視覚障がいの方への声かけ・誘導(手引き)について
僕も毎回楽しみにしていますが、「恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜」というドラマが好評で、僕が盲学校にいたことを知っている職場の方も声をかけてくれました。
ドラマの効果か、Twitterでフォローさせていただいている視覚障がい当事者の方からよく声をかけられるようになったともお聞きしました。
それと同時に白杖を持った方を無断で撮影してSNSにアップされるような方もいらっしゃるそうです。白杖がどうとかではなく、誰にでも無断で撮影してSNSにアップするのは適切な行為ではないですよね。
でも「お手伝いしたい」と思いつつ、どうやって声をかけたらいいのか、どうやって誘導したらいいのかわからない方も多いのではないかと思います。
そこで今回は、日本点字図書館「いっしょに歩こう ~目の不自由な人と楽しく町を歩くために~」を参考に、視覚障がいの方への言葉がけや誘導について紹介したいと思います。
視覚障がいは十人十色
白杖を持ったり、盲導犬をつれている=視覚障がい=全盲、全く見えないと考える方は多いかもしれません。
でも、ドラマでも紹介されていますが、視覚障がいといっても見え方は十人十色、視力や視野などそれぞれ違います。
全盲で全く見えていなくても、ルートを覚えて一人で通勤している方やスマホを音声で使っている方もいます。僕の先輩のよう、手引き誘導をしていても、「もっと早く行って!」とぐいぐい腕を押してきたり、「乗り換え早いから先頭の車両へ行って」なんて教えてくれたりする方もいます(その全盲の先輩は包丁で魚を捌けます)。
当たり前のことですが、全ての視覚障がいの方が常に助けを必要としているわけではありません。街中で白杖をもって歩行されている方の大半は、日常的に歩かれている方なので、いつでもどこでも助けが必要ということは少ないでしょう。
もちろん、見えない・見えにくいことから助けを必要としている方もいらっしゃいます。
ただ、誰しもそうですが、助けて欲しいときもあれば、声をかけてほしくないときもあるんだということです。障がいや子どもやお年寄りや海外の方などどんな背景があってもそうだと思います。視覚障がいの方は、目が見えない可哀想な人ではないのだということを忘れないでください。
声のかけ方
視覚障がいの方(目が全く見えない方も、見えかたに困難を抱えている方も)は、困ったときもまわりに手助けをしてもらえる人がいるか気づきません。横断歩道や駅のホームやバス乗り場などの公共交通の場、普段と状況が変わる工事現場などは、危険が伴うので特に配慮が必要な場所です。
まずはヘルプが必要かどうか見守ってみてください。
周りの状況がわからなくて困っていそうなときは、突然体に触れずに、「どうかされましたか?」「何かお手伝いすることはありませんか?」「何か困りのことはありませんか?」などの声をかけてください。
だだし、乗車直前や乗車中などは視覚障がいの方も急いでいたり集中していたりで、声をかけられても困るタイミングのことが多いと思いますので、声かけのタイミングにも注意が必要です。
もちろん、その方の状況によっては手助けを断られることもあるかと思います。一度断られたから…なんて高齢者の方へ席を譲るときなんかでもある話ですが、恥ずかしいことではありません。僕自身は「今はヘルプが必要なかったんだな、よかったな」と思います。もちろん全ての視覚障がいの方や高齢者の方が困っていないわけではありません。めげずに?気にせず?また声をかけていただければと思います。
声のかけ方は公益財団法人アイメイト協会の声のかけ方サンプル集が参考になります。
声をかけるときには、「通りかかった者です」「この駅の駅員です」など、自分が誰なのかを伝えると視覚障がいの方も安心されると思います。
(画像は石川県共生社会づくり「みんなでつくるくらしやすいまち」より)
誘導(手引き)の仕方
視覚障がいの方を安全に誘導することを手引きといいます。
手引きするときは、視覚障がいの方の横半歩前に立ち、「手引きしますのでひじを持ってください」と言って、軽くひじの上を持ってもらいます(このとき、視覚障がいの方の腕は、ひじがほぼ直角になるように曲げ、持ち方は親指と他の指を向かい合わせて、軽く握り込むようにします)。
・誘導する人との身長差があるときは、肩やひじの下を持ってもらいます。
・誘導する人は、視覚障がいの方の半歩前を歩くようにします。
・歩くときには二人分の幅をしっかりとってください。
・歩く速さや歩幅は、自然に歩くのにあわせてください。
・白杖や盲導犬のハーネス、手や衣服を引っぱったり、後ろから押されたりされると、とても不安になります。危険ですのでやめてください。
