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「地域で動く人」の力強い言葉たち。三島食卓会議 後編

3月下旬、めぐるめく事務局は、山梨や東京で活動する方々3名と共に1泊2日で静岡県・三島市を訪れました。1日目から2日目の午前にかけては、フィールドツアーとして三島でさまざまな活動をしている方々を訪ねてまちを歩きました。(フィールドツアーについて、詳しくはこちらのレポートでお伝えしています。)

2日目の午後は、まち歩きですっかり三島のまちに魅了された訪問メンバーと三島の地域で活動する方々が集まっての交流会、通称「食卓会議」を行いました。

食卓会議とは…地域へのフィールドツアーや交流会を通じて、地域間の学び合いを生み出すプログラムです。地域内だけではなく、地域外からの多様なプレイヤーの関わりが、地域内に新たな食と農のチャレンジを生み出す循環につながることを目指しています。

今回のレポートでは、地域内外の交流会の様子をご紹介します。当日は、お互いの地域でのチャレンジを共有し合いながらそれぞれの言葉に刺激を受けた3時間となりました。 


居心地の良い「まちづくり」とは

今回の会場は、NPO法人みしまびとが運営している「みしま未来研究所」です。「地域の未来をつくる人が集える場所をつくろう」という想いのもとに、市立中央幼稚園だった建物をリノベーション。80種類以上のクラフトビールが飲める「Cafe &Bar Blooming」やレンタルスペース、コワーキングスペースが併設され、2019年1月にオープンしました。

 昼過ぎに続々と集まってきた三島の方々と合流し、食卓会議のスタートです。まず初めに、事務局の広瀬、田口から、「めぐるめくプロジェクト」の紹介と三島食卓会議の趣旨をご説明。


広瀬「めぐるめくプロジェクトは、地域や生産者・消費者といった枠に留まらないコミュニティを目指しています。私たちが意識しているのは『ふたつのループ』です。ひとつは、地域内でまだ出会えていない人たちとの繋がりのループを強固なものにしていくこと。もうひとつは、地域の枠を超えた繋がりのループをつなぐことです」

三島の方々から「どうして不動産の会社である三菱地所が、このプロジェクトをおこなっているのか?」という質問が飛び、田口がプレゼンテーションのなかでそれに答えるシーンがありました。

田口「東京・丸の内を中心としたまちづくりをしている我々が、どうして地域を応援するのかと、本当によく聞かれます。それに対して我々は『社会のなかの価値の軸が変わりつつあるから』とお答えしているんです。今までの資本主義では、お金が1番の価値とされてきました。ただ、現代は社会性や環境、個人の生き方などさまざまな価値のバランスが必要な過渡期です。『どうすればみんなにとって居心地の良い中心地になり、日本全体を元気にしていけるのか』を考え続け、東京・丸の内という都市部にいるからこそ、変えていく必要があると考えています」

エコッツェリア協会(一般社団法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会)の神田主税さんも、三島で食卓会議が開かれることに対して「僕自身も、コロナをきっかけに地域とつながり始めてから、多くのものが得られました。今回のつながりで、未来にさまざまなものが生まれたら嬉しい」と語りました。

他の地域からの訪問者たち

 地域の枠を超えた、地域間の大きなループを結ぶきっかけに、と今回の訪問に広瀬が声をかけたのが、東京・国分寺市と山梨・北杜市からの参加者です。

三島と同じように、まちのなかの小さい範囲のなかで生産地と消費地があり、地域内での地産地消が進められている地域。お互いの取り組みを共有することで、気づきや共感が得られるのではないかという思惑がありました。

南部良太さん|農業デザイナー(東京都国分寺)

最初にプレゼンテーションしたのは国分寺在住の南部さんです。国分寺は、江戸時代から野菜の生産地として発展してきたまち。南部さんが国分寺に住み始めた10年前は、家々のあいだに農地が残っている景色が気に入っていたと話します。しかし、時代の流れとともに宅地化。まちの風景が変わっていくことに寂しさを感じ、農業デザイナーとして農家の支援を始めました。そのなかで出会ったのが、国分寺の農畜産物の愛称「こくベジ」です。

「『こくベジ』を国分寺の飲食店で使ってもらおうというプロジェクトに参加しました。国分寺内で生産しているお野菜を、国分寺の飲食店が使う。とてもシンプルな話なんですけど、いざ始めてみたら“インフラ”がなかったんです」

