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第53話 統合前のツインレイの気持ちは反対に働くとは言うけれど


丸めた画用紙が入った筒状のアジャスターケースを抱え、薄暗い廊下を一人歩く。

あきら曰く、「自分の席のフックに掛かっていたから何も確かめずに持ってきてしまった」というそれは、帰宅してから別のクラスメイトの持ち物だということが判明した。

こういう時、自力で学校に取り替えに行けないということに、あの子自身が一番こたえているのを知っている。
「ちょうど買い物の用事があったから、ついでに学校にも寄ってくるよ。」と、そんな嘘の口実をあきらに伝えてから出発した。

日が伸びてきたとはいえそれでも暗くなるのが早いこの時期、所々電気がつけっぱなしの教室もあったが、特に誰かとすれ違うということもない。8組からも明かりが漏れていたが、人の気配は感じられない。さっさとアジャスターを交換して帰ろうと部屋の前まで行くと、ふいに人影が動いた。

「あっ……。」

教室での居残り作業をしているスサナル先生と目が合った。私の姿を認めると、笑顔で近寄ってきてくれて、少し心臓がドキッとした。

「静かだったから、誰もいないかと思いました。」

「今日のうちに、色々とやり残してる仕事をやっつけちゃおうと思いまして。」

近くの机を見ると、学年末の授業参観に向けて保護者に見てもらいたいと思われる、2学年に向けての各自の抱負が置いてあった。

「こないだその、ハセベさんの件はすいませんでした。今、教室まで来れてないみたいだけど、私もあの時横にいてLINEの内容も少し把握してたけど、あきらの対応も唐突すぎたし、2年になったら来られるのかなって……。」

まとまっていない内容を、思いついたまま垂れ流したような私の言葉を汲んで、スサナル先生は首肯する。

「結局彼ら、自分たちでは大人だと思っていてもまだ中学1年生ですからね。まだまだ人間関係の実践という意味では小学7年生の部分があって、不慣れで不安定です。
来年はあきらさんとはクラスも離す予定ですし、ハセベさんのいるパソコン部でも、今登校できている保健室にしても、居場所は僕ら教師でまた少しずつでも作っていきますよ。」

話をしながら「あれっ?」と思う。
思いもかけず放課後の教室に二人きりなのに、この時なぜか、感情の「揺らぎ」が綺麗さっぱりなくなっていた。彼がいるとわかった最初こそ確かにドキドキしたけれど、何故だか今は、喜びも嬉しさもなんにも感じられなかった。

真面目な話をしているせいだからかな。私、この人のことが好きな“はず”なのに、なんでこんなに自分の感情が淡々とものすごく冷静なんだろう。

ハセベのこと、スキー合宿の後のこと、その時借りた本のこと……。会話はちゃんと盛り上がるのに、どういうわけかときめきというものが一切感じられず、驚くほど心が水を打っていた。

なんで、感情が何も感じられないんだろう。どうしてここまで虚無なんだろう。

統合前のツインレイの気持ちは反対に働くとはいうけれど、私、この人のことが本当に好きなのかわからない。スサナル先生が仮にツインレイだとしたら、私が冷静な分、この人は今この空間で、私にときめいたりとかしているの?

「あ!スサナル先生、夜の学校マジ怖ぇー、やべー。
あ、こんばんは。あ、アジャスター?」

派手な足音と共に、クラスの男子がやってきた。

「ダイチさーん!あきらさんの机にアジャスターかけて帰っちゃった?今、間違って持って帰ったからって、あきらさんのお母さんが届けに来てくれたんだよー。」

「マジで?やっぱなんか、人の席に置いてった感覚はあったんだよね。何してんだ俺。
あ、ありがとうございました、助かりました。あきらにごめんって伝えてください。」

不思議な組み合わせで、三人教室を出た。

さすがにこんなに長い時間を先生と一緒にいたとは、いくら偶然だったとはいえ馬鹿正直にあきらに話すには少しばかり気恥ずかしかった。  
なんとなく、本当に買い物が遅くなった体(てい)で帰宅時間を誤魔化すために、コンビニでプリンを二つ買って帰り、冷蔵庫の目立つところにしまった。
 



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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無感覚、虚無を怖がらなくていいです。
統合前のツイン=分離状態の自分と自分。極として反発しているわけなのでシーソーみたいに働くのは当然なんですけどね。(ましてこの時はサイレント前だし。)
本当によくできた仕組みだ!
すごく個人的になんだけど、統合に向けて、肉体から闇がどう抜けていくかの変化や細かい感情たちの変化のプロセス、どこから彼と私が混ざっていったかを顕在意識で観察できた私は、ものすごく幸せだなと。
けーこはそこらへん私と逆で、はなから興味ないからそもそも観察とかしないというね。
ひとことでツインと言っても、ほんと十人十色!!

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