことはないか。
今できることを後回しにしていないか。

ちゃんと生きているか。

ちゃんと生きれているか。

未来の私。頑張れよ。楽しめよ。

楽しい人生だった。満足だった。
そう言って死ねるように。

もう一回この人生を歩みたい。
そう思えるくらい充実させろよ。

私しか私にはなれないんだから。

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