全国初の「VRリハビリ入院」。開始から1年経った感想は? 第2回カグフェッショナル・長野市民病院
2023年3月にVRリハビリテーション用医療機器・mediVRカグラを導入した長野市民病院は、翌月の4月からVRリハビリ入院の受け入れを開始しました。入院患者さんにVRリハビリを提供することは他院でも行なっていますが、VRリハビリを主目的として入院を行うのは全国初の試みです。
第2回カグフェッショナルでは、長野市民病院の丸山先生をゲストにお呼びして、「VRリハビリ入院」を始めた経緯や1年継続した感想を伺いました。
mediVRカグラ導入のきっかけは「自分でもやってみたい」
――まずは、mediVRカグラを導入するに至った背景を教えてください。
2022年に開かれた日本リハビリテーション医学会学術集会のオンデマンド配信で、VRという単語に興味を惹かれてランチョンセミナー「仮想現実(VR)技術を用いたリハビリテーション治療の最前線〜実戦ガイド編〜」を視聴しました。進行期重症パーキンソン病患者さんのTUGが3か月で8.9秒改善するなどの症例を見て、「すごいな、こんなにすぐ変化が起きるのか」と驚き、「自分でもVRリハビリをやってみたい」と思いました。うちの病院でも有効活用できそうだと思ったし、個人的にもまだほかの人がやっていないこと、新しいことが好きなんです。それですぐホームページを検索して、mediVRカグラのデモ機をお借りすることになりました。
――導入を決定するまでに直面した困難はありますか?
いち療法士が「ほしい」と希望しても、簡単に購入してもらえる価格ではありません。ただ、病院内で新しい医療機器を購入する話が出ていたため、そのヒアリングに間に合うようデータを収集することにしました。
文章ではVRリハビリの効果は伝わりづらいと思ったので、デモ期間中に患者さんの上肢機能や座位姿勢が良くなった様子を動画で記録し、御社から提供いただいたVRゴーグル内の映像やランションセミナーの動画の一部も加え、スライドにまとめてプレゼンをしました。
――プレゼンの反応はいかがでしたか?
院長の反応はよかったのですが、「もっとメジャーな医療機器の方がいいのでは」という意見も出ましたね。でも、ちょうど地域包括ケア病棟が開設するタイミングだったこともあり、「ほかの病院にはない機器があったほうが差別化になるし、患者さんに選んでもらえるのではないでしょうか」と提案しました。県内にmediVRカグラを導入している施設はなかったので、「長野県初のVRリハビリ」としてPRできるのではないかと考えたのです。それで導入が決まって、実際に広報に活用してもらっています。
ほぼ100%の患者さんでVRリハビリの効果を実感
――mediVRカグラ導入後に直面した課題や困難はありますか?
慣れないうちはVRリハビリのやり方に関して、「本当にこの方法で大丈夫なのかな」と悩みました。導きたい動作を引き出せないときなど、負荷の設定が良くないのか、的の出し方が良くないのか、タッチングなどの誘導が良くないのかわからなくて。
でも、御社のオンラインサポートを利用して自分の疑問や考えていることを聞いてもらったり、患者さんがリハビリをしているときにつないでその場でアドバイスをしてもらったりするうちに、だんだん導きたい動作を引き出せるようになりました。最初の頃は業務が終わってからよく御社の田丸さんに相談していましたね。いまでもお世話になっています。
――導入後、最も感動した瞬間を教えてください。
VRリハビリ入院をしたパーキンソン病患者さんから、初回のリハビリ後に「棚の上にもう一段棚があったんだね」と言われました。姿勢が良くなり、目線が高くなったのでしょう。これまで見えなかったところが見えるようになったというのはすごいことだな、と思いました。でも、最も感動したと言われると難しいですね。患者さんによって改善度は違いますが、リハビリを行うとすぐに反応が出るので毎回すごいな、おもしろいなと驚いています。
――VRリハビリの「効果があった」と実感する患者さんの割合はどの程度ですか?
