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できないことが増えていく老年期。VRリハで「できた!」という喜びをめいっぱい味わってほしい。 #ユニコの森 介護福祉士・看護師インタビュー

「VRでリハビリって、実際どうなの?」

mediVRカグラに多く寄せられるそんな疑問を解消するため、導入施設のみなさんに感想を聞く本企画。今回は、兵庫県西宮市にあるリハビリに特化したデイサービス「ユニコの森 リハビリセンター西宮北口」の高塚智子先生、高見朝子先生にインタビューしました。

「自分たちが将来通いたくなる先進的なデイサービスにすること」を目指し、高齢者でも無理なく楽しく取り組めるリハビリを提供する同センター。その一環として、2020年9月からカグラによるVRリハビリをメニューに加えてくださっています。導入から一年弱、おふたりはカグラにどのような印象を抱いているでしょうか。

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高塚智子先生(写真左) 介護福祉士。1998年大阪成蹊女子短期大学体育科を卒業後、20年ほど公立中学校で臨時体育教師として勤務。2008年に介護職となり、2014年にユニコの森に入職。

高見朝子先生(写真右) 看護師。1997年関西労災看護専門学校を卒業後、看護師として病院や老健、訪問看護施設等に勤務。2020年にユニコの森に入職。

リハビリは日々進化していくから、最先端のものを提供したい

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VRを活用し、外部動力を使用せず、診断治療に有用な測定値、又は課題達成度を評価するために用いるリハビリテーション用訓練装置、mediVRカグラ。大学や病院、高齢者福祉施設に導入され、脳梗塞、高次機能障害、認知症、股関節疾患、慢性疼痛など、幅広い疾患のリハビリに使われています。詳細はこちら

————VRを活用したリハビリがあることはご存知でしたか?

高塚先生:いえ、まったく。施設でカグラを導入することになって初めて知りました。最初に体験させてもらったときも、単純に「楽しいな」という印象で、リハビリにどうつながるのかはイメージできませんでした。

高見先生:家庭用のゲーム機で運動できるソフトがありますよね。最初はあれと似た感じなのかな、と思っていたんです。原先生の講演動画を見たり、資料を読んだりするうちに、どういう機器なのかがわかってきました。

—————新しい機器や方法を取り入れることに抵抗感はありませんでしたか?

高塚先生:医学もリハビリも日々進化していくから、最先端のもの、最良のものをご利用者さまに提供しよう、というのがうちの理事長の考えなんです。カグラの前には、パワープレートというトレーニングマシンを導入しました。いまは、パワープレートとカグラを組み合わせたリハビリの効果測定に取り組んでいるところです。

————すぐに操作できるようになりましたか?

高見先生:私はATMの操作も迷うくらい機械音痴なので、最初は「壊しちゃったらどうしよう」と不安で。でも、操作自体は難しくなかったし、わからないことがあったら原先生や村川先生に質問するとすぐに答えてくれるので、安心しました。

高塚先生:私たちも毎日練習したので、基本操作に関してはさほど困らなかったですね。ただ、実際に利用者さんにリハビリを提供する段階になると悩むことも出てきました。利用者さんによって症状が異なるので、「この方にはキャリブレーションをどこまで取ったらいいのかな」って。いまも、スタッフみんなで相談しながら進めています。

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ケアスタッフとしてとても優秀なおふたり。専門家でも取得の難しいカグラの講習修了認定証もすぐに出すことができました。

楽しさを入り口にして取り組んでもらう

————現在はどのようにカグラを使っていますか?

高塚先生:毎回メニューの最後にカグラを取り入れています。大きなモニターに画面を映して、一人ずつ順番にリハビリをしていって、その様子をみんなで見守るんです。利用者さん同士、お互いに「今日は動きがよかったねえ」と声をかけあっています。

高見先生:もともと利用者さん同士の仲が良くて、すごく和やかな雰囲気なんです。ほかの人の姿を見て「私もがんばろう」とモチベーションを高めてくれています。

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————利用者さんは最初からVRリハビリに乗り気でしたか?

