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「頑張らないと価値がない」と思っていた
あなたには価値がある。ただし、がんばったら。
あなたには価値がある。ただし、いい子でいたら。
あなたには価値がある。ただし、努力できたら。
条件を満たすことで、はじめて価値がある。
そういうメッセージが子どもを、人を、追い詰めているのかもしれない。
◆◆◆
少し前に読んで心を打たれた詩集。『空が青いから白をえらんだのですー奈良少年刑務所詩集』詩・受刑者、編・寮美千子。
続編もあったので読んでみました。『世界はもっと美しくなる』。
今回も感動する詩があるなかで、逆にドキリとさせられたものがあった。
なぜなら、まるで中学や高校時代の目標やスローガンに掲げてあったものと瓜二つだったから。
今こそ出発点
人生とは毎日が訓練である
自分自身の訓練の場である
失敗もできる訓練の場である
生きていることを喜ぶ訓練の場である
今この幸せを喜ぶこともなく
いつどこで幸せになれるか
この喜びをもとに全力で進めていく
自分自身の将来は
今この瞬間ここにある
今ここで頑張らずに
いつ頑張る p108
寮美千子さんのコメント。
いい心がけです、百点満点です。
と思いがちですが、違うのです。こんなしっかりした詩を書いてくる子ほど、ガチガチに緊張して、なかなか心を開くことができません。
Pくんもそうでした。いつも胸を張っていて、姿勢が少しも崩れません。「生きていることを喜ぶ」ことさえ、「訓練」であるとは、なんと苦しい毎日でしょう。
そんな子たちの姿勢がゆるんできて、あくびが出たりするようになると、しめたものです。教官たちは、授業の反省会で「よかった、よかった」と喜びあいます。そこから、変化がはじまるからです。p109
一見して、反省して頑張っていこうとしてるんだな〜なんて思っていただけに、寮美千子さんの痛烈なコメントに正直驚いた。まるで自分に向けられているかのように、言葉が突き刺さってくる感覚。
それはたぶん自分もこの詩を作った受刑者と同じような背景・境遇があるからなのかもなって想像させられた。
がんばらなかったら生きていられなかったんかな。
努力しなくちゃ、励んでいなきゃ、認められなかったんかな。
条件を満たすことではじめて価値がある。
なにかができるようになることで、誰かの役に立つことで、やっと肯定される。
ありのままではいられなかった。
「毎日が訓練」って、よくよく考えるとキツいけど、それがふつうの日常だったのかもしれない。
◆◆◆
「いいこと」を書いた力んだ詩は他にも。
ここ一番の心がまえ
ここ一番の心がまえ
己の筋道歩みとおしきり
礼儀わきまえ義務を知る
これこそ
我男なり
かけた情けは水に流せ
受けた恩義は石に刻め
ろくでなしの俺らでも
時には辛いときもある
だが
地獄にも咲く友情の花がある p110
寮美千子さんのコメント。
りっぱな言葉が並んでいます。でも、これは格言や人気漫画から借用した言葉のパッチワーク。彼の心に響くのは、こんな「男らしい」言葉だったのでしょう。
「男らしさの神話」にがんじがらめになっている子ほど、なかなか様子が変わりません。男だって泣いてもいい、弱音を吐いてもいい、と自分を許すことができてはじめて、「自分」を解放することができます。そして、他者に寛容になれます。それが更生への第一歩になっていきます。
大切なのは外側から押しつけられた「男らしさ」や「女らしさ」ではありません、内側から湧きあがる「自分らしさ」なのです。p111
まるで『魁!男塾』かと思わんばかりの力作。外側から押しつけられた「男らしさ」にがんじがらめになって、かなしいことに自分がいない。
これまた他人ごととは思えなかったなあ。
◆◆◆
その頑張りは自身の希望からなのか、不安をごまかすためなのか。
それによって、よろこびにもなれば、永遠に終わりのない地獄のデスロードにもなってしまうんだよね。
頑張ることも、努力も、成長も、勝利も悪いものじゃない。
けれど、その人にとっては無理がないだろうか。
その子にとってはあまりに重荷になっていないだろうか。
その人、その子、ひとりひとりを見る目があれば。
全ての人を対象に「こうあるべき」とする教えの非人道さに気がつきたい。
自分の考え
あせってもいい事ないし
仕方ない
だから
ぼちぼち行こか p164
ほんとにそうだね。ぼちぼち行こか〜