・自分より背の高い人を誘導するときは、街路樹やトラックのミラー、鴨居など高い位置にあるものがぶつからないように気をつけましょう。
(画像は日本点字図書館より)
(画像は西日本新聞より)
(画像は盲導犬ハンドブックより)
(画像は芦屋つーしんより)
(画像は株式会社シマ商会より)
どこへ向かうのか、どのルートで行くのか、歩く速さなどは視覚障がいの方に確認してください。盲学校でも歩行訓練士の先生が「手引きの主体はあくまでも視覚障がいの方です」と繰り返し言われていました。
いっしょに歩いているときは、会話したり、まわりのようすなどを説明するといいです。目印になる建物や道路のようす、遠くの景色などを聞 きながら歩くのはとても楽しいものですよね。説明するときは「右にはスカイツリーが見えます」「200mくらい先にレストランが見えてきました」など方角や距離を説明してください。…慣れないと手引きに緊張してそれどころではないかと思いますが。
また「しばらくまっすぐ歩きます」、「信号なのでとまります」、「右に曲がります」など、適宜「声かけ」をすることで、周囲の状況を伝えてくたさい。
・歩きながらの会話はどんな話題がよいか考える必要はありません(でも考えてしまいますが)。色や風景、テレビの話なども決して失礼になるわけではありません。
・視覚障がいの方から一時的に離れる場合は、離れることを伝えてベンチや柱などのよりどころとなるものに触れて待ってもらってください。見えない状態で空間に一人でいるのは不安なものです。
・視覚障がいの方が道順を説明される場合は、その通りに歩いた方がいいでしょう。別のルートを通ると、どこを歩いているのかわからず不安になるかもしれません。
・眼や病気、生活などむやみに個人的なことや、視覚障がい者のプライベートなことについて尋ねることはやめておきましょう(本人から話されている場合は別です)。
ここからは注意した方がいい場所や場面などを紹介します。
1.狭い場所を通るとき
「ここからせまくなります」と声をかけて、持ってもらっている腕を背中側に回してください。視覚障がいの方は真後ろに入って一列で通ります。
・誘導する人は視覚障がいの方が後ろに回ったことを確認してから通過します。
・狭いところを通過し終わったら、元の姿勢に戻ります(そのことを伝えておきましょう)。
・さらに狭い場所ではカニのように横歩きするなどの方法もあります。
(画像は日本点字図書館より)
(画像は全国ユニバーサルサービス連絡協議会より)
2.溝をまたぐとき
溝に向かって垂直に近づき、溝の手前で立ち止まって並ぶように立ち、またぐことを伝えます。誘導する人は、視覚障がいの方が白杖または、つま先で溝の縁を確かめたことを確認してからまたぎます。そうして視覚障がいの方がまたいだことを確認してから歩きはじめます。
・必要に応じて「●●cmくらいの溝です」と声をかけましょう。
・白杖で溝の幅を確かめるときは、誘導する人が白杖を持ったり引っ張ったりしないようにしましょう。
・二人同時にまたいでも、誘導する人が先にまたいでも構いません。
・溝に斜めに近づくとタイミングが合わず、踏み外す原因になります。後の段差や階段も同じですが溝に向かって垂直に近づきましょう。
・誘導する人は視覚障がいの方がいる側と反対の足からまたぐようにしましょう。
(画像は日本コンクリート株式会社より)
3.段差があるとき
小さい段差でも必ず手前で「段差があります」と声をかけて、少しゆっくり歩いてください。誘導される人は自分の杖などで確認をして歩きます。「歩道に上がります」「一段下がります」などイメージしやすい言葉だとなお良いです「段差です」だけだと上がるのか下がるのかわかりません。必ず上がるのか下がるのかをきちんと伝えてください。
・溝や階段と同じように向かって垂直に近づきます。
・誘導する人が先に上がり(下り)、視覚障がいの方が上がる(下りる)のを待ちます。そうして視覚障がいの方が上がった(下りた)ことを確認してから歩きはじめます。
・必要に応じて「●●cmくらいの段差です」と声をかけましょう。
(画像はおいまつえんより)
4.階段を上る(下る)とき
階段の手前で必ず「上り(下り)階段です」と声をかけて、上り始めてください。誘導される人は一段後を上ってきます。階段では危険ですので途中で立ち止まったり、振り返ったりせず、一定のリズムで上ります。終わりが近づいたら「あと3 段で終わります」というように、声をかけてください。上り終わったら、もう一歩進んで誘導される人が上りきったらいったん立ち止まって「終わりです」と言ってください。