高塚先生:いえ、最初は「これ何?」という感じでしたし、「みんなの前でやるのは恥ずかしい」と尻込みされる方も多かったです。でも、「楽しくて簡単な動きでできるリハビリです」「ゲームみたいなものだから、難しく考えないでちょっとやってみませんか」とお声かけして、まずはVRゴーグルをかけてもらうところから始めました。

一度やってみるとみなさん「楽しかった!」と言ってくれますし、その様子を見てほかの方も乗り気になってくれました。楽しさを入り口にまずは取り組んでもらって、「この動作ってものを取るときの動作と同じでしょう? 日々の動きの訓練になっているんですよ」と説明するようにしています。

高見先生:ただ、人によっては「遊びみたいなもので良くなるはずがない」と思われる方もいます。とくに男性にその傾向が強いですね。そういう方には「ゲーム」という言葉は使わず、「新しいリハビリに挑戦しましょう」とお声かけするようにしています。最初は渋っていた方も、一度体験していただいて、こちらが一所懸命褒めると、ニヤッと笑ってくれたりするんですよ。

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————利用者さんに合わせて、お声かけを変えていらっしゃるんですね。みなさん、いまはカグラのリハビリを気に入ってくれていますか?

高塚先生:はい。あるときから、一人ずつ目標を設定するようにしたんです。たとえば、手を伸ばすときに顔が下がってしまう方には、「今日は目線を上げることを意識しましょう」といった風に。そうしたら、みなさん急激に動きが良くなっていきました。やっぱり目標があると張り合いが出るし、達成できると嬉しいんですよね。

高見先生:利用者さんの記録ノートをつくり、スタッフ間で共有しているんです。「今日はここまでできました」「次はこれに挑戦しましょう」って。一人ひとりの状況やその日の体調に合わせて、提案するようにしています。

利用者さんにとってはもうカグラをやることが当たり前になっているので、一度メンテナンスでできなかったときは、「え〜今日カグラできないの?」と残念そうにされました。

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上を見上げることができなかった方が、初めて施設の天井を見ることができた

————利用者さんに良い変化は表れていますか?

高塚先生:カグラでVRリハビリをした直後は、ちょっとだけ姿勢が良くなったりしますね。1人当たり5分程度のリハビリのため1回で劇的に変わるわけではないけど、反復することで動作がスムーズになっていきます。

椅子に座っていて床にものを落としてしまったときに、それまでは拾うことができなかったけど、「そうだ、VRリハビリのときに教えてもらった身体を伸ばす感じでやってみよう」と思ってやってみたら拾うことができた、ととても嬉しそうに話してくださった方もいました。

高見先生:肩こりが強くて上を見上げることができなかった方が、落下ゲームをするうちに首が回るようになって、「初めてここの天井を見たよ、こんな照明だったんだね」と言ってくださったこともありました。「家で洗濯物をかけられるようになったよ」と報告してくださった方もいます。日常生活のQOLが上がっているんだなと思うと、私たちもすごく嬉しくなります。

仮想現実では、自分の身体に対する思い込みが外れるのかもしれない

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————従来のリハビリとカグラを使ったVRリハビリとは、何が違うと思いますか?

高見先生:集団体操などをするときは、利用者さんが「自分の腕はここまでしか上がらない」「これ以上動かすと痛くなる」という思い込みから動きをセーブしていることもある気がします。いままでは私もそれを見て「これ以上は難しいんだな」と判断していたのですが、VRリハビリをしていると、想定よりも腕が上がることがあるんです。

VRゴーグルをかけると、自分の身体は見えず、動きだけがわかりますよね。そうすると「目の前に出てくる的に手を伸ばす」ことだけに集中できて、「自分にはこれ以上できない」という思い込みを飛び越えていけるのかな、と思っています。ご本人も、「こんなにできると思わなかった」と驚かれますね。

高塚先生:とくに、「リハビリはしんどいもの、頑張らないと良くならないもの」と思っていらっしゃる方は、「なんでこの簡単なリハビリで良くなるんだろう?」とふしぎそうにされますね。

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ポジティブなフィードバックが与える効果

———— 一年近くカグラを使ってきて、感じたことや考えたことはありますか?