ほぼ100%に近いです。何をもって「効果があった」とするかにもよりますが、私自身はすごく大きな改善でなくても、小さな改善を積み重ねていくことが大事だと思っています。さまざまな評価を見ても数点は良くなっていますし、リハビリ効果はあると言えます。最初は「元から介助量が多い方はあまり変わらないのかな」と思っていたのですが、根気強く続けていくと、まったく歩けなそうだった方が平行棒に掴まって足が前に出るなど、何らかの変化が表れますね。
VRリハビリを体験された患者さんの8割が入院を希望
――それではいよいよ、本題のVRリハビリ入院について聞いていけたらと思います。まずはVRリハビリ入院を始めた経緯を教えていただけますか?
背景には、当院の地域包括ケア病棟が増床になったこと、脳神経内科の医師からパーキンソン病のリハビリ入院ができないかと相談を受けていたことがあります。リハ学会のセミナーでもパーキンソン病の症例が紹介されていたので、VRを使いパーキンソン病患者向けの短期集中型リハビリ入院を始めたら、地域包括ケア病棟のベッドも埋めることができるし、患者さんや先生のニーズに応えられるのではないかと考えました。
――VRリハビリ入院の処方はどのように行なっていますか?
外来通院の患者さんに医師から入院の打診をして、一度mediVRカグラを使ったリハビリを体験していただきます。そこでどのようなものなのかを実感していただき、ご家族ともよく相談してもらって、次回診察の際にVRリハビリ入院の希望を伺うという流れです。
――VRリハビリ入院を提案したときの患者さんの反応はいかがですか?
VRリハビリが一体どんなものなのか、ピンと来ない様子の方が多いですね。知らない方が大半ですから。長々と説明するより、とりあえず体験していただくのが大事だと思っています。短時間でも歩きやすくなるなどの変化が表れるので、みなさん「なんでだろう」と不思議に感じるようです。いまのところ、体験された患者さんの8割が入院を希望していますね。むしろ、空きがなくてずっと待っていただいている状態です。
1ヶ月で平均4~5名の患者さんを受け入れ
――VRリハビリ入院の入院期間とリハビリの頻度を教えてください。
初回は2週間入院してもらっています。月曜日に入院して次の週の土曜日に帰るのが基本サイクルですね。VRリハビリは休憩を挟みながら15分〜20分のセッションを1日に1〜2回、ほぼ毎日行います。退院後にもう一度入院を希望される場合は、1週間から受け入れています。
――VRリハビリ以外のリハビリや薬剤調整などは行なっていますか?
患者さんの状態やご希望に合わせてストレッチや歩行練習、自主トレーニングの指導などを行なっています。リハビリの効果がわからなくなるので、基本的に薬剤調整はしません。行うとしても、睡眠剤や下剤程度ですね。
――月にどれくらいの患者さんを受け入れていますか?
平均4〜5名ですが、今月は多くて10名ほど受け入れています。毎週新しい患者さんが入ってきている状態です。
―― VRリハビリ入院はパーキンソン病の患者さんに特化しているのですか?
約半数がパーキンソン病患者さんですが、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症など、神経内科で見ている難病患者さんが多いですね。また、もともと痙縮の方のリハビリ入院を受け入れていたのですが、現在はVRリハビリも組み合わせています。
入院後、BBSが43から55に改善。シルバーカーを使わず歩けるように
――効果測定はどのようにされていますか?
入院時、退院時、退院1ヶ月目に、TUG、10m歩行、BBS、BBT、UPDRS、SARAなどの評価を患者さんに合わせて行なっています。姿勢や歩行の写真も撮っていますね。特にBBSは明らかに良くなります。退院して1か月何もやらないと多少落ちてきますが、入院時よりは悪くなく、概ね維持できているかなという印象です。そこで患者さんの希望を伺って、外来でVRリハビリを続けることもあります。
――具体的な数値の例を教えていただけますか?
