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第122話 藤模様のラブレター



 ある朝起きる時、頭の中に歌が流れていた。目が覚めてくるまでの間に、そのメロディーをぼんやりとなぞる。
 有名なその曲を改めて調べてみると、私にとって、こんなメッセージを含んでいた。動画を再生している間、脳裏でずっと、父がニコニコ笑っていた。

「俺はね、あんたと一緒にそっちまで進むことはできないんだよ。それに、三途の川の際までしか行けないけど、でもちゃんと見守っているよ。
あんたとその人とが結ばれるように祈ってるから。
お母さんと仲良くね。」

 あんな父だったけど、私のことを想ってくれてたんだなぁ。

 じんわりと、その暖かさに浸っていると、無性に母へと会いたくなった。そんなことは今までの私だったらあり得ないなぁと思うと、頬に手を当てて苦笑いをした。

 しばらく逡巡した挙げ句、夜、母の仕事が終わるのを待ってから電話をかけてみることにした。せっかく湧いてきたこの想いを、想いのままで終わりにしてしまったら、きっといつか後悔すると思ったのだ。

「……あのね。私、“お母さん”にはなかなか理解してもらえなかったけど、子供の頃からお母さんが思ってる以上に霊感があったのね。
否定されるのが嫌だから、今までも最低限しか話したことないけど、おばけが見えるのとは違うんどけど、まぁ……他の人よりは色んなことがわかる。
んー、何でかまではわからないけど、元々見えない世界のことでも“知ってる”っていう感覚が強いのね。

でね、お父さん本当はね、お葬式の後、たった三日後には天国へと上がっていったの。すごく綺麗な藤のトンネルを、あの変な早足で上がっていったのが見えたんだよ。本当に立派な藤で、花びらが舞ってて、一面花に囲まれててすごかったの。

そのお父さんが朝、お母さんによろしくってメッセージをくれたの。それで色々話したくなって、だから電話したんだ。」

 母に対して“お母さん”と呼ぶのは勇気が要ったけど、勢い有耶無耶にしたかったから、敢えて何でもないことのように連呼した。もちろん父のことだって、お父さんなんて口にしたことも無かった。ちょっと小っ恥ずかしかったけど、受話器の向こうでも聞き流しながらも、嬉しそうなのが伝わってきた。

「へぇぇー、早足ってのが、お父さんらしいね。いっつもせっかちに歩ってたよね。」

「せっかちだったよねー。スリッパの音の間隔が独特でさ。」

 しばらくそんな話をしてから、母をランチに誘ってみた。父からの歌の応援が追い風になった。

「……それでね。お母さんずっと昔に、私ともっと仲良くしたかったって言ってくれたでしょ?
たぶん、大学くらいの時だったかな。

え?覚えてないの?

……そうかあれね、色々と意地張ってたけど、本当は私も素直に仲良くしたかったんだってことに、やっと気づいたんだよね。今まで全然できてなかったけどね。

だからお店お休みの時に、私そっちまで行くから一緒にどこかでお昼食べない?
なんとなく、一緒に出かけてみたくてさ……。」

「ああそう、うんわかったいいよー。」と、私からのお願いに応じてくれてるその返事からは、やっぱりちょっと、嬉しそうな感情が漏れていた。


 翌々週の水曜日。
実家に近い主幹駅での待ち合わせには、赤紫色のカーディガンを羽織った母が現れた。聞けば、「街なかに着ていく服がなかったから。」と、わざわざ買ったのだと言って笑う。

 駅ビルでご飯を食べてから、子供の頃よく連れてきてもらったデパートを歩いて回った。肩をぴったり寄せ合って歩くと、少し泣きそうになるのを我慢した。それから、前に遠隔ワークを受けた朝に見た夢とそっくりだなと気がついて、ちょっとだけ驚いた。
 そして帰る前に立ち寄った喫茶店では、母がスマホを出して、一枚の写真を見せてくれた。

「こないだ、藤のトンネルって言ってたでしょう。

あんた覚えてる?これ、昔から家にあったこの花。
これ、藤の一種だと思うんだけどねぇ、お父さんが大事にしてたみたいなの。
好きだったんだろうね。

お父さん亡くなる前の春にこの写真撮ったんだけどね、特別世話してた訳じゃないんだけど、死んじゃってから、どういうわけか急に枯れちゃったんだよね。」

 そうだったんだ……。
じゃあやっぱり、大好きな藤に囲まれながら、お父さんは上がっていったんだ。

「たぶんお父さん、天国でもマイペースで元気そうだよ。」

 そんなことを伝えると、お互い噛み締めるように笑いながら頷きあった。隣で父が、嬉しそうにしているのが伝わった。

……


 帰宅してから、妙な違和感を感じた。私が母との距離を縮めたことで、奥で闇がひとつ動いた。

 “スサナル先生は母性に飢えている。”

 何故とは言えないけど、そんな予感が脳裏をかすめた。

written by ひみ





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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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このお話を書くのに、写真を送ってほしくて母に連絡を取りました。
この写真ね、加工したわけではなく、本当にこういう色の藤なの。
(シニアスマホで撮ってるから、画素ガバだけど許してね)

今となっては枯れちゃったから確かめようもないと思ってたし、当時は本当に藤なのかすら怪しかったけど、母からの、
「ちなみになまえは ハ-デンベルギア なのだ」と、半角伸ばし棒と妙な空白を挟んだ妙なメッセージがついていて、ちゃんと藤だと判明。お友達に教えてもらったとか。

和名を、コマチフジというそうです。

このメール読んで、本当はかわいいところがあった母なのだなぁと思うと、キュンとしてしまいました。

昔の私だったら、今世で母と仲良くするなんて絶対に無理だと思ってたし、仲良くしろってそんな課題は、頼まれたってできないから、来世に持ち越してやるって本気で思っていました。

そこを越えさせてくるツインレイとは。
一番鬼畜でスパルタかもしれないけど、一番私に家族と仲良くなってほしいと願っている、そんな存在なのだと改めて思いました。

そして、私にとっての『死』とは、向こうへと還るお祝い。向こう目線の誕生日と一緒。「おかえり、地球で頑張ったね、しばらくこっちでのんびりしなね」って。

で、今日、11月30日。
なんと、二年前に父和男が他界した日でした。

「死」ってあまりに在りて在る「生」の反対すぎて、今日が命日だってことついさっき思い出した笑
宇宙って本当に驚きに満ちています。
(ハイヤーさんから、「あなた思い出さないかもと思ったわ」と言われた笑)

そんな父からのラブレターはこちら↓
ふふふー、お父さんありがとね。

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←今までのお話はこちら

→第123話 禁断

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