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読書感想 |『まとまらない言葉を生きる』

先日私のお気に入りのラジオ『武田鉄矢今朝の三枚おろし』にて紹介された、著書『まとまらない言葉を生きる』を読んだ。

とっても気づきの多い、はっとさせられる内容でタメになった。自分の中でぼんやりながら持っている価値観というか疑問に対して

「こういう考え方は間違いではないんだ」

と自信をもらえた。

と先に言っておかないと、感想だけ書いていくとなんだかネガティブな印象になりかねない、と感じたから。

タイトル通りこの本自体が「まとまらない言葉」を扱っているだけに、特にまとまってない。おそらく著者もあえてまとめようなんて無理にしていない。

最近のビジネス書はとかく

分かりやすく
端的に
ポイントだけ
スパッと切れ味のよい言い回し

というのが多い、ように私は感じる。

どの本が…とかは特定しないけれど、200ページくらいあっても実際の内容は10分の1くらいで、読み応えがないなぁと感じてしまう本にたまに出くわす。

そういった最近の流行りとはテイストが違っているので、要約を探しながら読むというクセのままこの本を手に取ると、
(どこにまとめがあるんだ…)
と困惑する感覚があった。

そこでフラットな気持ちに切り替えて単純にこの本に書かれている内容を受け取るスタイルで読んでいったら、読み応えのある内容で楽しませてもらいました。

「言葉に救われる、ということ」

特に私が1番興味深かった部分は、終盤の「言葉に救われる、ということ」の章。

ここまでは著者が研究や関わってきた活動家の方のエピソードが展開されているのが、最後の章は自分自身の感想だったり想いが綴られておりとっても説得力を感じたから。

著者は「被抑圧者の自己表現」を専門にしている文学研究者で、特に障がい者運動に長きにわたり関わってきた。

この道を選ぶきっかけとなったのが大学の教育実習の課題として行なった福祉施設での実習での経験。

著者は当初教員になることを目指していたその教育実習の一環ではじめて知的障がい者の現場に触れて、
「きつかった、怖かったし、最悪だった」
という体験をした。

しかし、他の現場に実習に行った友人は皆
「楽しかった、皆優しかった」
といったポジティブな印象を持っていることを知る。

その時に自己嫌悪に陥り、こんな人間が教員になるべきではない、との想いに至り教員になる道を断念。
その自己嫌悪の基となった障がい者との関わりを深めるべく大学院に進学して研究の道に進むことになった。
このエピソードに触れてそこに人のリアルな感情を思い知らされた。

その後、ひょんな出会いから障がい者運動家の方との出会いと数多くの障がい者の方との出会い触れ合いを通じて、著者が抱いていた凝り固まった障がい者像が徐々に解きほぐされていった、とのこと。

そして著者は以下のような気づきに至る

それまでのぼくは、「こうあるべき」とか、「こういう生き方が望ましい」とかいった規範意識が強かったように思う。人は強い意志で自分を律して、競い合いを通じて能力を高め、決して他人に迷惑をかけず、社会の役に立つように生きることが「正しい」のだと思っていた。

『まとまらない言葉を生きる』192頁

その気づきを経て

「あの頃、運動家たちからもらったものはたくさんあるけれど、強いて最大のものをあげるとすれば、「『正しい』とか『立派』とか『役に立つ』といった価値観自体を疑う感覚」を教えてもらったことだろう。」

と説いている。

正しく立派で役に立つ自分であらねばならぬ」という出所のよくわからないプレッシャーは、いまもぼくの中で消滅はしていないけれど、確実に楽にはなった。「そもそも『正しい』とか『立派』とか『役に立つ』って何だよ」と、舌打ちくらいはできるようになった。  そうした舌打ちができるようになるにつれて(舌打ちすることを自分に許せるようになるにつれて)、他人に対する要求水準もゆるやかになってきた気がする。

『まとまらない言葉を生きる』194頁

こういうことが正しいに決まっている
これはダメ、絶対に間違っている
こうあるべきだ

などなど、歯切れが良く切れ味の良い言葉が巷にあふれている昨今。

しかし実はこういった断定的な言葉によって、実は他者に対する寛容さが奪われてしまったり、しいては社会を窮屈にしてしまうのではないか、という主張に私はものすごい納得感というか同意をした。

逆にそういった断定できないまたは言葉にできない部分を捉えようとすれば、他者に対してほんの少し寛容になれたりして、そのほんの少しの寛容やあそびの積み重ねというか集合が実は自分たちの生きやすさに繋がっていくんじゃないかなぁ、という希望に触れられた私でした。

久しぶりに味のある、読み応えのある本に出会えてとっても嬉しい時間を過ごしました。

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