直近で入院している患者さんだと、BBSが43だった方が、今日は55になりました。入院したときはシルバーカーを使われていましたが、いまは独立歩行されています。効果が出やすい人は本当に変化が表れますね。
――患者様の感想や退院後の様子はいかがですか?
「姿勢が良くなった」「手足が使いやすくなった」「片足で立てるようになった」といった感想をいただくことが多いですね。ご本人に改善の実感が乏しい場合でもご家族から見ると変化がわかるようで、奥さんにびっくりされたという話も聞きます。
入院は蓄積効果が得られやすい
――先生から見たVRリハビリ入院のメリットを教えてください。
入院して集中的にリハビリをすると、前日の記憶が残っているところに追加でトレーニングができるので蓄積効果が得られやすいのかなと思っています。セラピストとしては、患者さんの変化を毎日見られるのがいいですね。ただ、どんどん良くなっていくので、つい課題を難しくして患者さんを頑張らせすぎてしまうことがあります。週の後半になって患者さんに疲れが見えているときは、課題を軽めに設定し直して調整します。
――今日参加してくださっている他院の先生から「うちでもVRリハビリ入院を始めようか迷っている」と相談されたら勧めますか? その際の注意点やアドバイスがあればお願いします。
外来よりも患者さんと密に関われるし、変化により気づけるのでおすすめします。アドバイスとしては、評価の抜け漏れが出ないようにすることでしょうか。統計データを取りたいと思ったときに抜け漏れがあると、正確なデータにならないので。あとは、入院患者さんが増えると、現場は忙しくなって大変です(笑)。外来と入院とで1台のmediVRカグラを使い回すことになるので、オペレーションをちゃんと考えないといけませんね。
――今日ご参加いただいている岩砂病院さんもVRリハビリ入院を始めたのですよね。
岩砂病院・岩砂マタニティ 矢代先生:長野市民病院さんに見学・相談させていただき、1月からVRリハビリ入院を試験導入し4月から本格始動しました。今月は5〜6人の入院を予定していて、来月まで枠が埋まっています。患者さんがVRリハビリをした後に病棟で「こんな変化が出たよ」と言ってくださったりするので看護師も喜んでいて、病院全体で前向きに取り組めています。
――mediVRカグラの導入施設同士で交流が生まれていて、私たちも嬉しいです。矢代先生、丸山先生、ありがとうございます。
mediVRカグラは「なくてはならないもの」になった
――今後の展望を教えてください。
現在は難病の方を中心に受け入れていますが、脳卒中後に社会生活をしているけれど後遺症があり少し不便を感じている人などにVRリハビリを提供できたら、と思っています。また、個人としてはcertificateのシルバーを取ることを目標にしています。
――弊社では、VRリハビリの習熟度に合わせて認定証を発行しています。ブロンズ、シルバー、ゴールドと徐々にレベルが上がっていくのですが、丸山先生は3か月でブロンズを取得されました。mediVR社内のセラピストでも、こんなに早くブロンズを取れる人は稀で話題になりました。導入施設のセラピストの方でシルバーを取得された方はまだいらっしゃらないので、ぜひ第一号をめざしていただけると幸いです。最後に、「あなたにとってVRリハビリとは?」という質問をさせてください。
新しい治療手段として、なくてはならないものになりました。また、十数年この仕事をしていると、教えてもらうよりも教えることのほうが多くなっていきます。なので、他施設のセラピストさんから教えてもらうことがとても新鮮でした。しかも、患者さんがいい動きをしたとき、患者さんだけでなく私たちのことも褒めてくださるんですよね。それがとても嬉しく、励みになりました。新しいことにトライしてみて、本当によかったです。
――勉強熱心で向上心の高い丸山先生の姿勢に私たちmediVRも刺激を受けています。今日はカグラ入院の詳細を教えていただきありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
■長野市民病院 https://www.hospital.nagano.nagano.jp/
■株式会社mediVR https://www.medivr.jp/
<カグフェッショナル イベントページ>
<第1回カグフェッショナルレポート>