女性のライフスタイルの変化が「妊娠力」に影響している?
少子化と女性の晩婚化・晩産化
日本は1947〜1949年に年間出生数が約270万人の第一次ベビーブームがあり、その世代が成人し出産した1971〜1974年に出生数約210万人の第二次ベビーブームを経て、人口は増加してきました。しかし、その後出生数は低下の一途をたどり、2022年の出生数は過去最低の77万人となりました。
その少子化の一因には女性の晩婚化・晩産化が関係していると考えられます。2019年の女性の平均初婚年齢は29.6歳、第一子出産年齢は30.7歳まで上昇し、不妊治療が必要な女性の割合が増加しています(文献1)。これは働く女性が増加していることと強く関係があり、2017年の日本の雇用者のうち女性の割合が44.5%であり、そのうち生殖年齢の女性は70%を超えています(文献2)。
晩婚化・晩産化が女性の妊娠力に与える影響
晩婚化・晩産化に伴いさまざまな要因が女性の妊娠力へ影響します。加齢により卵巣予備能が低下することはもちろんですが、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科疾患の発症リスクが増加します。
子宮筋腫は、子宮に発生する良性な腫瘍で、妊娠において受精卵が子宮の中に着床することを阻害し不妊になるだけでなく、妊娠後の流産や早産、さらには分娩時の大量出血などの合併症を起こすことがあります(文献3)。
子宮内膜症は、子宮以外に子宮内膜に似た組織が付着し増殖することで起きる病気で、生理痛を重くしたり、卵巣機能を低下させたりすることがあります。
子宮筋腫・子宮内膜症は「現代病」?
両疾患ともに女性ホルモンであるエストロゲン依存性の病気であり、月経ごとに増悪することがわかっています(文献4)。そのため、早期で妊娠・出産し、かつ多産だった1900年代前半には問題になることが少なかったのですが、現代の女性は初経年齢が早まり、かつ晩婚化・晩産化が進んだため、子宮筋腫や子宮内膜症で悩む女性が増えています(文献5)。
さらには、子宮頸がんや乳がんなどの悪性腫瘍も生殖年齢での罹患率が増加しています。
ストレスが与える影響
また働く女性が増えることで、仕事に伴うストレスを感じる女性も増えています。ストレスは、脳の視床下部という部位へ影響し、卵胞が発育しにくくなり、月経が不順になることがあります。またストレスは流産と強くかかわることがわかっています(文献6,7)。流産に関して強いストレスがある場合は、カウンセリングなどで定期的に精神的なケアを行うだけでも流産率が低下することもわかっています(文献8,9)。
過剰なダイエットが与える影響
さらには日本の若年女性において、ダイエットによるスリム志向が進んできました。そのためBMI[body mass index:体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)で算出できる体格指数]が低下傾向にあり、国民健康栄養調査では、BMIが18.5未満の低体重の女性の割合が20%を超えています(文献10)。低体重は、ストレスと同様に月経不順や無月経の原因となります(文献11)。
妊娠時の栄養不足が胎児に与える影響
また妊娠中に栄養が不足すると、妊娠後の流産や早産、胎児の貧血、胎児の発育障害などのリスクを高めます。さらには生まれた胎児が低出生体重児だった場合に、その児が成人してから、糖尿病や高血圧などの成人病の発症リスクの増加にも関係することがわかっています(「DoHaD」と呼ばれる概念です)(文献12,13,14)。そのため妊娠前からの体調管理(プレコンセプションケア)は、安全な妊娠・出産にとって非常に重要です。
参考文献
1. 厚生労働省. 令和元年(2019年)人口動態統計の概況 (https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei19/)
2. 総務省統計局 平成29年(2017年) 労働力調査 (https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.html)
3. 黒田恵司:各論2 不妊症 子宮筋腫.改訂第2版 データから考える不妊症・不育症治療 希望に応える専門外来の診療指針.p245-251,メジカルビュー社,東京,2022.
4. 黒田恵司:各論2 不妊症 子宮筋腫.改訂第2版 データから考える不妊症・不育症治療 希望に応える専門外来の診療指針.p238-244,メジカルビュー社,東京,2022.
5. Short RV: The evolution of human reproduction. Proc R Soc Lond B Biol Sci 1976; 195: 3-24.
6. Li W, et al. Relationship between psychological stress and recurrent miscarriage. Reprod Biomed Online 2012;25:180-9.
7. Sugiura-Ogasawara M, et al. Depression as a potential causal factor in subsequent miscarriage in recurrent spontaneous aborters. Hum Reprod 2002;17:2580-4.
8. Clifford K, et al. Future pregnancy outcome in unexplained recurrent first trimester miscarriage. Hum Reprod 1997;12:387-9.
9. Stray-Pedersen B, Stray-Pedersen S. Etiologic factors and subsequent reproductive performance in 195 couples with a prior history of habitual abortion. Am J Obstet Gynecol 1984;148:140-6.
10. 厚生労働省. 令和元年(2019年)国民健康・栄養調査(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14156.html)
11. Rich-Edwards JW, et al. Physical activity, body mass index, and ovulatory disorder infertility. Epidemiology 2002;13:184-90.
12. Enomoto K, et al. Pregnancy Outcomes Based on Pre-Pregnancy Body Mass Index in Japanese Women. PLoS One 2016;11:e0157081-e.
13. Barker DJ, Osmond C. Infant mortality, childhood nutrition, and ischaemic heart disease in England and Wales. Lancet 1986;1:1077-81.
14. Breton CV, et al. Small-Magnitude Effect Sizes in Epigenetic End Points are Important in Children's Environmental Health Studies: The Children's Environmental Health and Disease Prevention Research Center's Epigenetics Working Group. Environ Health Perspect 2017;125:511-26.