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【めぐるめくトーク Vol.4】ウニが海を砂漠化させる? 富山から日本の海の未来を救う!
農と食がめぐり続ける、やさしい世界をつくる。」をビジョンに、地域のタベモノヅクリ(※)の持続可能なチャレンジの循環を目指して活動している、めぐるめくプロジェクトが贈るトークイベント「めぐるめくトーク」。
今回は、山辺英生さん(株式会社サンシャインエンタプライズ)、角裕太さん(一般社団法人とやまのめ)、中木康晴さん(富山県立氷見高校)、元起大智さん(一般社団法人GREENspearfishers)の4名が登壇。
「富山から日本の海の未来を救う」をテーマに、日本各地の海で問題視されている「磯焼け」について、最前線で課題解決にチャレンジする登壇者に活動の紹介をいただきました。
後半では4名によるパネルトークも実施。「企業や一般人でもできる海の問題への関わり方」について意見を交換しました。
※タベモノヅクリ:めぐるめくプロジェクトで定義している「食の生産・加工」を表す言葉。食べ物+モノづくりの造語。
登壇者のご紹介
山辺 英生さん|株式会社サンシャインエンタプライズ(サンシャイン水族館運営)事業企画部 次長
青森県弘前市出身。ワシントン州立大学動物学部を卒業後、2005年に㈱サンシャインエンタプライズに入社し、サンシャイン水族館(当時はサンシャイン国際水族館)にて主に海獣類の展示飼育担当として勤務。
2013年よりしながわ水族館勤務となり、鯨類を含む海獣類の展示飼育を担当。2017年より飼育部門を離れ、事業企画担当として勤務。
現在、事業運営や開発に関する諸業務を担当しつつ、野菜の水耕栽培と魚の養殖を組み合わせた農法「アクアポニックス」の研究と情報発信を目的として、青梅市の一般社団法人「Iwakura Experience」と連携して活動中。
角 裕太さん|一般社団法人とやまのめ
富山県出身
Iotの現状、小売の状況、消費者ニーズ、市場等を独自に調べ、農業の未来を創る事を決意し、2022年1月呉羽株式会社を設立。
祖父が使用していた土地を引き継ぎ、ミニトマトが嫌いな3名で全国のミニトマトを30品種食べ比べし、1番感動した品種、栽培方法をベンチマークし、呉羽キャンディという商品名でミニトマトを栽培し販売を展開中。
現在は一般社団法人とやまのめにてウニとやさいクルプロジェクトを担当。規格外のミニトマトを駆除ウニへ提供し、地球にやさしいウニをつくる。
中木 康晴さん|富山県立氷見高
富山県出身。
平成2年より前任校有磯高校漁業科、現在は氷見高校海洋科学の教諭として勤務。昨年より県栽培漁業センターの施設を活用し、ウニの駆除、畜養に生徒とともに取り組んでいる。
元起 大智さん|一般社団法人GREENspearfishers 理事
富山県出身。
魚突き・サーフィン・山岳スキーなどの自然遊びをきっかけに、2年前から富山県朝日町の海を中心に海岸海中清掃・磯焼け問題に取り組む。正解が不明確な磯焼け問題に対し、富山県水産研究所・魚津水族館等と情報を共有しながら海岸との関わり方を模索している。現在は、株式会社ウニノミクスと協働し、食味が非常に良いウニ蓄養工場の誘致を進めている。ボランティアでウニを間引くだけでなく、それらが経済的に循環することで、持続的にウニが間引かれていく仕組みの構築を考えている。そしてそれと同時に、素潜り能力を有する一般市民がその循環に参加できる体制を目指す。
日本全国の海では何が起きている?