・階段に斜めに近づくとタイミングが合わず、つまづいたり踏みはずしたりするする原因になります。向かって垂直に近づきましょう。
・上り下りするときも斜めでなく垂直に向かってください。
・脚の不自由な方や高齢者などは手すりを利用する確認しましょう。
・幅や段差の不規則な階段やらせん階段(内側と外側の広さが異なる)は特に注意が必要です。
・踊り場では、階段を上り(下り)終わると一旦止まり、また次の階段手前まで進み、同様に上り(下り)ます。
(画像は日本点字図書館より)
5.エスカレーターを使うとき
エスカレーターに不慣れな視覚障がいの方もいらっしゃいます。まずはエスカレーターを利用するかどうかを聞き、利用する場合は「上り」か「下り」かをきちんと伝え、「①そのまま手引きの状態で乗るか」「②一人で乗るか」を確認しましょう。
①手引きのまま乗る場合は、乗降口の手前で一旦立ち止まり、視覚障がいの方の足が段にかかったときに、誘導する人はそのタイミングに合わせて乗ります。
②視覚障がいの方が一人で乗る場合は、手引きの手をほどき、その手をエスカレーターのベルトに誘導します。
・誘導する人は、エスカレーターにできる限り近づき、一旦止まってから乗ります。
・エスカレーターの隙間に靴の先を挟まれたり、靴紐を巻き込まれたりしないように足元に注意します。
・視覚障がいの方がエスカレーターを使い慣れていない場合、誘導する人が一段後ろに位置して、視覚障がいの方の身体を支えるようにして乗降する方法もあります。
・無理せずエレベーターや階段を使うことも考えてください。
(画像は株式会社ぽりにより)
6.イスに座るとき
イスに座るときは座面にものが置かれていないかなどを確認してから、ひと声かけて片手を背もたれに触れてもらいます。腰掛けるときには手助けは必要ありません。
・テーブルがある場合はもう片方の手でテーブルに触れてもらいます。
・背もたれがない場合は、座席に触れさせ正面がどちらかを説明してください。
(画像は日本点字図書館より)
7.トイレに案内するとき
同性の方が誘導します。トイレのドアの前に来たら、ドアの種類(押し戸・引き戸)や開け方を伝えます。個室内で便器の形や位置や方向、水栓ノブやウォシュレットの位置や流し方、トイレットペーパー・ごみ箱・カギ・呼び出しボタンの位置など、必要な情報を伝えます。個室内に手洗い台がある場合は、石けん・ハンドソープ、タオルの位置なども伝えます。
・多目的トイレは広すぎて位置関係が把握しにくく、苦手にされている視覚障がいの方もいらっしゃいます。
・和式トイレの場合も同様に小便器の向きや位置などを伝えてください。
8.電車を利用するとき
誘導する人は視覚障がいの方を手引きし、ドアが開くまでは戸袋側に立って乗客が降りるのを待ちます。電車が到着し、乗客が降りてから、ドアに向かって垂直に近づき、プラットホームの縁の少し手前で一旦立ち止まります。誘導する人は、視覚障がいの方がプラットホームの縁を確かめたことを確認してから乗り込みます。乗り込む際は、溝をまたぐときを参考にしてください。降りる際は同様にドアレールの縁を確かめたことを確認してから降ります。
・乗車前には、乗客が降りるので、ドアの正面に立たないようにします。
・プラットホームと車両の間に足を落とさないよう特に気をつけ、大股で乗り込り(降り)ます。
・プラットホームと車両の段差や距離は、視覚障がいの方が白杖で確認されると思いますが、段差や距離が大きな場合は「隙間が広く空いています」「段差が大きいです」などと伝えるいいでしょう。
・乗り込む前に視覚障がいの方の手を戸袋や手すりに誘導する方法もあります。
・ホームを移動する際は、転落に注意し、端から距離を取って誘導しましょう。
・改札を通る際は、狭い場所を通るときを参考にしてください。乗車券を通す場合は、有人改札を通るか、各自が入れて誘導者が2枚分回収します。
・慣れない場合は、駅係員へ繋ぐという手もあります。
・電車の事故や遅延、変更などが電光掲示板に示されていても伝わりません。そういった情報を伝えていただくと助かります。
(画像は朝日新聞デジタルより)
(画像は毎日新聞より)
9.バスを利用するとき
バスが来たことを伝え、バスが停車したことを確認してから車道に降ります。乗車口に向かって垂直に近づき、ノンステップバスかどうかを伝えてから乗車します。乗降の際は一旦立ち止まり、視覚障がいの方の手を手すりに誘導します。
・ステップが高い場合は、視覚障がいの方の動きに合わせて一段ずつゆっくり乗降します。
・降車の際は、誘導する人が先に降ります。そうすることで、支えになったり、降りた場所の安全の確保をしたりできるようにします。
・歩道と車道の境に、視覚障がいの方が足を落として転倒しないように足元をよく見てください。
