第96話 陰には陰の、陽には陽の。
サイレントに入ってから初めての新月を迎えた。
高さのある防波堤の内側のようなところで、スサナル先生と向かい合っている夢から一日が始まった。荒波から身を守るその場所に二人で立っている間、頭の中にはずっと歌が流れていた。「今、離れていても君に想いを捧ぐ……」。先生の好きなバンドの、そんなかんじの歌だった。
新月や満月は、強力な切り替わりを引き起こす。
その日を境に睡眠サイクルも変化するし、良くも悪くも体調も変化する。けど仮にそうだとしても、今日の新月は色々とおかしい。
出かける支度の最中には、キリストのように白い布を被った先生のビジョンが現れるし、唐突に私を気遣うようなトーンで「元気？」と尋ねる声もする。夢からなにから切なさを呼び起こすようなことばかりが立て続けに起こり、胸が苦しくなってしまう。
他の人もサイレントってこんな風に、失恋したのに想い合ってる「報われない感覚」みたいな中を進んでいくものなのかな……。
…………
その日の午後は車を置いて、けーこと二人で半径約2キロほどの近所を歩いて回った。
あきらの母校の小学校にほど近い神社では、太鼓を持った陽気なおじさんの神様に「地元もいいだろ？捨てたもんじゃないだろ？」と言われながら。また別の神社では、大日孁貴と名のついた、アマテラスの巫女時代の光の美しさと触れ合いながら。
緑地や公園、城跡など。男性性と女性性の統合や、剣と勾玉についての考察をあれこれと話しながら、穏やかな“陽気”の中をのんびりと散策していった。
「ええと次は……すぐそこだし、ここ行ってみて、今日は最後にしようか。」
現在地からたった数百メートル先の住宅街に「稲荷明神」の名前を見つけると、そこを目的地にと歩き出した。
ところが民家の間の細い路地を入ってみると、そこにはお世辞にも神社とは言えないような、独特の澱んだ気が流れていた。
境内と言っていいのかもわからない、車2〜3台分くらいの狭い敷地の両サイドからは、外敵の侵入に備えるような板塀が伸びていた。異様なことに、社殿の真向かいに当たるその塀の切れ目には何本もの太い閂が通されていて、そのせいで鳥居までもが塞がれて、決して人が中に入れないようになっていた。
隣の平屋の民家では、割れた窓の隙間から陰気なラジオの音が聞こえ、縁側に座ってタバコを吸っている老爺からはずっと、他所者を睨め付けるような視線が飛んでくる。また失礼を承知でさらに書くと、何メートルも離れているのに威嚇するかのような加齢臭がこちらにまで届いてきていた。
咽せ返りそうな重たい空気にあまり多くのやり取りもせず、鳥居の外から丁重にご挨拶だけして大人しく敷地を後にした。
路地を抜けて再び通りに出ると、自分でもホッとしたのか肩で大きく息をした。近所で親子が遊んでいるのかシャボン玉がキラキラと飛んできて、それでもこの稲荷明神まで来たのは間違いではなかったという“受領証”のようなサインをもらう。
急に明るくなった空に安心しながらも、帰り道は小さな川沿いの一方通行道路を選んで戻ることにした。
すると間もなくたった2〜3メートル後ろに、私たちと全く同じ速度で歩く二人の女の子が出現した。漏れ聞こえてくる会話の内容から、あきらと同じ中学校だった卒業生の二人組だとすぐにわかった。
その彼女たちは、私とけーこに追いつくでもなく抜かすでもなく同じペースを保ち続け、結局4人が同じ歩幅の一つの生き物のようになって、気づくと1キロ以上も一緒に歩いていた。さっきの稲荷明神から、隙を見て付け狙おうとしている何らかの良からぬモノとの間に立って、私たちを守ってくれていることは明白だった。
川沿いの道を左折して、二番目の信号のところまで来た時。巫女としてのお役目から解放された、後ろの彼女たちが放つ声が聞こえてきた。
「はぁー、終わった終わった。」
「役目は果たした。」
そのまま直進する私たちを見届ける形で、赤信号が変わるのを待っている彼女たちとはそこで解散することになった。そしてその安全な場所まで来ると、ようやくけーこが教えてくれた。
「スピにもさ、裏社会ってあってさ。うちらはさっき、そっち側の偉い人に会ったんだよ。これからうちらが行く先で、そういう輩がいる場所を通る時にもすんなり顔パスできるように。
……でもさ、下っ端って、長の言うこと聞かないのもいるじゃない？さっきみたいにしつこいからね。だからあの子たちがガードとして遣わされてきたんだね。」
スピリチュアルの裏社会にまで関わるなんて、そんなの本望ではないのにな。一体私は何をさせられているんだろう……。
自分がどこに向かうのか益々わからなくなってきて、けーこの言葉に軽い混乱を覚えた。
2025/2
今さらnoteのルビを調べ直しました。
確かルビ機能のリリース時って使用制限があったと思って手を出してこなかったけど、今見たら制限無さそうなのでちょっと試しに使っていこうかと。
ただ逆に神名などは読みづらいのかも。
また神々の名前などは一柱に対しても複数あり、どの漢字を当てるかは私の好み（フィルター）によります。
少し試してみますね。
written by ひみ
⭐︎⭐︎⭐︎
実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説（笑）、ぜひお楽しみください。
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今思えば、この裏社会の長はかわいいものでした。
このずっと後になって、もっと恐ろしいところまで行ってきたわけだし。
→『神社（の意識）に苦笑いされた話』（アメブロに飛びます）
いや、当時も当時で、無鉄砲になれる下っ端の存在ってそれだけで充分怖かったけどね。上に立つ方々はそれでもわきまえてるからいいんだけど。
どんなレベチwであっても、どんなに格の差があっても、負け戦ってわかってても、彼らは捨て身で抵抗してくるんだよ。そこが怖い笑
昨日また大きな気づき（統合）のあと、運転してたらチャリンコは急に飛び出してくるし、拭いたばかりのフロントガラスには虫が当たって鱗粉飛び散るし、ねぇ。
彼らの抵抗心、半端ない笑
それだけ今地球は不安定で、あなたも含めて集合意識が助けを求めてるってことなんだけどね。
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