そもそも磯焼けとは一体なんなのでしょうか? サンシャイン水族館で事業運営や開発に関する業務を担当する山辺英生さんが磯焼けのメカニズムについて説明します。
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磯焼けは、「浅海の岩礁・転石域において、海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」と定義されています。季節の変化によっても海藻の群落が減ることはありますが、磯焼けの状態になると季節の変化や長い時間経過を経ても海藻が元に戻らなくなってしまうのです。
海藻や海草は魚の産卵場や餌場として利用され、水質浄化機能も備えています。長く続くと魚が獲れなくなってしまうことも考えられます。磯焼けが続くことで、人間がダイレクトなダメージを受ける可能性もあります。
磯焼けは海藻を食べる生き物による食害、水温や海流、栄養塩の変化、公害による影響などさまざまな原因が指摘されています。海藻を食べる生き物による食害のそもそもの原因は地球温暖化であると山辺さんは語ります。
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山辺さん「本来なら冬に海水温が下がり、ウニや魚の動きが弱くなることでバランスを保っています。地球温暖化によって海水温が上昇すると、海藻は生えにくくなり、逆に海藻を食べるウニや魚は活発になります。冬になっても海水温が下がらないと、海藻の量とウニや魚の食べる量のバランスが崩れてしまうんです」
磯焼けが起こってしまう悪循環から抜け出すために、ウニを駆除している地域や海藻を植えて人工的に藻場を造成している地域も。さまざまな対応策があるなかで、わたしたち一人ひとりができることについて山辺さんは語ります。
山辺さん「関係人口を増やしていくことが大切だと考えています。磯焼けを知り、今日本全国の海で何が起きているのか、なぜ起こっているのかをまず知ってほしいです」
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廃棄野菜をウニの餌として再利用!
一般社団法人とやまのめに所属し、ミニトマト農家を営む角裕太さん。自らが美味しいと感じるミニトマトの品種に「呉羽キャンディ」と名付けて、生産・販売をしています。美味しいものを作り、付加価値としてワクワクを伝えたいという想いのもと、イベントなども精力的におこなっています。
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「呉羽キャンディ」はフルーティーで果物のような品種。収穫時期を見極めるのが難しく、熟しすぎて廃棄となってしまうものも。廃棄量はなんと1年で1.3トン…!配送をすると実が崩れてしまうほど皮が薄く、流通させにくいことも難点でした。
ロスになってしまうミニトマトのいい利用方法はないか悩んでいたところ、蓄養ウニ餌用の野菜の確保に困っていた氷見高校の中木さんに出会います。お互いの需要と供給が一致し、廃棄になってしまうミニトマトをウニの餌に利用することに。
この繋がりをきっかけに角さんは他の農家にも声をかけ、廃棄野菜を蓄養ウニの餌にする「やさいくるプロジェクト」を発足しました。まさに陸と海の問題を掛け合わせることで、双方の問題を解決できるプロジェクトです。
角さん「廃棄野菜が再利用できるだけではなく、海の環境に影響を及ぼすウニを蓄養してブランド化し、ベジウニという名前で商品化を進めています。海と陸の問題を掛け合わせて問題解決を目指し、新しい経済活動を目指しています」
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高校生が富山の海の問題に取り組む!
氷見高校の海洋科学の教諭として勤務する中木さんは、現在高校生たちと一緒にウニの駆除や蓄養に取り組んでいます。今回は氷見高校の高校生たちが磯焼けを解決するためにおこなっている活動について紹介します。
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富山県周辺の磯焼けは、10年以上前から問題視されてきました。ですが、まだ解決に至っていません。中木さんたちは何かできないかと考え、高校生とともに昨年からウニの蓄養に、今年から高校生自らウニの駆除にも取り組んでいます。
中木さん「最初はスーパーから出る廃棄野菜の白菜やキャベツなどを餌として利用し、餌によって可食部の色合いがどのように変わるのか試験を行いましたが、廃棄野菜には安定供給を受けられない課題がありました。そんなときに「やさいくるプロジェクト」に声をかけてもらい、ミニトマトと小松菜の廃棄野菜を安定的に手にいれることができるようになりました。
トマトを食べた後は赤い粒、小松菜を食べた後は緑色の粒などがウニの消化管から確認できました。料理人の方から意見をもらうことで改善を重ねて、商品化を目指したいです。」
ウニを駆除したあとの海では藻場が生え始めている傾向があります。また、駆除したウニの殻を乾燥して砕けば、農業向けの肥料としても利用することができるそう。
氷見高校には農業科学科があるため、ウニの殻を肥料として使えるのか効果も含めて実験しているそうです。
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中木さん「すぐに大きな成果は出なくても、高校生ができる範囲で環境問題に取り組むことに意味があると考えています。」
自然が好きだからこそ未来を考えた活動を
一般社団法人GREENspearfishersで理事を務める元起大智さんは、魚突きをはじめとする自然遊びをきっかけに、2年前から富山県朝日町の海を中心に清掃や磯焼け問題に取り組んでいます。今回は、富山県の磯焼けの現状や問題解決に向けた取り組みについて紹介します。
