花葬場
帰りが遅くなってしまった。私は慌てて花屋に駆け込み花を買う。夜遅くまで営業してくれて本当に助かると文さんに伝えると緑色のブーケを作りながら彼女は笑って言った。
「忘れませんよ、嵐がやってきたって店開けてやりますから」
今日は優子と原田の命日だ。二人は昔火葬場があった灘竹と言う場所の近くで心中した。今は火葬場はなく建物の一部と冊に囲まれたでこぼこと盛り上がった土が見えるだけで他には何もない。
はずだったのだが…。
「ちょいとお姉ちゃん、手相見てあげるよ」
幽霊だ。私の疲れは酷く、そんなにまでなっていたなんてと自分のほっぺたをつねってみる。
…痛い。
「お化けじゃないから。あんたが来るって知ってて来たんだよ」
「あんたって誰」
「ははっ!噂通りだねぇ。まあいいから、先に花を置いてきなさいな」
私は火葬場があった場所を通り過ぎ、少し先にある小さな丘の上まで歩いていった。後ろを振り返るとお婆さんの姿がちいさく見え、こちらに向かって手を振っている。
優子は私の幼なじみで花屋の文さんは原田の大学時代の知り合いだった。原田は大学時代に男性になった。昔から外見は男性だったのだが優子と出会い共に歩んでいくことを決めたのだろう。
今二人は一緒にいる。私は悲しんだりはしないと決めていた。
文さんに作ってもらったブーケを少し湿った土の上に置き、手を合わせる。いつもならこれでおしまいなのに、先に出会ったお婆さんのことを思うと一瞬嫌な気持ちになる。夢だと思いたいときに限って大体現実だよな。
案の定、お婆さんは私を待っていた。仕方なく手相を見てもらい代金を支払う。
「高いんじゃない?」
「出張費込みよ」
「呼んでないし」
散々、私の性格についてああだこうだ言っといて結局皆同じことを言う。そう、未来は明るいんだ。
お婆さんと一緒に駅まで帰ろうと二人でそこを離れようとしたところ地面が真っ赤に光った。
「え?」
私とお婆さんが振り返ると空中に渦を巻いて花弁が舞っている。それは炎のように燃え盛っているように見えた。
「幽霊だ」
腰を抜かしたお婆さんをおんぶして私は駅へと向かった。その時も地面は赤く広く光っていた。
その時、優子と原田の気配を感じたので本当に幽霊だったのかもしれない。
私は明日、この話を文さんにしようと思う。花弁の光は多分二人だと彼女ならきっとそう言うだろう。
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