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堀川炎 『野火』

SCOT SUMMERシーズン2024にて、まずは『野火』を観劇。

『野火』は映画では観たことがあったが、原作は小説だったはず。戯曲も….存在するのかッ!?と一瞬思ったが、クレジットにテキストレジとあるので、演出の堀川さんが大岡昇平による小説を今回用に台本として整理・構成されたのだろう。

テキストレジ<(仏)text regie>とは、台本の台詞の追加や削除、またはそれらを台本に記入する作業のことです。テキレジとも呼ばれます。

映画は2014年だから、もう10年も経つのか…

あらすじ

一応、粗筋をおさらいしておこう。

舞台は、日本の劣勢が決定的となった第2次大戦末期、フィリピン・レイテ島…。肺病を患った日本兵は、わずか数本の芋を渡されて中隊を追い出され、さらに野戦病院からは食糧不足のために入院を拒否される。飢えと敵におびえながら、野火の煙が立ち上る原野をさまよい歩く日本兵は、律しがたい生への執着と絶対的な孤独の中で、かつて棄てた信仰に目覚めはじめる。ところが目の当たりにする現実は、ことごとく彼の望みを絶ち切り、精神は極限状態となる。やがて共存している顔見知りの兵隊たちと再会するが、その事実は日本兵にとって受け入れがたいものであった。

当時を振り返り、真実をひとつひとつ思い出すとき、次第に彼は狂人と化していく。平凡な一人の男の異常な戦争体験をもとに、殺人、人肉嗜食、信仰、そして戦争とは何かを問いかけ、人間の思考と狂気をえがく大岡昇平の物語。

戦争文学の代表的名作である本作の演出を堀川炎、主演は、多数の舞台に出演し圧倒的な存在感で魅せる永井秀樹。堀川炎、永井秀樹が創りあげる、唯一無二の一人芝居。

https://toyooka-theaterfestival.jp/program/9076/

演出ノート

こちらはWebには掲載されていない…?かもだが、現場で配られたのでここにアーカイブしておく。(過去参加した時のものも取っておけばよかった…)

"死者は今でも戦争を伝えようとしている"とは、ハッとさせられる言葉である。

今回驚くべきは、この内容が一人芝居になっているということだが、この暗く苦しい物語の緊張感を一人で持続させるのは並々ならぬことだ。先日、アンドリュー・スコットによる一人芝居『ワーニャ』を観ても思ったが、1回のみならず、何度も上演するその気力やすさまじいことだ。

しかし、今回の場合、一人芝居であることが果たして成功していたのか…それは自分には分からなかった。戦場の狂気と田村の狂気を重ね、「世界は病院である」という鈴木的思考に近づいて、田村以外の登場人物は田村の妄想や幻影であるかのように表現するといったこともできただろうし、鈴木版『シラノ・ド・ベルジュラック』のように、その妄想を他の役者に演じさせる選択肢もあったはず。

芝居の演出というものの可能性とその地平について、素人ながら思いを馳せる機会となった。


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