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元起さん「毎日海の中を見ることで、海藻や魚の量や水温など海の変化を実感します。漁師さんと協力して海をより良くしていきたいという思いで活動しています。」
富山県の水産研究所のデータによると、海藻であるテングサが減り、ウニなどの海藻を食べる生物が増えているというデータも。元起さんも富山県朝日町の地域おこし協力隊の一人として、磯焼けについての調査も行っています。
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元起さん「磯焼けの原因は、これだと言い切ることができません。だからこそ少しでもデータを取って残すことが重要です。漁業者にも共有して、今海では何が起きているのかを説明して、一緒に問題を解決できるように働きかけています。」
魚突きをはじめとしてサーフィンや山岳スキーなどの自然遊びが好きな元起さん。海が好きだからこそもっと海を大切にするための活動がしたいという想いがありました。
元起さん「日本では国立公園に指定されている山は多いですが、海は少ないのが現状です。現在は漁業者が中心となって海を管理していますが、より多くの人を巻き込んで海の問題解決に向けた活動をしていきたいです。」
海の問題に対してわたしたちができること
登壇者4名によるパネルディスカッションでは、「企業や一般人でもできる海の問題への関わり方」についてさまざまな角度から議論を交わしました。
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まず、大きすぎる海に対して人間ができることについて、それぞれの立場から感じる想いを語りました。
山辺さん「私が働いている水族館で育てたサンゴを、沖縄県恩納村に養殖する活動を17年続けてきたという事例※があります。何もなかった場所に17年かけてサンゴが増えて、今では立派なサンゴ礁になっています。地球規模で考えたら小さいかもしれませんが、人間がみんな地球の環境を考えて活動したら、すごく大きな影響を生むのではないかと感じています。」
※サンシャイン水族館のサンゴプロジェクト
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次に、環境問題への興味を持ってもらうためにどのような働きかけをおこなっているのか、高校教員の立場から中木さんがこう話します。
中木さん「正直、海洋科学科に進学している学生だから元々海や魚に興味があるというわけではないというのが現状です。ただ富山県に住んでいると、漁獲されている魚の量や質が変化していることが分かるんです。目に見えて分かるような課題を認識してもらいながら、学生たちに参加してもらっています。」
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角さんは環境問題について取り組む中で「多くの人に知ってもらうこと」に問題解決の兆しを感じたといいます。
角さん「磯焼けや他の環境問題についても解明されていない部分がたくさんあるということも知ることができました。環境問題を少しでも認識する人を増やすことで、問題解決につながるんじゃないかと思っています。」
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元起さんは海の持続性を保つために必要なことについて想いを語ります。
元起さん「昔は海や山で遊ぶレジャーが活発で、そういうところから自然に対する興味が生まれていたと思います。海が人にとって身近であることも、海の持続性を保つ上で重要だと感じています。」
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中木さんからは、漁業に対する支援や漁業者の後継者不足の問題に触れながら、水産業の働き方や仕組み自体を環境に適応できる形に変えていく必要があると説明。それを受けて角さんからは、一次産業の今後として、商品の生産量を増やすだけではなく、付加価値をつけて商品を販売する重要性について言及しました。
最後に、「次世代に対して今を生きるわたしたちができること」をテーマにそれぞれの思いが語られました。
山辺さん「水族館の立場としては、子供たちに向けて少しでも興味を持ってもらうことを考えています。それが大人としての責務であると感じています。個人としては自転車通勤をしたり、なるべく旬のものを食べたり。すこしでも自分たちの食を支えてくれているものに興味を持つことが大切だと思います。」
角さん「同じように次の世代に繋げていくことが重要だと感じています。今はイベントをして、興味を持ってもらえるコンテンツ作りを意識しています。農業だけではなく、水産業も巻き込みながら、どういう魅せ方なら興味をもってもらえるかを考えていきたいです。」
元起さん「まずは自然に触れて、好きになってもらいたい。まずは何を持続させるべきなのかを肌で感じてもらうことが入り口になると思います。」
元木さん「こういったプロジェクトをおこなう上で、認知度をあげて問題を認識してもらうことも重要だと感じています。他の地域でもプロジェクトが立ち上がって、問題解決に向けた動きが始まればいいなと。」
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磯焼けをきっかけに産業の枠を超えて知り合い、プロジェクトを進めている4人。問題解決だけではなく、次世代に美しい環境を繋げるための方法を考える機会になっているようです。
今回のイベントが、会場に集まった参加者にとって環境問題に対して何ができるのかを考えるきっかけになることで、一人ひとりの選択が海の持続性を保つための一助になるかもしれません。
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