医工産学連携の基礎:(3)「学」とは何か 〜大学教員のお仕事② 教育、そして社会貢献活動としての研究教育 〜
前回の記事の続きです。
大学教員も、資金繰り→生産活動(研究)→成果の公開→資金繰り、のループで生活する、一般的な経営と同じ様な生活をする研究者という職業人です。
まず研究を中心とした仕事について紹介しましたが、もちろんそれだけが大学教員の仕事ではありません。まず学生教育、講義が絶対ありますよね。他にもたくさんの仕事があります。
この記事では本務たる研究・教育関連の残りを解説します。
教育:専門教育と研究教育
大学教員は研究者ですが、大学は研究期間でありかつ高等教育機関です。教育は研究と同じく欠かざる業務です。
大学・大学院での専門教育、大学院での研究教育、それを支える基礎と教養教育、全てが大学と社会を支える重要な役割を持っており、大学教員の重要な責務です。
また私自身は優れた研究成果を発信し続ける大学の活力の源泉となるのは若い学生の存在であり、研究・教育現場に常に若者が供給され続ける大学のシステムは高等研究機関として理にかなっていると思っています。
なお、とはいえ教務は講義準備、評価、フィードバックを含めると定常的に非常に大きな時間を取られるので、労務負担としては大きいです。
※ 一部、自分の研究時間を削られることを避けるために教育業務に否定的な大学教員も散見しますが、でしたら大学以外の研究機関に就職すべきです。そもそも研究者育成教育をしなければ研究は絶えます。
※ また一般に知られていない教務負担の状況として、国公立大学と私立大学では教務負担が倍くらい違います。もちろん私大の方が負担が多いです。担当する授業のコマ数も倍、研究室に配属されて研究指導を行う学生の数も倍です。
理工系の私の近い分野ですと、1教員(教授・准教授)の担当する授業コマ数が国立週3〜4コマに対して私立週6〜8コマ、研究室配属学生が国立1学年3〜5人に対して私立8〜10人、といったイメージです(あくまで私のイメージ)。国公立大学の方が研究力のランキングが高く大きな成果・賞が多い傾向があるのには、この様な研究外の負担の差が影響しているかも知れません。私大の先生方は教育に非常に大きな時間を割いています。
※ 逆に言うと1教員あたりの担当学生数が少ないということは国公立の方が少人数教育で密度の高い教育をしてくれそうに思えますが、教育以外の労務が多く特に研究が第一の大学においてはその分を研究に回しがちですので、国公立の方が教育が手厚いとは限りません。おそらく教員の研究時間は国公立のほうが多く取れているように思います。
社会貢献活動:産学連携
大学から支給される(微々たる)基盤研究費と公的な競争的研究費によって自分の研究を進める他に、企業等外部の組織との連携により研究・開発・調査・教育等を行う産学連携活動もまた大学教員の重要な活動の一つです。
先の記事で紹介したように、日本の産学官連携の歴史の中でも古くから技術移転機関(TLO)の整備が進められたほか、平成18年の教育基本法改正では大学の役割として「社会貢献(産学官連携等)」が明文化されています。
理工系での研究にかかわる産学連携では、
企業からの依頼により共同であるいは大学が中心となって実施する研究(共同研究・受託研究)
企業の製品開発・研究等に対しての知識の移転・指導(技術指導)
企業人材を研究生や大学院生として受け入れて研究教育を行う(人材育成)
などが中心的な活動になります。
私も過去積極的に産学連携活動を行っており、主な事例としては
などがあります。
下記の記事ではCNKとarchelisの事例について紹介しています。
社会貢献活動:科学教育・教養教育
公器としての大学での活動を公共の財産として共有する活動には、学内での研究活動(論文等での研究成果の公表)、教育活動(専門教育と研究教育)、産学連携の他にも、学外一般での科学教育・教養教育なども含まれます。
大学の知を公共の知とする活動です。
例えば博物館・科学館、学校等での一般向け講演やワークショップなどのイベント、一般向け書籍の出版などがこの活動に当たります。
私も長い教員活動の中で、
千葉市未来の科学者育成プログラム (中学生対象の科学教育プログラム)
千葉市科学館 大人の科学が楽しむ科学教室 (教養講座)
などの千葉エリアでの科学教育活動を実施したほか、
科学雑誌Newtonでの研究紹介 (月刊誌、別冊ムック、図鑑等)
高校での出張講義や見学受入
春日部高校SSH
https://kasukabe1899.spec.ed.jp/blogs/blog_entries/year_month/879/year_month:2013-01?frame_id=1999その他千葉・東京・埼玉等の高等学校にて出張講義・見学受入
など、広く科学教育・啓蒙活動に従事していました。
ごくたまにテレビ(報道・情報)なども。
※ 学科の方針・歴史もありましたが、私はこういった活動が好きで熱心に活動していたため、所属部局でも評価していただきました。
学内外の研究教育でここまで。まだまだ続く。
大学教員のお仕事、この記事で終わるかと思いきやまだ続きます。
ここまでで学内での研究・教育、学外と繋がった研究・教育と、研究者・学者・教員としての本務たる部分の説明がようやく終わりましたが、まだまだ大学教員の仕事は尽きません。次の記事では校務や広報などを…
次の記事はこちら。