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第207話 波打ち際の人魚の夢


 次に訪れるべき神社の名前が判明すると、全てが恐怖に支配された。浄化も排出も間に合わないほど大量の闇が押し寄せたことで、一瞬で頭蓋骨の中が膨れ上がってパンパンになった。


 それはまだ、六月の上旬のある日のこと。けーこと共に、川崎市にある川崎大師に空海さんを訪ねていた。
 その帰り道、駐車場からほんのニ、三分の場所を通過した時に、男性器が描かれたピンクの幟(のぼり)を発見するとほんの一瞬ギョッとする。  
 けれどもタブーを見たかのように、「確か有名な祭りがある神社だね、こんな所にあるんだね。」と適当に会話を濁して終わらせてしまった。

 『性の大きさは命の大きさ。』

 彼のハイヤーセルフから以前そう教わってはいても、男性への潜在的な怖さによって“直視したくない気持ち”が勝ると私のエゴが無関心を装う。「ここは子宝や夫婦円満を望む、そういう方のための神社だから。」と、自分には絶対に関係のない場所なのだと決めつけて、闇を麻痺させ蓋をした。

 ところがそれからひと月半。
けーこが見た夢の中では、彼女が私を横に連れて、目的地となる場所を探してぐるぐる歩き回っていたという。そしてその話がきっかけで、いつものように推理が始まる。
 顕在意識は一生懸命探しつつ、けれどもできることなら行かずに済ませたい私のエゴが足を引っ張って、場所の特定に難航していた。やっとのことでけーこが探り当てた時、私の中から絶叫が響いた。

 嫌だよ嘘でしょ、よりにもよって。
怖い怖い!絶対そんなところ行きたくない!

 たった五日後、私はここに“行かなくてはならない”。あれほど美和の浄化をしたというのにさらなる闇が上がってくる。普段の日常生活では無かったことにしている男の人への恐ろしさが、出口を求めてこれでもかと湧いてきた。


 川崎大師のすぐ近くにある金山(かなやま)神社は「かなまら様」の愛称で知られる。
 そのもの男性器を御神体とするこの神社。主祭神をカナヤマヒコとカナヤマヒメの二柱とし、夫婦円満のみならず、ツインレイの性や和合にも多くの力を秘めていた。

 とはいえその五日間、掘っても掘っても闇は深く、怖さで涙が止まらない。多くの闇を排出しても、底の見えない恐ろしさに飲み込まれていた。参拝までの猶予期間は、まさに顕在意識にとっての地獄そのもの。人の思考とは基本的に電気信号……電流なのだが、あまりの怖さが災いし、その週二つも家電を壊した。

……

 その朝も、しばらく気持ちが浮かなかった。出発までの支度も緩慢に、それでもこの恐怖への対峙が避けては通れないことを諦めて悟ると、せめて気分を良くするための大きめアクセサリーを選び出す。
 人魚をテーマにした青いガラスのネックレスと、貝殻とヒトデのイヤリング。

 なんで肌が弱いのに、夏の汗ばむ炎天下で素肌にチェーンなど身につけているのだろう。

 当事者である筈なのに、一番何も知らされないという徹底的な傀儡(かいらい)ぶりには毎回自嘲するしかなかった。


 パーキングから道路を渡り、鳥居を潜るとその幟旗からは想像のつかない落ち着いたエネルギーが出迎えてくれる。隣接する若宮八幡神社から先にご挨拶に行くと、「見守っているよ。頑張って。」との後方支援をいただいた。
 それからいざ、金山神社の敷地のほうへと足を踏み入れるとまずは二手に分かれる参道を目指した。複数並んだ朱塗りの鳥居と、すぐ隣には白塗りの鳥居。
 奥にあるウカノミタマから手を合わせると、多くの光が注ぎ込む。

