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カバーデザインができるまで〜『からだがみえる』編〜

こんにちは。メディカルイラストレーターのロボです。

今回は、2023年2月28日に発売予定の最新刊『からだがみえる』のカバーが完成するまでの経緯をまとめてみました。

『からだがみえる』のカバーデザイン

書籍『からだがみえる』のコンセプト

『からだがみえる』は、今まで臓器別で作られていた『病気がみえる』シリーズの各巻から、解剖学・生理学部分を抜粋してより学びやすい構成に編集した書籍です。

解剖生理は基礎医学
なので、医学書の出版社では最初に発行されていてもおかしくはない内容です。しかし、メディックメディア医師国家試験対策から始まった出版社で、医師国家試験の参考書・問題集→試験の出題基準を意識した臓器別参考書、というながれでコンテンツを作成してきました。

そのため「医療関係者がはじめに学ぶ基礎医学をまとめた書籍」を作るのは、実は初めてなのです。

カバーイラストのラフを作成する(入稿2ヵ月前)

本文の編集作業がだいたい大詰めになってきた頃から、カバーイラスト案をまとめはじめました。
書籍タイトルは『からだがみえる』ですが、『病気がみえる』の姉妹シリーズであることがひと目でわかるように、タイトルロゴや全体の雰囲気は『病気がみえる』のカバーデザインを踏襲しました。

『病気がみえる』シリーズのカバーデザイン
こちらが最初に作った『からだがみえる』のカバーイラストラフ案5点

私自身が意識した点は「既存のデザインを避けて差別化を図る」ということです。例えば、解剖学だと筋肉+骨、3Dモデルのレイヤー構造など。生理学だと色々な臓器を並べる、といったものは既存の書籍にもよくあり、内容をイメージしやすいのですが、書店に並んだ時に似たものが多くて埋もれてしまいます。そこで既存とは異なるようなアイデアを練ってみました。

みんなの意見を聞き方向性を絞る

上記5つを社内チャットで制作メンバー(編集者3名、イラストレーター2名)に提示し、意見を募りました。
他人にデザインのラフを初めて見せるときは、ワクワク感もある反面、何年やってても少し緊張します。

みんなの反応は悪くなかったのでほっとしました。

もらった意見を参考に、デザインをまとめ直します。基本的にはラフのA案+B案の方向で進めることになりました。

もらった意見を参考に整えて調整したデザイン。
  1. “人体=宇宙”なイメージで、からだの中のつながりを点と線で表現した抽象的な人体イラスト。

  2. 書籍の構成を意識して、人体が、臓器・機能ごとの立方体(キューブ)に分割されて飛び出してくるイメージ。色々な角度から人体をみえるようにしている内容の本、というイメージも表現。

  3. 人体の中の広がりを意識して、『病気がみえる』シリーズではまだやったことがない、カバー全体が一枚画になるデザインにもチャレンジ。

  4. オビは、解剖学・生理学の書籍のゴールデンスタンダードになるようにという思いを込めて、金(特色DIC620)を第一候補に。

社長に見てもらう

メディックメディアでは、デザインが固まったらすべての書籍カバー案に社長が目を通してくれます。上記のデザインを見せたところ、まず「いいんじゃない」という一声をもらったので心の中でガッツポーズしました。

ただ、『病気がみえる』の表4(カバーの裏のこと)にある“だれ向けの書籍か”の文言を入れたい、という意見が出たため、表4に関しては、『からだがみえる』でも『病気がみえる』のデザインを踏襲するかたちになりました。これにより一枚画の案はなくなりました。
また、タイトルロゴの「が」を小さくしたほうが、「からだ」と「みえる」という文字がより目立っていいんじゃないか、というアドバイスがありました。

初校回覧(入稿1ヵ月前)

