こどもたちのアイデア * 虹色のクライミングツリー
こんにちは。
私はドイツのベルリンで公園と遊具のデザイナーとして働いています。
こちらの記事でも書いたのですが、ドイツでも、公園や校庭の計画にこどもが関わることが多くあります。
またまた、こどもたちのアイデアが私たちのところに届きました。
毎回とってもわくわくします!!
今進行中のプロジェクトなので、残念ながらデザインは載せられないのですが、今日は、このプロジェクトの流れについて書こうと思います。
❶ こどもたちの話し合い
大体の場合は、こどもたちのアイデアや希望する遊びのリストや、何枚ものスケッチやモデルの写真たちが届くのですが、今回は、たった一枚のスケッチ。
計画されている公園の近くの小学校に通う7歳〜9歳の20人のこどもたちが、児童館のスタッフや児童福祉課の教育関係の方たちの進行のもと、アイデアを出し、モデルをつくり、話し合い、みんなが納得する一枚を共同で仕上げたそうです。
その場にいたかったなぁ。
みんながアイデアを出したり多数決を取ったり意見を言い合ったりみんなの考えをまとめたり、いろんなことを話しながらスケッチを仕上げていったり。
その様子を見たかったなぁ。
今の仕事もだいすきだけど、いずれは、そういう段階からこどもたちと一緒にプロジェクトを進めていける仕事のやり方もしていきたいなぁと考え中。こどもたちがアイデアを出して、頭の中に思い描くものを形にしていって、遊具をつくって設営することろまでみんなで一緒にやっていきたい。そのためにも、今はデザインスタジオで修行中。
それはともかく、今回のこのプロジェクト。
バウハウスでも有名なデッサウの街の公園です。デッサウ市はザクセン・アンハルト州の中で最も教育と遊びの環境づくりに力を入れていると言われていて、まちづくりや公園の計画にも積極的にこどもの参画を取り入れているようです。
市からの分厚い要項を読んでいると、公園全体の計画が正式に始まったのが、2018年。それから具体的な進め方が決められていって、こどもたちのこの話し合いが行われたのが、2020年7月。私たち遊具製造会社に要項が送られてきたのはその一年後の、今。そして私がデザインと見積もりを仕上げてプレゼンするのが、8月末。設営予定は、来年の2022年。遊具の設営だけではなく公園全体の計画となると、遊具だけではなく植物や駐車場やお手洗いなどその他諸々で時間がかかるのは毎度のことなのですが。。。
今回アイデアを出してスケッチを描いた、2020年には7歳〜9歳だったこどもたち、完成予定の2022年には9歳〜11歳。この2年間は大きいですよね。7歳と9歳、9歳と11歳では、遊び方が変わってくるし、ドイツの学校制度では4年生と5年生の間に学校が変わるので、11歳になったこどもたちは、この公園の近くに来ることももうあまりないかもしれない。これよりもっと長期間かかるプロジェクトもあって、毎回とてももどかしい。
それでも、こどもたちがアイデアを出し合ってそれが形になると、その本人たちの喜びや達成感、その公園への愛着はもちろん大きいだろうし、自分たちの力でまちをつくっていける、自分たちの周りの環境に影響を与えられる、という経験は自信となりそのこどもたちの人生にも生かされていくでしょう。
また、他のこどもたちにとっても、大人の手だけではなくこどもたちが関わってできた公園というのは、親近感も湧き更に楽しく遊べると考えられています。
❷ アイデアスケッチ
こどもたちから届いたスケッチのタイトルは、「 虹色のクライミングツリー」!
色鉛筆で描かれた創造性あふれるこどもらしいスケッチ。しかし、夢のまた夢、というわけではなく、ここからこうのぼって、高いところでは支えになるロープをつけて、など、遊ぶ様子をシミュレーションしてしっかり考えられているのが伝わります。
百聞は一見に如かず、ですが、残念ながらお見せできないので、描写してみます。
なんとなく想像できるでしょうか?
んー、こんな遊具で遊んでみたい!!