「すべて置いていきなさい。可能な限り、私の元に置いていきなさい……。」

 大量の光のあたたかさを目がけて、闇が一気に上がってくる。彼女の言葉に甘えさせてもらうと、こちらもできる限り内側の闇にフォーカスした。苦しいほどに闇が抜けて、軽くなったことにたくさんのお礼を述べるとその祠を後にした。
 そして次に白い鳥居を潜っていくと、嬉しいことに大鷲(おおとり)神社と書いてある。その名前だけでどなたかわかる。ここまで来て、幼馴染に会ったような、いとこか親戚に会ったような急にホッとした感覚に陥り、その安心感から泣いてしまった。

「けーこぉ、タケルだ……。」(※)

「ああ、だからか。『ひみを連れてきてくれてありがとう』って言われたよ。『ひみ一人だったら絶対に来ない場所だから』って。」

 ウカノミタマも全力で浄化を手伝ってくれたけれど、こちらの彼にも繋がると、それでもまだまだ闇が出る。

「怖かったよタケル。私、ここに来るまで必死で向き合って頑張ったけど、毎日本当に怖かったよ。」

 そうして目を開けた瞬間、信じられないことが起こっていた。パッ、パッ、とリズムよく、アゲハ蝶が視界を掠めていった。最初は眉間の数センチ目の前、次の羽ばたきでは右耳の真横。生まれて初めて蝶の羽音を耳で聞き、その風圧を体感する。
 そしてそれがタケルからの贈り物だと気づくのに、いくらも時間がかからなかった。


 その後改めて本殿へと向かうと、いくぶん恐怖が和らいでいることに気がついた。御神体を模したという真っ黒い像には結局近づくことはできなかったけど、ご祭神のお二人からは、鐘の音(※)の祝福が聞こえる中でこんな言葉をいただいた。

『男性が、女性に与えたい性とは愛なのです。愛が具現化した形が男性の肉体そのものなのです。
性とは本来綺麗なもの。とても美しいものなのですよ。』

……

 けれども疲れきっていた。県外まで運転するのとはまた違った意味での重労働で、その神経を消耗していた。
 帰宅するなりソファーに倒れ、うとうとと、寝落ちしてしまいそうになったその瞬間。いつものように突然脳内に曲がかかると、迷った挙句眠い体を頑張って起こしてから歌詞サイトを検索する。このまま寝てしまったらおそらく、せっかく降りてきたシンクロサイン自体をすっかり忘れてしまうだろう。

 その情熱的なイントロは、スサナル先生からだった。熱のこもった視線と共に、私のことを「人魚にしたい」とちょっと淫らな歌詞が届いた。
 本来綺麗だという私の性が反応し、たくさんの嬉し涙がとまらなかった。そうして性は少しずつ、あるべき姿を取り戻そうとしていた。




※タケル……ヤマトタケルノミコト様です。私は普段からタケルと呼ばせていただいています。今、執筆に当たり「タケルはタケルだよね。」と聞いたら、「うん、あなたはそれでいいよ。」とのことでした。

※鐘の音(かねのね)……「=金の音」と注釈表記するように、との指示がありました。
ここ金山神社は、鍛治(かじ)の神様、金物の神様でもありますが、男性から女性への性、つまり愛とは、この三次元においてはお金にも通じるとのことです。第二チャクラを思い出していただけるとそのまんまですよね。


written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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 今回の話を書くの、かなり大変でした。
渦中のその時期は、主に男性の肉体そのものが怖かったわけですが、今これを書きながら出てきたのはなんと、「この五日間の、ここに行くことへの恐怖」という、当初とはまた別件の恐怖が生成されていたことに気がつきました。「赴くこと自体が怖かった」というまさかの闇です。
……よかったー。小説に書いてなかったら、なかなか気づけないやつだった。

そんな訳で、一昨日から昨日にかけて、この話を書くことに合わせてたくさんの神々がまた助力してくださったんですけどね。

それで昨日、金山比古さんと金山比売さんにも繋がったところによると、『本来の性を知っている人が現在の地上にまだほとんどいない』とお嘆きでした。不真実の性に欲情できるのって地球くらいなものですけど、みんなそっち『だけ』しかわからないまま人生終えて死んじゃってるってことですからね。

おそらく明日の話では、そのあたりの解説になると思います。

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←今までのお話はこちら

→第208話 プレアデスの性と子宮に棲む龍

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