急性期でmediVRカグラを運用。患者選定やリスク管理の方法は? 第4回カグフェッショナル・ツカザキ病院
急性期の病院から、「VRリハビリの対象になる患者の選定が難しい」という話をよく聞きます。急性期の早期からVRリハビリを実施しているツカザキ病院では、どのように患者選定やリスク管理を行っているのでしょうか。
第4回カグフェッショナルでは、ツカザキ病院のトリプル田中先生(リハビリテーション科専門医の田中貴志先生[Dr]、作業療法士の田中晴之先生[OT]、理学療法士の田中裕規先生[PT])にお話を伺いました。
(※以後、「田中Dr」「田中OT」「田中PT」と記載させていただきます)
正直に言うと、最初はVRリハビリの導入に抵抗感もあった
――まずは貴院の紹介をお願いします。
田中PT:ツカザキ病院は兵庫県姫路市にある救急医療を中心とした病院です。集中治療室と一般急性病床のほか、回復期リハビリテーション病棟を40床保有しています。疾患割合では脳疾患が全体の25%を占めており、mediVRカグラも主に脳疾患患者さんに対して使用しています。導入後6か月で約105名の脳疾患患者さんにVRリハビリを実施しました。
――mediVRカグラの導入に至った背景を教えてください。
田中PT:先ほどお伝えしたとおり当院は脳卒中患者さんが多く、内科的治療・外科的治療も多数行っています。そのなかでも重症患者さんは身体機能や認知機能が改善しにくい臨床場面によく直面します。また、パーキンソン病などの進行性の神経難病疾患や慢性疾患でも同様の現象に悩まされていました。VRリハビリなら従来のリハビリでは改善しにくいこのような症例にもアプローチできるのではないかと考えたことが導入を決めた一番の理由です。また、導入施設がまだ少なく集客や採用のアピールになることも勘案しました。
――最初に導入を提案してくださったのは脳神経外科の先生だと伺いました。リハビリテーション科のみなさんはどんな印象を抱いたのでしょうか。
田中OT:新しい機器に対する興味半分、本当に臨床で使えるのか疑問半分でした。当初は疑問の声の方が多かったかもしれません。
田中PT:脳卒中治療ガイドライン2021からVRリハビリの項目が追加されたことは知っていたのですが、mediVRカグラのことはそれまで存じ上げず、当院に導入されるとしても数年先だろうと考えていました。導入の話が進んでいく過程では、正直に言うと「仕事が煩雑になりそうだな」という抵抗感も現場にはあったと思います。
――普段忙しく働いていらっしゃるセラピストのみなさんからすると、新しい機器を導入するときは使い方を覚えたりオペレーションを考えたり手間が生じるので、抵抗感を覚えるのは当然だと思います。そこから意識はどのように変わっていきましたか?
田中OT:導入後、リハビリスタッフ8名でカグラチームを設立し、御社の大阪リハビリセンターで研修を受け、実際に院内で患者さんに使用していきました。
田中PT:田中Drから「この症例にはVRリハビリが向いているんじゃないか」と指導していただきながら使用していき、成功体験が重なるにつれて少しずつ「いいな、これ」と思うようになりました。導入当初はやはりシステムや教育面において一時的に煩雑になりましたが、リハビリ自体は座位保持練習とそこまで変わりはなく、負担には感じていません。
――導入前のデモンストレーションには脳神経外科の先生も見に来てくださり、セラピストのみなさんと「あの患者さんに使えそうだ」とディスカッションされていましたよね。とても風通しのいい職場なんだなと思いました。
田中PT:はい。普段から医師が臨床を回りリハビリに熱心に関わってくださいますし、指示命令系統もしっかりしているので助かっています。
――導入後、感動した瞬間はありますか?
田中OT:一番は、リハビリによってパーキンソン病患者さんの10m歩行速度が5秒以上短縮したときです。また、半側空間無視の患者様さんの線分二等分試験が誤差1.3㎝から0.4㎝に、線分抹消試験は83秒から68秒に改善するなど、顕著な改善が見られています。やはり、こうした効果が得られた瞬間は感動しますね。
田中Dr:半側空間無視の患者さんって、空間把握が難しいんですよね。でも、VRリハビリの後は真正面を認識しやすくなる。正中を向けなかった方がごく自然にまっすぐ前を向いて座っていて驚きました。従来のリハビリのようにむりやり無視側を向かせて刺激を入れるよりもすんなりと変化が出るので、その印象は強く残っています。
――患者さんの中には、VRゴーグルをかぶった瞬間にスッと前を向けるようになる方もいらっしゃいます。治療する側としてもおもしろいですよね。周囲の刺激を制御できるところがVRの強みなのかなと思います。
適応判定フローチャート、使用者リスト、実施時間管理表、申し送りシートを作成
――mediVRカグラを運用するにあたり工夫した点を教えてください。
田中OT:mediVRカグラ適応のフローチャートを作成し、これに準じて患者選定を行っています。また、誰がmediVRカグラを使えるのか、いつ使用する予定なのかを見える化するために、使用者リストと実施時間管理表を作成しました。代診の際も治療方法や難易度設定にばらつきがないように、mediVRカグラ専用の申し送りシートも活用しています。
――運用上の混乱がないよう、とても丁寧に仕組みを考えてくださっていますよね。こうした仕組みを取り入れたことによる変化はありましたか?