せっかく同じ地域のなかにあっても、届ける手段がない状態。農家はわざわざ市場に卸し、飲食店はスーパーや業者から仕入れるという遠回りをしていたのです。そこで、南部さんが週2日、仲間と一緒に配達を始めたのが8年前。もともと3軒だった農家は、現在は170軒を超え、飲食店は100店舗が利用しています。

「僕らの目的は配達ではなく、まちと人をつなげることです。オリジナリティのあるまち、農ある暮らしを日常に届ける。生産者と消費者が、お互いの想いを交換することが「おいしさ」にもつながると信じています」

三島で同じように生産者と消費者を結ぶ活動をしている方からは「デザイナーとしての見せ方も含め、できることがたくさんあるんだなと学びになりました」とコメントも。今後も、お互いに情報交換していきたい、と盛り上がりました。

野瀬建さん|農家(山梨県北杜市)

目の前にある、ちょっと頑張れば解決できそうな課題に取り組むのが好きなんです。農業はその最たるものだと思っています。今回の機会をきっかけに、何か一緒に課題解決していけたら嬉しいです」

そう話し始めた野瀬さんは、福島県出身。茨城県の久松農園で研修を積んだのちに、山梨県北杜市で新規就農しました。高低差のある標高と、まわりを囲む大きな山々が特徴的な北杜市は、日本で一番日照時間が長いそうです。野瀬さんが北杜市に惹かれたのは「ゆるやかなつながりの美しさ」。移住者も元からの住人も、さまざまな関係性のなかで縛られずにつながる人々に居心地の良さを感じたと言います。

そのゆるやかさのなかで、野瀬さんが取り組んでいることはふたつ。ひとつは、少量多品目栽培が当たり前の有機栽培のなかで、品目を絞った有機栽培への挑戦。今回、三島で少量多品目を育てる生産者の畑を訪れて、それぞれのやり方について考えることができたと話しました。もうひとつが、地域の農家さんの経営改善のお手伝いです。新規就農者として、地域のことを教えてもらう代わりに、感覚的におこなわれてきた作業やスケジュールの可視化に取り組んでいます。

「今回、三島に来て改めて、外の人と喋ることで得られるヒントの大きさを感じています。もくもくと作業しがちな農家ですが、今後いろいろな視点を取り込んで自分の栽培に落とし込んでいきたいと思います」

北杜市に点在している尖ったプレイヤーをピックアップしたラジオ配信も計画しているそう。等身大の農家さんたちの発信が楽しみです。

会場には有機栽培に取り組む三島の生産者も参加しており、「とうもろこしの虫対策」「慣行栽培農家との地域内での住み分け」など、農家同士ならではの質疑応答もありました。

井上能孝さん|株式会社ファーマン(山梨県北杜市)

井上さんはご自身が農家であるのと同時に、農業を中心とした複数の会社を運営しています。

たまねぎやにんにくを中心に有機栽培に取り組む株式会社ファーマンの他、農福連携や環境保全に取り組むNPO法人、有機農業者向けの機材の貸し出し会社、東京へ野菜ボックスを販売する会社、2拠点生活の移住者に仕事を提供する会社など……。農業施設の建設や、廃校を活用したボルダリング施設、自身をモデルに開発した農業経営ボードゲーム販売まで、その幅広さに会場も圧倒されました。

「周りの人に喜んでもらうこと、驚かせることがとにかく好きなんです。若い時は農業一本で食べられていない劣等感があったけれど、今となってはそのスキルを使って周りの人たちに喜んでもらえているんじゃないかなって思います」

埼玉県出身の井上さんが有機農業を始めたのは24年前。18歳のときのことです。10年ほどはなかなか農業で芽が出ず、「好きで選んだ道のはずなのに」と苦しい思いをしたといいます。当時の自分が欲しかった、少量の野菜しか作ることができない農家のための共同出荷場も作りました。

「僕、百姓っていう言葉が大好きで、農家は100個の仕事をやっちゃってもいいんだよって言ってもらっているような気がして。たくさんの仕事をして視界を広げながら、深掘っていくこともできる。こんなに素晴らしい職業はないと思っています」