高塚先生:若いうちは何も考えず感覚でぽんとできていたことが、歳を取るにつれて距離感などを目で見て判断しないとできなくなります。でも、VRの世界では自分の身体が見えない分、感覚をしっかりと身に着けないといけません。手を出す位置が少しでもずれたら当たらないから。カグラには、失った感覚を取り戻して、脳を活性化する効果があるのかな、と思います。

高見先生:私はカグラを使うようになって、「声掛け等を通したポジティブなフィードバックの効果って大きいな」と改めて実感しました。大人になると、人から褒められることって減りますよね。自分に対しても他人に対しても「なんでできないんだ」というように「できないこと」に目を向けてしまいがちです。とくに、老年期の方や障害のある方は、「これまで当たり前にできていたことができなくなってしまった」という悲しみに常に直面しています

現実世界には、見えないバッテンがいっぱいあると思うんです。正解がひとつだとしたら、それ以外はバツですよね。そして、正解がどこにあるかわからないから、何かをやる度にバツ、バツ、バツ、となって落ち込んでしまいます。

VRリハビリでは、成功した時にしっかりと声掛けをして、「それでいいんだよ」と伝えるようにしています。とてもわかりやすくマルを伝えられるから、利用者さんも肯定感を感じられるし、迷わずそこを目指していけるんだと思います。身体のリハビリだけじゃなくて、気持ちのリハビリになっているのではないでしょうか。

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————利用者さんの心のケアをとても大事にされていらっしゃるんですね。

高見先生:カグラの使い方を教わる過程で、村川先生が利用者さんのことも私たちのこともたくさん褒めてくれたんです。それが自分でも意外なほど嬉しかったから、私も普段の生活のなかで、自分に対しても人に対しても、いいところを見つけるようにしました。「これができてない、ダメダメ」じゃなくて、「ここまではできた、大丈夫大丈夫」って。

そうしたらすごく気持ちが穏やかになったし、ちゃんと言葉にして伝えることで利用者さんも嬉しそうにしてくれて、温かい気持ちが循環していくように感じました。私自身も、カグラに出会えてよかったと思っています。

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mediVRの専属作業療法士、村川雄一郎。褒め上手と評判!

高塚先生:80代を過ぎると、「楽しみがないねん」とおっしゃる方が多くなります。でも、VRリハビリはゲームのような楽しさがあるし、VRリハビリを通してほかの利用者さんとの会話が生まれたり、みんなから褒められたりします。カグラは、そうした「楽しみのある場」をつくれる機器なんですよね。まずは気持ちの面から入って、続けていくうちに身体も変わっていく。そういうことを大事にしたいと考えています。

高見先生:「歳を取るって辛いね」「病気になるって悲しいね」だけじゃなくて、困難があっても自分らしさを保って、楽しく生きられることってすごく大事なことだと思っています。そこを守れるようなリハビリをしていきたいです。

————ありがとうございました。最後に、何か付け加えたいことはありますか?

高塚先生:しょうもないことなんですけど……最近、「果物ゲーム」で失敗したときに、アライグマが果物をこっそり取っていくことに気づいたんです。利用者さんが失敗したときに「ほら見て、アライグマが出てきた!」って伝えて、みんなで大笑いしていました(笑)。

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高見先生:失敗しても、バツにならないんですよね。「アライグマに会えた!」って嬉しくなっちゃう。カグラのそういうところがいいな、って思います。

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<インタビューを終えて、mediVR代表・原より>
高塚先生と高見先生をはじめユニコの森のスタッフの方々は、カグラを作ったときに意識した深い哲学的な部分まで理解して使っていただいているので、いつも本当にありがたく思っています。今回のインタビューを通して、「ここまで考えてくれていたんだな」と改めて感激しました。

VRリハビリは心と身体の回復という視点はもちろんのこと、社会復帰という視点をすごく意識して作っています。つまり、他者とのかかわりを生み出すような仕掛け、集団で使ったときにコミュニケーションが生まれる仕掛けを沢山入れ込んでいるんです。そういう細かなコンセプトを読み取って実践してくださっているのは本当にさすがの一言でした。

ただ、高見先生がコメントしてくださった「使っている人まで元気にする」といったことは想定しておりませんでした。そういう意味では、我々の想像を上回る使い方をしてくれているとも言えます。

今後も高塚先生や高見先生のような方の働く施設にカグラを導入していけるよう、頑張ってまいりたいと思います。

取材日:2021年7月12日
取材協力:ユニコの森 
撮影:山中陽平  執筆:飛田恵美子
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