田中OT:フローチャート導入後、ほかのスタッフから「この患者さん、VRリハビリ候補かもしれません」と声をかけていただくことが増えました。
――VRリハビリを適応する患者さんの対象はずっと変わっていませんか?
田中PT:最初は失調や軽度の麻痺から始め、VRリハビリのコツを掴んでから重症患者さんにも使うようになりました。最初から重症患者さんに使用していたら、「よくわからない」と思ってやめてしまうスタッフもいたと思います。
――リスナーさんからチャットで「フローチャートで対象となった患者さんにVRリハビリを実施する頻度はどの程度ですか? 毎日実施する必要はありますか?」と質問をいただきました。
田中PT:基本的には毎日しっかり行うことが大事だと思っています。
田中Dr:少し補足すると、僕が何例か見てきたなかでは、VRリハビリは半側空間無視などの空間認識障害のほうが効きやすいという感触を抱いていて、そういう場合は毎日実施するといいかなと思います。一方で、重度麻痺で負傷が1ヶ月以上残ったり、ADL障害があったりする人の場合、どのくらいの頻度で行うかは一概には言えませんね。そのほかにどんなリハビリをするかも含めて検討すべきだと思います。
――mediVRリハビリテーションセンターにいらっしゃるのは慢性期の方ばかりですが、遠方に住んでいらして数ヶ月に一度しか来られないという方もいらっしゃいます。でも、慢性期の場合、普段の生活であまり無茶をしなければ結構効果が持続してくれるので、頻度が少なくても大丈夫なケースが多いと考えています。ここが急性期と慢性期の違いですね。
急性期でVRリハビリを実施
――急性期で活用することは最初から決めていたのでしょうか。
田中PT:はい。リハ科の先生や脳外科の先生が「ベッド上でなかなかリハビリとならない人に対してなんとか機能リハができないか」という問題意識を持っていて、急性期から導入しようということになりました。
田中Dr:回復期に移行するまでの間にVRリハビリが適応かどうか見えてくるものですが、逆に回復期に移行した後だと見落としてしまうことがありまして。回復期に来る前のフェーズできちんと捉えてリハビリに入ってもらうようお願いしています。
――急性期の患者さんに使用するにあたって、難しいと感じることやそれに対する工夫があれば教えてください。
田中OT:体幹機能が低く姿勢がグラグラと安定しない方、認知機能が低下している方に使うのはなかなか難しくて、mediVR社のウェブサポートでアドバイスをいただきながら取り組んでいます。また、安全対策として、セラピストがパソコンを操作するなどして目を離したときに患者さんが転倒しないよう、治療の阻害にならない程度に体幹ベルトを使用しています。
――ツカザキ病院のみなさんは一瞬でも患者さんから目を離すときは「ちょっと待っててくださいね」とお声かけされていらっしゃるし、こうした対策も取られていて、本当にすばらしいなと思っています。
――ツカザキ病院様のホームぺージには「急性期で十分な量のリハビリテーションを行うことが大切」という主旨のことが記載されていますね。VRリハビリも急性期のうちに行うといいと実感されていますか?
田中PT:即時効果はどのスタッフも体感していますが、VRリハビリが患者さんのその後の機能回復にどう寄与したか、従来リハと比べてどう変わったかについてはこれから検証する必要があると思っています。急性期なので、自然回復する部分もありますから。また、歩行に関してはウェルウォークという歩行支援ロボットも入れているので、ウェルウォークだけの場合とVRリハビリ×ウェルウォークのハイブリッドの場合とで歩行獲得までのスピードにどう変化があったかを比較検証したいですね。
――VRリハビリとウェルウォークの組み合わせの感触はいかがですか?