今後は水産業や林業にも活動の範囲を広げ、「日本の資源の礎になるような、農林水産業すべてにチャレンジしてみたい」と語りました。

三島で活動する人たち

続いて、三島で活動する方々のプレゼンテーションの番です。食卓会議前のフィールドツアーでお会いした方々も、この会で初めましての方々も、改めてこれまでの活動を伺います。

外岡賢大さん|富士伊豆農業協同組合

外岡さんは伊豆エリアをまとめる農業協同組合、一般的に「農協」「JA」と呼ばれる組織の職員です。そのなかで外岡さんが携わる業務は、地域の農家から野菜を仕入れてエリア内の飲食店や販売店に卸す業務、まさに国分寺の南部さんがおこなう「こくベジ」に近い業務です

<フィールドツアーで意気投合したおふたり。なかなか他では共感してもらえない「あるある」で盛り上がっていました。>

フィールドツアーにも同行してくださり、生産者さんたちとの深い関係を築いてきたことが伝わってきた外岡さん。実は「野菜嫌い」だった過去を明かしました。

「野菜にはほとんど手をつけない子どもでした。ただ、JAにいると農家さんが野菜を差し入れてくれるんですね。食べないとコメントができないので最初は仕方なく食べ始めたのですが、その野菜のおいしさに驚きました。とにかくどんどん箸が進むんです。そこから野菜が好きになったので、親がビックリしていました(笑)」

JA伊豆が地域の野菜を箱根など観光地の旅館に使ってもらおうと、この仕組みを始めたのが8年前だそうです。今では商工会議所との連携も盛んで、地域が一つになって三島の野菜を盛り上げている実感があると話しました。

「個人の飲食店さんが買う野菜の量は多くないので、この仕事は稼げるものではありません。でも、金額だけじゃ見えてこない部分もある。地域の人がつながって、みんなで三島の野菜の魅力を発信することはすごく大事です。おいしい野菜や食材があるのは、まちの財産だと信じて、信念を持って続けていきたいと思っています」 

宮沢竜司さん|箱根西麗のうみんず

フィールドツアーでも畑にお邪魔した、若手農家グループ「箱根西麓のうみんず」のメンバーは、それぞれ他の仕事をしていたところからUターンして家業を継いでいる人がほとんど。今回、プレゼンしてくれた宮沢さんもそうです。

「土に触りたくない。堆肥も臭い。泥だらけで汚い。家族がおこなっていた農業は、幼い自分には、到底かっこいいものには思えていませんでした。自分は絶対に農業をやりたくない、スーツを着て、東京でサラリーマンになるんだと思ってました」

千葉の大学に進学し、念願かなって東京で営業の仕事をしていた宮沢さんですが、怪我をきっかけに三島にUターン。12年前に家業を継ぐ形で農家となり、農協の青年部で出会った若者たちで「のうみんず」を結成しました。

最初は、それぞれの作物を持ち寄ってマルシェで販売するところから。当時から「ただ野菜を売るだけではなく、想いを伝えよう」と、地元スーパーに赴いての販売促進など、お客さまへの直接販売に力を入れてきました。

「自分たちは『箱根ファーマーズカントリー』という先輩集団に憧れて、のうみんずを始めました。けれど今、のうみんずの次の世代はまだ育っていません。農業人口の減少ペースが加速するなかで、自分たちにできるのは“かっこいい農業”を若者たちに見せることだ、と決めました」

<「かっこいい農業」を目指して作ったリーフレット。会場からは「バンドのジャケットみたい!」との感想が挙がるほどのクオリティでした。>

「のうみんずは三島に特化しているけれど、日本中で連携したら大きな動きができるのではないか」と、めぐるめくプロジェクトで生まれるつながりに対しても期待を語った宮沢さん。北杜市から来たふたりの話を聞いて「可能性にワクワクした。ぜひ北杜市も訪れてみたい」と話しました。

鈴木貴之さん|鈴木農園

鈴木さんは、三島でも数少ないフルーツ農家です。もともとキノコ農家だったご両親が、15年ほど前にフルーツ栽培に転換しました。当時はサラリーマンをしていた鈴木さんですが、フルーツを始めて数年後に家業を継ぐことを決意。試行錯誤を重ねながら、三島で唯一のマンゴーを栽培・販売してきました。