・バス停の位置や列の最後尾、バスの行き先、降車ボタンの位置、アナウンスのズレ、バス運行の遅れなどを伝えてもらうと助かります。
(画像はカナロコより)
10.車(タクシー)を利用するとき
ドアのすぐそばへ誘導し、手をドアと車体の屋根の部分に触れるようにし、視覚障がいの方が先に乗車し、誘導する人は後で乗り、ドアの開閉も誘導する人が行います。降りるときは、誘導する人が先です。なお、杖を持っている場合は、あずかることを伝えてから誘導者が持ってください。
(画像はつばめ交通より)
より詳しい手引きなどのことが知りたい方は参考に挙げているサイトや書籍を読んだり、同行援護資格について調べてみてください。
べんりなクロックポジション
テーブルにある食べ物の位置などを説明するときには、時計の文字板にたとえて説明するとわかりやすいです。「2時の方向にコップがありま す」「調味料は9時の位置です」などと言います。
お皿やお弁当箱の中のものの配置を説明したり、道をたずねられたときに方向を説明するときにも使えます。あえてクロックポジションを使わなくても、「もう少し上」、「20センチ左」など、臨機応変に対応するのも大切です。
(画像は日本点字図書館より)
声をかけるのが恥ずかしいときは
視覚障がいの方が気になりつつ、でも声をかけるのが恥ずかしいという方もいらっしゃると思います。そんなときは、ひとりごと作戦です。
信号が青に変わったら「青になった」と、ホームで電車の行き先変更や遅延があったら「●番ホームに変更になってんや」「電車事故で遅延やから、代替輸送で行かないと」なんて聞こえるくらいの大きさでひとりごとを言ってもらうと…助かる方もいらっしゃると思います。
(画像はTwitter@boyo_artより)
動画もあります
手引きなどを紹介した動画もあります。いくつか掲載しておきます。
まとめ
いろいろと誘導の方法を紹介しましたが、全て覚えるのは大変ですし、完璧にできるようになるまで声をかけてはいけないというものではありません。
説明しておいてなんですが、わからないことは視覚障がいの方本人に聞けばいいのです。分からないことは聞いて相手の望むことを提供するというのは、視覚障がい者の誘導だけに限らず、色々なコミュニケーションの基本です。
繰り返しになりますが、手引きの主体はあくまでも視覚障がいの方だということを忘れないでください。そしてその人によって求めている誘導(誘導が必要ないことも含めて)は違います。
気になることがあったらまたこの記事をのぞいてみてください笑。
また以前記事で紹介した「#視覚障害者が嬉しいと感じた配慮」というハッシュタグを検索すると視覚障がい当事者の方々の声がわかります。そちらも参考にしてみてください。
そんな風に困っている方へ声をかける方が増えていけばいいなぁと思いますし、そのためにこの記事が役に立てば幸いです。
追記
この記事を書いた後にTwitterのスペースで声かけや誘導について視覚障がい当事者の方とお話しする機会がありました。
・手引きが必要ないタイミングでの声かけを断るときは申し訳ないと思いつつ、「ありがとうございます。またお願いします。」とお伝えしている。
・腕や白杖やリュックを引っ張られて怖い体験をした。
・「大丈夫です」と返答したのに、後ろからついてこられて声をかけられて歩行に集中できなかった。
・スムーズに歩行しているときは大抵大丈夫なので、立ち止まっているときや信号や乗車のタイミングで声をかけてもらえると助かる。もちろん事故や転落などになりそうで危険なときは止めてください。
・当事者の方もどうして欲しいのかをきちんと伝えられるようにならないといけない。
などの声が印象に残りました。
当たり前ですが、お互い人間で思っていることは言葉にしないと伝わりません。手引きのガイドラインはありますが、絶対の正解はないですし、どうして欲しいのかをお互いが確認して共有できれば、トラブルのようなものは減っていくのかなぁと思います。基本的な手引きの方法を覚えつつ、お互いにコミュニケーションを取ることが大事なんだなぁと改めて確認できました。
招待いただきありがとうございました。
参考にしたサイト・本
①日本点字図書館「いっしょに歩こう ~目の不自由な人と楽しく町を歩くために~」
⑤KiSHアクセシビリティグルメサイト「お店の人のためのユニバーサルマナー」
⑨障害者自立活動支援センター オアシス「視覚障害者の誘導法(新潟県中途視覚障害者のリハビリテ-ションを推進する会)」
⑩『視覚障害者へのサポート: ガイドヘルパーのための53のQ&A (谷合 侑)』
表紙の画像はNPONEWS「視覚障害者へのガイドヘルプの方法」より引用しました。