「1巻だけ無料」の壁を超えた漫画01:『水は海に向かって流れる』

漫画が好きです。スマホにはいくつも漫画アプリが入っていて、朝起きたら無料のポイントで読めるだけ読むのが日課。あとはKindleで「1巻だけ無料」の漫画を読むのも好き。

たまに「3巻まで無料」だったりするとサイコーの気分になります。電子書籍の無料施策は素晴らしいなと思う一方で、やっぱり2巻を買うハードルは高くて、僕のライブラリは1巻止まりのものばかりになっております。

それでも、問答無用で心を持っていかれる作品がたまにあるからこの趣味はやめられない。そんなわけで、久しぶりに出現した「持っていかれた作品」がこちら。
※いまは「1巻だけ無料」期間を終了しています。

田島列島氏の『水は海に向かって流れる』。全3巻です。このくらいの巻数の良作は一気買いのハードルも低いからおすすめしやすくていいですね。

さて、本作のストーリーをど真ん中だけ拾うと「男子高校生とOLのラブストーリー」なんですが、まあとにかく感情の流れ方がバリエーション豊かです。ドロドロ、サラサラ、ゴウゴウ、スルスルと多種多彩。

そんな感情の流れを読者がつねに意識させられるのが、この作品のおもしろいところかなと思います。

キーとなる過去の出来事

物語の始まりは、学校近くに住む叔父の家に居候することになった男子高校生(直達)と、それを迎えに来たOL(榊さん)が駅で出会うシーンから。

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Kindle版『水は海に向かって流れる』1巻:P6より引用

しかしこのふたりに付与された設定がいきなり重い。

・直達の父親と、榊さんの母親は10年前にW不倫していた
・直達の父親はもとの家族に戻り、
直達(現高校生)はその過去を知らない
・榊さんの母親は戻らず、榊さんはいまもその過去を引きずりまくっている

もうこれだけでざわざわしますね。また、直達の叔父が住むのはシェアハウスで、そこには叔父、直達、榊さんのほかにも何人かの住人がいることが判明。そこでの物語の中心にあるのは「過去のW不倫」という事実。

話をおもしろくしていくのは、この事実に対して登場人物たちが持つ情報量がそれぞれ違うということです。例えば叔父は「直達の父親が不倫していたことは知っていたが、その相手が誰かは知らない」わけです。まあ、そりゃあそうですよね。

こんな感じで、各自の知っている情報量が異なることため、傍目には「ああ、それは悪手…」と感じるような行動や発言が生まれ、読者の心も動かされまくるわけです。

あ、試し読みがありました!

ざわざわ度合いが多少上がることはありますが、基本的には1話のこの空気感がずっと続きます。この感じが好きならKindleなり紙なりで大人買いしちゃってください。

短編の良作をもっと知りたいのです、僕は

すでに述べたとおり『水は海に向かって流れる』は、全3巻できれいに完結しています。よくわからん抽象的なタイトルだなーと思いましたが、終わってみればじつにしっくりとおさまるタイトルでした。

でね、話は変わります。漫画って、連載を長期化すれば掲載誌の看板にもなるし、作者も漫画家としての地位の確立や技術の向上など、業界やクリエイターにとってのメリットは多いと思います。でも一方で、読者視点では長くなるほど途中から入りにくくなる。あと、伏線回収に時間がかかりすぎると自分で気づけなくてイヤ。

そういうのもあって、僕は短くておもしろい作品を結構探しています。短い作品は周回も楽しいですよね。ちなみにこの記事内で唯一引用したさきほどのページ及び、その後の一連の所作・会話は結構な情報量の塊でして……。

最後まで読み終わってから見てみると「この視線…!表情…!!!!」ってなります。僕のような鳥頭でも気付かされることがたくさんあるので、短めの良作をもっと見つけたいなあ。

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