上記の社長意見を踏まえて、カバーのイラストなどを清書していったものがこちらです。

社内回覧用に整えた、カバーの初校。
  1. この段階でカバーのソデ(折り返す部分)部分の記載も加えて、印刷入稿に向けたデータに整えています。

  2. カバーの背部分(中央のところ)のサイズも束見本(印刷会社から送られる実際のページ数の見本)から確定していきます。

  3. 表4では『病気がみえる』シリーズと同じく、『からだがみえる』も医学・医療に関わる全ての職種の方に役立つ内容になっています。なので、”医学生向けの本でしょ?私には関係ない”という誤解がないように、これらの職種の方たち、その資格を目指す学生の方たちに手に取ってもらえるよう、このような一覧を掲載しています。

これをカバーデザインの初校として、制作メンバー+アートディレクターに回覧し、アドバイスをもらいました。

清書の段階で苦労した点

初学者向けの本とはいえ、”使用している解剖イラストはリアル・美麗であることがわかる”ことを重視して、各キューブの解剖イラストはあまりデフォルメしていないリアルなタッチで作成しました。

その解剖イラストデータをAdobe Illustrater(Ai)の3D機能でキューブの面に貼り付けています。イラストの修正を行いやすくするため、詳細に描き込まれたパスやグラデーションの情報が保たれています。それに加えて3D機能を使うことによってデータが大変重くなり、保存したaiデータを開けない、アプリの挙動が遅くなる、という弊害が起きました。

Adobe Illustrater(Ai)の3Dの画面。3D機能で立方体を作ると角度などの調整がきくため便利。

この結果、一つ一つのキューブごとにファイルを分けて保存することになりました。そのため、各キューブの微調整や解剖のイラストの調整をするのに別々のファイルを開く必要があり、思いのほか時間がかかってしまいました。

修正&調整を続ける(入稿1週間前)

初校回覧での赤字を検討します。
大きな変更点は、キューブの色です。書籍内では各章ごとにメインカラーが異なる紙面デザインにしているため、それらとリンクするように各キューブにも色を付けていたのですが、「カラフルすぎて臓器が目立たない」という意見があり、キューブを白にしてみたところ、確かに臓器のイラストも目立つし全体的に洗練された雰囲気になったと思います。

キューブの間隔や角度を微調整し、イラストの描き込みなどを加えた最終デザインがこちらです。

完成したカバー

最終的なデザインをみると、キューブの配置が、黄鉄鉱の様にみえてきました。個人的に石の写真集などをよく眺めていたことがこのデザインに繋がったのかも知れません。また、故郷の地図のオブジェにも似ているなと思いました。子どもの時に不思議といいなと思っていたイメージが出てきていたのかもしれません。

印刷入稿&出校チェック

社内のプリンターで出力してみているものと、実際の印刷物は、実は必ずしも一致するとは限りません。なので、特色の金(特色:CMYKの4色では作れない特別な色のインク)がどんな感じで出てくるか、イラストと上手くマッチしているかが出校を見るまで不安でした。
印刷会社から送られてきた出校をチェックすると、派手すぎず品がある金色をまとったカバーに仕上がっていたのでとても安心しました。

ただ、金オビの上の黒文字をオーバープリント設定(オーバープリント:文字に設定した場合、他の色を文字の形に白ヌキせず重ねて印刷すること。版ズレしても安心)にして入稿したら、文字が薄くなって出力されていました。こちら、文字がきれいに出るよう調整をお願いすることになりました。

黒インクが金インクで隠れて薄くなってしまった。
メタリックなインクの時はノセではなくヌキにしないといけないのか……

カバーデザインについて私が思うこと

カバーは、まず一番に読者の目に入る部分であり、書籍の顔としてもちろん重要です。私はそれに加えて、書籍を作る自分達にとっても重要な意味があると思っています。
良いカバーができると、
①関わっている人たちの、良い本を作っているという共通認識が高くなる。
②全員のモチベーションが上がって印刷入稿までのラストスパートを走りきれる。

逆に、カバーデザインがいまいちだと、最終的な印象が良くないまま作業を終えることになってしまいます。
私自身、カバーデザインを担当する際は常に、書籍制作に関わるメンバーのモチベーションが上がるようなデザインを心がけています。今回も、カバーの回覧でメンバーのラストスパートを後押しして、内容も素晴らしい書籍になっていると思います。

ゴールドオビのキューブ柄、『からだがみえる』を書店で見つけた際は是非お手にとってみてください!!

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