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洋の東西、虎事情。
ボルヘスが自ら編んだ怪奇、幻想小説の作品集=バベルの図書館の第10巻は、聊斎志異と紅楼夢からの抜粋。ちなみに読みは「りょうさいしい」である。今日まで「りゅうさいしい」だと思っていたけどそれは間違い。お恥ずかしい。
要するに中国の不思議なお話なのだけど、これまでの1〜9巻に比べるとぐっと親近感が湧くのは昔話などで無意識のうちに中国の逸話などに親しんでいるからなのかな。
ちなみに作者は19歳の時に童試を受け、県試・府試・道試にすべて首席合格し、エリートコースをひた走るかと思いきやその後の科挙には全て落第し万年受験生状態になってしまった人。で、受験勉強の傍、不思議な話、伝承を収集したのが『聊斎志異』になったのだそう。
人が虎になって恨みを晴らす話などを読むと、『山月記』を思い出し、中国は何かと人が虎になりがちだな、という感想を抱いたけれど、妻の首を切り落とし、他の美人の首とすげ替える話など、ちょっとグロテスクなSFっぽい話もあった。鬼と酒飲み友達になって、科挙に受かるように文章力をあげてもらう話などは、作者自身の願望の現れな気がしないでもない。
ここに収められているのはごく一部なので、もう少し読んでみたい気分なのだけど、岩波文庫版がちょうど良い感じなのかな。
話がいろんなところに飛んでいってしまうのだけど、虎といえば、ウィリアム・ブレイクの虎のことも思い出した。虎よ、虎よ、ってやつ。
Tiger!Tiger! burning bright
In the forests of the night
What immortal hand or eye
Could frame thy fearful symmetry?
虎よ!虎よ!煌々と
夜の森で輝く虎よ
如何なる不滅の手と目が
汝の凄まじき均整を作り得たのか?
これは虎という美しく完璧な存在の先に神の存在を思っている訳で、何かと人が虎になってしまう中国における虎の親近感とは全く違うところが面白い。中国の物語においては虎は人の延長線上にあるものなんだけど、この詩ににおける虎は人にはとても作り得ない、神が創りたもうた完璧な存在を象徴している訳ですね。
まぁ、僕らの世代でタイガー、タイガー、って言われたらスト2のサガットなので、burning brightなんて洒落た返しはできなくて、迷わずタイガーアッパーカット!って呟いてしまうけどな。
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