二分の一成人式の問題点
学校には様々な行事があります。行事の内容によっては、練習時間が必要なものもあり授業時間が削られ、行事に向けた歌唱や発表などの練習時間に充てられることもよくあることでしょう。学校行事には、文化的な側面の学びであったり、クラスの一体感を作るなどの効果もありそうです。
さて、今日はそんな行事の中でも、ここ10年ほどで急速に市民権を獲得してきた人気行事「二分の一成人式」について考えたいと思います。
10歳になる四年生の学習参観などで行われる二分の一成人式。成人年齢引き下げもあり、今後は別の学年でも行われる可能性もあるでしょう。内容として多いのは、児童の保護者への感謝の手紙の朗読、児童が幼い時の写真を出す、保護者からの手紙、などなどです。成人式というよりは、「育ててくれてありがとう」と保護者に伝える感謝の行事という印象が個人的には強い行事でもあります。この行事、実は保護者からの人気が根強い行事でもあります。自分の子どもから感謝の手紙をもらえる機会なんてなかなか無いものです。学習参観で授業を見るよりは、二分の一成人式の方が保護者も楽しめることが多いのでしょう。
しかし、二分の一成人式が潜在的に抱える問題点はなかなか深刻です。
2019年1月、千葉県で起きた小4女児虐待死事件。被害者の栗原心愛さんの受けた凄惨な虐待はみなさんの記憶にも新しいことかと思います。
二分の一成人式の問題点を端的に言えば「すべての子どもが親に感謝できるのか」という点です。
私たちの学級にいる子どもたちが家で虐待を受けていないと言い切ることができますか?虐待を受けているとまではいかなくても、親子関係に悩みを抱えていてコミュニケーションがなかなか取れない家庭ならどうでしょうか。
最近は家族の形も様々です。3組に1組は離婚するこの時代、再婚をしたときにどちらかに連れ子がいれば、それをステップアップファミリーと呼びます。家族の形をこれから作り上げるような家庭もあるかもしれない。これだけ家庭の形が多様化している中で、家庭のプライバシーに関わるようなことを学校の行事として扱うのは危険ではないでしょうか。
もちろん、すべての家庭がそのような課題を抱えているのかと言えば、そうではありませんし、むしろそのような家庭は少数派なのかもしれません。しかし、公教育が行う学校行事として二分の一成人式が適切かと問われれば、それは間違いなく不適切なのです。
ここまで読まれた方の多くは二分の一成人式の抱える問題点に気付き、このような行事を即刻辞めるべきだと感じたことだと思います。しかし、学校の行事というのはそうは簡単にいかないのです。
辞めにくい理由の一つ目は、先ほども述べた「保護者からの人気が根強い行事」ということがあります。おそらく、多くの家庭における親子関係というのはさほど大きな問題があるわけはなく、子どもからの感謝の手紙を朗読してもらえるのならば喜んで参加する保護者が多いでしょう。実際、本校の二分の一成人式の保護者の出席率は他のどの参観よりも高いです。普段は見かけない父親の姿も多く見かけます。そんな中で二分の一成人式を辞めることを保護者の皆様に伝えたらどうなるのか。二分の一成人式続行を求める多くの声が寄せられることでしょう。現在の学校は保護者からの声に非常に敏感です。学校にものを申す保護者の方も多く、学校の一存で決められないことも多いのです。PTA活動が盛んな学校の場合は、役員が押し掛けてくることもあるそうです。
辞めにくい理由の二つ目は、学校の行事の性質です。学校の行事というのは、始めることはそこまで難しくないにも関わらず、辞めることは圧倒的に難しいのです。この性質は現在、多くの学校に毎月のように行事があり、その行事の練習時間として授業時間を削りながら練習していることを見れば容易に想像がつきます。辞めるためには、「それなら仕方がない」と全員が思えるような理由が無ければいけません。しかし、その辞める理由が「クラスにいるかもしれない」「数人の児童のため」となると、多くの方の「楽しみ」と引き換えに辞める理由として共感が得にくいのです。
辞めにくい理由の三つ目は、学年団の主任や管理職の許可が下りにくい点です。再三、述べていますように、二分の一成人式は学校の行事の中でも特に人気行事です。それを辞めるとならば、多くの保護者からクレームが来るでしょう。その矛先は責任者に向きます。それがまさに、主任であり管理職なのです。あなたが学年の主任や管理職に二分の一成人式の持つ問題点を丁寧に述べて、何とか理解してもらったとしても主任や管理職の多くはこう言うでしょう。「何も今年、急に辞めなくも・・・その意見は引き継いでおこう」と。学校は「辞めることが苦手」です。なぜなら、辞める決断をすれば、反対派からのクレームが来ます。そんなリスクを背負ってまで決断できる人は少ないのです。このクレームは保護者ばかりではありません。実は先生の中にも二分の一成人式をしたい人がいます。この点については別の記事でも書きたいと思っていますが、少しだけネタバラシをすると、学校の先生の中には「感動的行事をしかけたい人がいる」ということです→#感動エビデンス主義
どうでしたか。問題だらけの二分の一成人式。様々な辞めにくい理由を乗り越えて、学校から二分の一成人式がなくなることをのぞみます。