「果樹は育つのに時間もかかります。始めた当初は収穫量も少なく、知名度もなく、売り先もない。そこから少しずつ、個人のお客さまへの販路を増やしていきました」

そんな活動のなかで、鈴木さんが6年前から企画しているイベントが「三島mizumizuマンゴーをさらにおいしく食べる会議」です。7月の後半に時期を絞り、三島の飲食店で鈴木農園のマンゴーを使った料理を提供してもらいます。メニューは飲食店にお任せで、それぞれ特色のあるマンゴー料理やスイーツが並びます。初回は10店舗から始まったイベントですが、回を重ねるごとに参加店が増え、去年は22店舗にも上りました。

「三島に住む人たちですら『三島でマンゴーが育てられているんだ』と知らない方も多いです。まずは地域の人に魅力を知ってもらえたらと思い、飲食店の方々にご協力いただいています。地域の彩として、三島にもフルーツ栽培が根付いていったらいいなと思っています」

今年の夏も、第6回を開催予定だそう。地域みんなで応援しているマンゴー会議、ぜひ参加してみたいです。

平野光直さん|平野農産

就農して22年目の平野さんは、三島甘藷(みしまかんしょ)というさつまいもや、三島馬鈴薯などの根菜を中心に栽培しているベテラン農家。三島馬鈴薯は名物「みしまコロッケ」に使用され、さつまいもはセブンイレブンとタッグを組んで「おいものフルーツサンド」を期間限定で商品化しています。

 今回、平野さんが話してくれたのは「三島が行ってきた、つながりをつくる仕組みづくり」について。

 「今でこそJA伊豆が協力してくれ、直売所で生産者が野菜を直接販売できるようになりましたが、以前はそういった仕組み自体がありませんでした。そこで仲間たちと一緒に作ったのが、お客さんに直接届ける仕組み。今で言う、DtoCですね」

その仲間たちが、宮沢さんが言及していた、のうみんず結成のきっかけとなった団体「箱根ファーマーズカントリー」です。行政と一緒に企画した直売イベントは、農協や市場を飛ばした流通に当初は反発もありましたが、結果を出すことで認知されていったといいます。そこから、農協や商工会、メディアも含めて仕組みづくりを推進する「三島ブランド協議会」に発展。平野さんは農家代表として、三島の魅力発信の連携を働きかけてきました。

 「さまざまな人と関わってきて感じるのは、良い農協がある場所には、必ず良い生産者がいることです。今回、三島の農協をたくさん褒めてもらえていると言うことは、三島にはきっと素晴らしい生産者がたくさんいるのではないかなと、考えていました」

今後、発信力をつけてよりダイレクトにお客様とつながりたいと話す平野さんは、2年前からinstagram、facebook、Tiktokなどを始め、総フォロワー数は1万人を超えるそうです。外岡さんが「2年前までガラケーだったんですよ」と補足すると、会場からは驚きと尊敬の声が上がりました。

「社会の流れとして『何を買うか』から『誰から買うか』になっていると感じています。少しでも親近感を感じてもらい、自分自身が“推される農家”になれば、仲間も農協も、地域までもが推される農協になっていくと思います」 

お互いの言葉から見えてきた、ふたつのループ

南部さん「正直、ここまで『来れてよかった!』と思うとは想定していなくて。外の世界を見たり、他の方々の意見を聞くことが本当に重要だなと感じました。例えば、JAさんがこんなに動いている地域は見たことがなかったので、国分寺にも事例として持ち帰りたいです。自分たちのやっていることにプラスになる話がたくさんありました。三島に来れてよかったし、住みたくなっちゃったくらい!」

南部さんの言葉に他の参加者も何度も頷くほど、みなさん三島というまちに惚れ込んだようでした。北杜市から参加のおふたりも「別荘を買って、定期的に来たい(笑)」と話していました。

 今回、休憩中やイベント終了後、地域内外の人たちが名刺交換をしたり、円になって語り合ったりする姿が印象的でした。食卓会議の大きな目的だった、ふたつのループ——地域内のチャレンジの循環と、地域外からの関わりの循環——の芽が、少し顔を出したように思います。

人口減少に伴い、地域内のループは小さくなっていってしまうこともあるかもしれません。そんなとき、地域外とも支え合えるループがあることで、開ける未来もあるのでは、と希望が持てる食卓会議となりました。

「次は国分寺に!」「次は北杜市に!」

そんな挨拶とともに解散となった頃には、もうすっかり夕方になっていました。

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(めぐるめくWEBサイト)

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