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なつめ

私が韓国を訪れるようになった理由の一つがこのなつめにある。初めて見たのは市場で籠に山盛りに盛られた生のナツメ。20年ほど前の話だ。まだ日本のスーパーでは乾燥ナツメを売っていなかった。なので私にとってのナツメは生の実。懐かしい~!!子供の頃、庭にナツメの木があって、秋に実を付け食べてみると薄味のりんごみたいな味だった。昔はどこのお家の庭先にもあったように思う。先述したマクワウリみたいに、昔はメジャーだったのに、今は忘れられた存在。きっと甘い物が少なかった時代には貴重な果実。今や果物は甘く美味しく品種改良されて、濃厚な甘さでないと日本人の舌を満足しないようになってしまった。マクワウリを食べるよりメロン、ナツメよりリンゴ。次第に人々は存在すら忘れられてしまったのである。

私の子供の頃もまだ木はあるものの、すでに庭木の中では地味な存在だった。実が成ると言っても、中国や韓国みたいに大きな食べ応えのある物ではなく、我が家のナツメは実が小さく果肉も少ししかないので、誰からも収穫される事が無く、またひっそりと次の季節を迎える。そんな扱いだった。私が実を食べていると、祖母が「沢山食べるとお腹が痛くなるよ」と何故か言われた。私以外の家族は誰も食べていなかったように思う。周りのお宅や親戚も同じ感じだったので、この小さい品種があまり食べられなかった理由かもしれない。調べてみると、ナツメは奈良時代からあり、木は家具、仏壇、実は漢方薬と広く使用されて来たそうだ。茶器もナツメと言われるので昔から親しまれて来た果物であった事は間違いない。

話を韓国へ戻すと、韓国の市場へ行くと懐かしさで一杯。マクワウリやナツメ、生きて飛び跳ねているどじょう等何だか昭和の日本へタイムトリップしたみたいな不思議な感じになる。もっと上の世代の方だったら涙を流してしまうかもしれない。郷愁を感じてしまうのだ。初秋の9月~10月頃になると、韓国の市場やスーパーでは、生のナツメが並ぶ。半分青くて半分赤いまだ半分しか熟してないナツメ。市場では籠に盛られ、スーパーでは日本ではぶどうが入っている様な大きなパックに入れられたナツメ。毎回買って帰りたいなぁと思うけれど生ものゆえ不可能・・

韓国ではそれくらい身近な存在。参鶏湯に入れたり、砂糖と煮詰めてジャム状にし、テチュ茶と言ってナツメ茶として飲まれる。伝統的な喫茶店へ行くと必ずメニューにあるポピュラーな飲み物だ。漢方薬に広く使われており、体を温める作用もあるから、寒い韓国の冬にはぴったりな飲み物。まさに医食同源なのだ。この色んな健康を意識した食べ物。昔は日本でも自然に取り入れられた食べ物が今でも当たり前に食べられている韓国。日本では忘れてしまった何かが残っている国。それが私を魅了した。

今やナツメの味を知る、特に生のナツメの味を知る日本人は少ないだろう。マクワウリみたいに、食べてみたいと思う人は増えるのだろうか?生のナツメは持って帰れないので、乾燥したポテトチップスならぬナツメチップスをお土産で売られている。美味しいけれどやっぱりリンゴの甘さにはかなわない。舌が肥えてより甘いのが好きな日本人に受けるのだろうか?

私のお勧めの韓国土産の一つがナツメ茶。喉が弱い私は、これを冬に熱いお湯に溶いて飲むと、甘くて喉を潤してくれる。柚子茶はすっかりポピュラーな飲み物になったけれど、このナツメ茶も日の目を見たらなと思う。どこのスーパーにも売っているので見かけたら試して欲しい。


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