田中PT:立位荷重練習の際に、麻痺足に体重を乗せると体幹が崩れる場合でも、PTとしては「なんとかして歩かせられないかな」と思ってしまうんですね。それをリハの先生からよく止められます。「まあまあ、ここはまず体幹を作ってからだ、mediVRカグラを使おう」って。VRリハビリで体幹を鍛えて、ウェルウォークで歩行訓練をするという流れがいいのかなと思っています。
田中Dr:従来は、歩行をPTさんにスムーズに介入してもらう準備段階の訓練が、どうしても立位訓練やステップ訓練などに限定されていました。そのときに歩行もさせようとすると、一定のテクニックや技術がないと過介助になりがちです。これがずっと急性期リハのジレンマでした。そこに対して、VRリハビリは動的座位と骨盤の前後傾という動きを引き出してくれる点に期待しています。
多くのスタッフに使ってもらうための工夫
――教育面で工夫されたことはありますか?
田中OT:mediVRカグラ操作チェックリストを作成しました。すべての項目にチェックがついたらカグラチームの監視下で患者さんに対して使用でき、複数回行って問題がなければひとりでも使用できるようになるという流れです。また、毎週金曜日にmediVR社のウェブサポートを確保しており、mediVRカグラを使用する様子を見てもらいフィードバックをいただいています。さらに、キャリブレーション時の注意点や的の大きさを図にしてリハ室に掲示し、すぐに確認できるようにしています。
――現在、カグラチームの人数は何名ですか?
田中PT:19名に増えました。こちらから指名して少しずつ仲間になってもらっています。最終的には、スタッフ全員がmediVRカグラを使いこなせるようにしたいと思っています。
――最初のカグラチームのメンバーも、挙手性ではなく指名制で選ばれたんですよね。ツカザキ病院のセラピストのみなさんは自分から「これをやりたい」と手を挙げたわけではないのに、mediVRカグラを愛して活用してくださっているなと感じます。それはなぜなのでしょうか。
田中PT:新しい機器を使うおもしろさと、導入したからには結果を出したいという気持ちと……それと、患者さんが良くなるなら積極的に使いたい、というところでしょうか。
田中Dr:急性期は日々忙しいので、マニュアルに沿って歩かせて機械に乗せて……の繰り返しになりがちです。でも、VRリハビリのように普段とは違った角度からアプローチすると、「半側空間無視や体幹障害、姿勢反射障害ってそもそもどういう障害なんだっけ」と考えながら取り組むことになります。「自分はこういうことを知らなかったんだな」と気づいたり、「ほかのリハビリでもこういう動作を取り入れてみようかな」とひらめいたりする機会にもなる。だから、mediVRカグラを導入したとき、セラピストのみなさんには「VRリハビリで得た知見を自分の肥やしにして、治療の幅を広げてほしい」とお願いしました。
――リスナーさんから「カグラチームのスタッフはVRリハビリのみに専念しているのでしょうか」と質問がありました。
田中PT:いえ、あくまで治療法のひとつとして捉えていまして、従来リハも一緒に行っています。準備体操的にVRリハビリを行うことが多いですね。
mediVRカグラはもう一歩踏み込んで変化を出したいときに使えるスパイス
――今後の展望をお聞かせください。
田中OT:現在、当院にはmediVRカグラサーティフィケイト取得者が2名いますが、導入時のカグラチームメンバー全員のサーティフィケイト取得を目指しています。また、脳疾患対応スタッフも座位や立位訓練など通常リハの一環としてmediVRカグラを使えるようにしたいですね。学術面でも発表ができるよう治療効果を測定できるデータシートを作成・分析しているところなので、症例数をもっと増やしていきたいです。
田中Dr:心原性脳塞栓症などの治療の後、空間認識や注意に障害が残りやすいケースをときどき目にします。当院の脳外科では血管内治療を早期から本格的に行っているのですが、こうした新しい治療法とVRリハビリの組み合わせももしかすると可能性があるのかなと考えています。
――それでは、最後の質問です。「あなたにとってmediVRカグラとは?」
田中OT:これまでにない治療法のひとつだと考えています。従来のリハビリでは変化が乏しい症例に対し、一歩踏み込んで介入し、変化を起こすことができる。「もう少し何かがほしい」というときのスパイスになってくれる機器ですね。身体機能面・認知面の重症度にかかわらず急性期から慢性期まで使用でき、治療選択の幅を大きく広げてくれると感じています。
――スパイスっていい表現ですね! 「何かが足りない」ときに、mediVRカグラがお役に立てれば幸いです。本日はお話を聞かせてくださりありがとうございました!
■ツカザキ病院 https://www.tsukazaki-hp.jp/
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