見出し画像

ピアノオンラインコンクールを受けてみた!ー巣籠り大学生の夏休みー

花の大学2年生を留学先で謳歌しようと思った矢先、新型コロナにより家の中で1日中過ごす生活が当たり前になっていた。ある日Facebookの投稿でピアノのコンクールがオンラインで開催されることを知ってから、家にあるグランドピアノに自然と目がいくようになる。小さい頃からプロピアニストになるため死に物狂いで練習に励んでいたことを思い出し、この自粛期間でもう一度本気でピアノに向き合うことに決めた。この時、実に4年ぶりのコンクール出場だ。

応募したのは全日本eコンクールというオンラインで全て行われるもの。予選は動画審査で行われ、演奏者は満足するまで何回でも動画の取り直しができる。本選は無観客ホールでの生演奏だ。今まで一度も経験したことがないような特殊なコンクールだったため、練習方法や準備するものがこれまでとは大きく異なった。

弾く練習より撮られる練習

今回のコンクールは自由曲だったから私はピアノをやめる直前に練習していた思い入れのあるショパン作曲のスケルツォ第2番変ロ短調Op.31を選曲した。この曲は難易度がとても高く、大学部門でエントリーした音大生たちに対抗するのにうってつけだ。一度は弾いたことがある曲とはいえ、久しぶりだから思うように手が動かずもどかしい。それでも諦めず毎日欠かさず2時間以上練習した。

朝は授業、昼にピアノ、夜に課題とバイトという毎日目が回るような生活サイクルだ。そうなったのは大学がオンライン授業に切り替わったことが主な要因だ。オンラインだからこそ1日で出来ることが格段と増えて、心身ともに疲れがすぐ溜まり毎晩バタンキュー。でもゆっくり休む暇もない、締め切りまで既に残り3ヶ月しかなかったのだ。

従来のコンクールであれば、ホールで演奏が響き渡るよう音作りをしていかなければならないが、今回はその必要はなく、動画撮影に慣れるという特別な練習が必要だった。写真や動画を撮ること自体は大好きだが、逆に被写体となるのが少し苦手だったので演奏自体より撮影面のメンタル訓練を徹底した。練習中にカメラレンズをわざと自分に向けたり、実際に録画もしたりして、まず「撮られている」という違和感を解消するよう試行錯誤した。無機質なものにずっと見られているというストレスからか、楽譜もいつも以上にボロボロになるほど書き込みをした。

画像1

規定だらけで演奏どころじゃない!

演奏の準備はできたが、予選の動画審査で肝となるのは撮影場所だ。私はコンクールで使われるようなグランドピアノが家にあり、場所も窓際で見栄えが良かったので自宅で撮影することにした。だが、コンクール上の規定で個人が特定できる物が映り込まないよう厳密に定められている。規定の理由は演奏中における先入観を無くすためだろうか、私はカメラの位置を慎重に選んだ。次に確認するのは画角。なんと画角にも規定があり、必ず、顔と手元が映らなければならず、足元のペダルも入れて撮影するのが最も好ましいとあった。立ったり座ったりを何度も繰り返し画角を定めると同時に、動画が揺れないよう私はビデオカメラの三脚とスマホ自撮り棒を組み合わせて代用した。見た目は少し不格好だが、私なりの力作でありスマホもしっかり安定している。小さな夏休み工作だ。

画像2

撮影の参考としてYouTubeで他の演奏者をみてると、自宅で演奏した私は応募者の中で少数派のようだった。エントリーする人たちは実際にプロが使うような演奏ステージやリハーサルホールを撮影の場として借りている人が多かった。誰もいないホールで一人ピアノを演奏しているのはどことなく寂しく見える。

また、自宅に規定のピアノがないという理由でその施設を利用する人もいる。実はピアノ 自体にも規定があり、ピアノの音響効果がオフに設定されているグランドピアノ、アップライトピアノ、電子ピアノのみが認められていた。だが通常、電子ピアノは多くのコンクールで禁止されているため、その点においては、オンライン化によってピアノ演奏者に配慮があり規制が少し変わったようだ。

翻って、意外と音声や録音機材には細かい規定はなく目を丸くした。ホームページにスマホのカメラやビデオカメラで録音するよう記載してあり、専門の機材をそろえる必要はなかったのだ。自分の弾くピアノ演奏が綺麗に録音されていなかったらどうしようと少し心配になったが、今回の審査員は収録環境を考慮しながら演奏を観てくれるとあったのでホッと一安心。

服装にも特別な指定はなく、基本的に通常のコンクールでも衣装は自由だ。服装は審査に影響しないとされているのでドレス着用は必須ではない。だが、やはり今までのコンクールで衣装をピシっと着ている間は俄然やる気とピアノに対する思いがいつも以上に出てくる。私は自宅で撮影を行った際、フォーマルなドレスで挑んだ。

やり直しは30回以上。録画だからこそ酷

3か月の練習期間を含めて私が一番大変だと感じたのは本番の撮影だ。何回も取り直すことを見込んで予定を前倒しにして本番に挑んだが、想像以上に時間と体力と気力が削られてしまった。

たった1回の演奏をする為に要した時間は1時間程。一日数回の演奏が限界だ。一日に十回も全力で弾くのは体力的にも難しく良い演奏ができなくなってしまう。撮影時間帯にも配慮して家に家族がいない静かな時間を選びできるだけ1回で満足のいく演奏ができるよう集中して挑んだ。そんな中、私は2週間のうちに30回以上も撮り直していた。その中には最後まで弾かず途中で諦めてしまっているものもある。

気力も削られた。従来のようなステージで弾くのであれば緊張感とホールにいる観客に私の演奏を届けたいという特別な思いが混ざって実力以上の力をしばしば発揮できる。しかし、家での演奏となると「また撮り直せる」という思いがありどうしても緊張感と気合いが無くなってしまった。そこで途中から私はワンピースからドレスを着ることに変更し、グランドピアノの屋根も開けて譜面台もはずして、できるだけステージと同じ雰囲気と環境を自分で整えて再び撮影に入った。

完璧を追求できてしまう環境だからこそ、見切りをつけるのにとても苦労した。もっと私ならできるという自分とへとへとになっている自分が頭の中で喧嘩する。その葛藤が鎮まるころには動画の提出期限が迫っていたのである程度自分が満足した時点でスパっと撮影を終わらせ、両親に候補の動画を聴いて選んでもらった。両親は小さい頃から私のピアノを応援してくれただけあって私自身も気に入っていた動画を選んでくれたので少し誇らしくそして大きな達成感も感じた。

画像3

今回は、残念ながら本選に進むことができなかった。それでも、私はコンクールに参加できて本当に良かったとしみじみ思う。ピアノと再び向き合うことができ、ビデオ撮影にも耐えられる新たな自信も得られた。巣籠り生活でも、毎日を充実させられたと同時に、大好きなピアノをこれからもずっと弾き続けたいという気持ちも一段と強くなった。

Written by Ami Miyashita

プロフィール:

5歳からピアノを始める。小学1年生の時先生に勧められたのをきっかけにピティナピアノコンペティションに毎年出場するようになり、中学2年生で全国大会に出場。その後ピアノ以外にもやりたいことを見つけたため普通高校に進むことを決意。高校1年生の時にコンクール出場を最後に趣味としてピアノを楽しむ生活を送っている。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?