また、要項の中にあった議事録には、クライミングウォールは木の全体の景観を邪魔するから却下、登り棒よりもハンモックが選ばれた、など、話し合いの様子も記録されていました。9歳や10歳以上のこどもたちには、ハンモックやみんなで座れる場所、少し目隠しになるような場所も好まれます。元気に遊びたいだけではなくて、友達とおしゃべりしたりくつろいだりしたいお年頃ですよね。
私たちはヨーロッパの遊具の安全基準DIN EN 1176に基づいてデザインを作っていくのですが、こどもたちの自由な発想や斬新なアイデアに触れると、この仕事を始めた頃の、遊具安全点検士の資格を取る前に戻りたいなぁとも思ってしまいます。
あの頃はいろいろな基準や決まりを知らなくて、もっと自由だったなぁ。。。
❸ デザイン
というわけで、こどもたちのスケッチをもとに、安全基準やプレイバリュー、遊びの流れを考慮しながら、デザインを作っていきます。届いたスケッチやこどもたちの想いに忠実に、そしてみんなが楽しく遊べて、身体的・精神的・社会的・認知的成長の手助けになるような現実の形に。でも、安全すぎて退屈なものにはならないように。
例えば、遊びが途切れてしまいそうな箇所の改良、できるだけ様々な遊びの要素を取り入れてプレイバリューを高めること、ひとりだけではなく一緒に遊ぶ楽しさを促すような工夫、上に登るルートは難しさのレベルの異なるものを配置する、など。
それから、頭や足や指が挟まってしまう可能性のある箇所、平面に落ちる可能性がある箇所の高低差(100cm未満)、ロープなどの細いものの上に落ちる可能性がある高低差(60cm未満)、手すりの高さなど、安全基準に関する見直し。
また、こどもたちのスケッチでは、高さ250cmのプラットフォームの直径が300cm、高さ400cmのプラットフォームの直径は500cm、これを3本のポールが支えています。これは構造的に非現実的なのと、これだけ大きなプラットフォームをつくり支えるのには予算が足りないので、縮小しなければなりません。残念。
そして、400cmの高さにハンモックをふたつ。私もぜひそこでゆらゆらくつろぎたいのですが、そこから落ちる可能性のある範囲、セーフティーゾーンを考えると、こちらもなかなか難しい。んーーーーー、残念。
一旦できたデザインをエンジニアの同僚に見せて構造上・安全面のチェックをしてもらい、変更する箇所があれば変更し、それを何度か繰り返します。そうやってブラッシュアップされてできたデザインを、工場長に見せて、値段の擦り合わせ。予算より高ければ、プレーバリューや外観を極力変えることなくどうしたら制作費を抑えられるか相談し、予算に余裕があれば、もう少し遊びの要素を付け加えます。
こうしてできあがったデザインを、こどもたちやクライアントのところに届けます。
❹ 選考
プロジェクトによって、デザイン画やモデルを提出するだけだったり、現地に出向いてやオンラインでプレゼンテーションする形式だったり。審査員は、市の都市計画や公園担当の方たちだったり、こどもたちだったり。今回は、オンラインでのプレゼンテーションになるそうです。審査員は誰なのかまだ分かっていないので、分かり次第それに合わせたプレゼンテーションを仕上げていきます。
直接フィードバックが聞けると嬉しいので、こどもたちが審査員だといいなぁ。
❺ 製造・設営
選考会が終わったら、実際に遊具が作られます。私が働くデザインスタジオは遊具製造会社に属していて、ブランコのシートやトランポリン以外は、すべて自分たちでつくっています。
私のデザインを元にエンジニアたちが詳細な図面を仕上げ、遊具がつくられ、工場で一度すべて組み立てられます。ここで内部の点検士による安全チェックが入り、問題があればつくり直し、問題がなければ、解体され、搬送され、公園に設置されます。そして外部の点検士による安全チェックが入り、ここでも問題がなければ、遊具は完成です。
一旦搬送されると国内でも国外でもなかなか遊びには行けないので、この組み立てられた瞬間を見るのがいつも楽しみです。工場内の同僚たちが、「あかねのプロジェクトの遊具、来週水曜日に組み立てられる予定だよ!」などと教えてくれると、わくわくしながら工場に見に行きます。
私は昨年の10月からずっとリモートワークで会社に出勤していないので、完成した遊具が見られないのが一番さみしい。
以上、こういった流れで遊具がつくられています。もちろん、これはプロジェクトの一つの形態で、市や学校から直接注文が来るような、選考会なしのプロジェクトもたくさんあります。
遊具で遊ぶのは、こどもたち。(私もよく遊びますが。。。)こどもたちが遊びたい遊具を一番よく知っているのは、こどもたち。こどもたちのアイデアや希望が届くと、いつもとってもわくわくします。そしてそんなプロジェクトに関われることが嬉しくて、本当にありがたい!
私たちが届ける遊具で、たくさん楽しく遊んでもらえますように。
遊びながら、こどもたちが生きるためのいろいろな力を身につけていけますように。
そんな想いで、この仕事に携わっています。
選考会、そして公園の完成はまだ先になりますが、公園が完成したらデッサウに遊びに行こうと、今から楽しみにしています。
長くなりましたが、そして、こどもたちのスケッチも私のデザインも載せられず文章のみになってしまい読み進めにくかったかと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございました!
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2022年6月にこの遊具が無事完成し設置され、子どもたちが楽しく遊んでいるようです!
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