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アンパンマンで学ぶ、コンテンツの楽しみ方レベル

コンテンツって一言で言っても、その楽しみ方にはレベルがあります。アンパンマンは子どもに大人気のアニメですが、アンパンを例に、コンテンツの楽しみ方レベルを解説してみます。

レベル1:映像の造形やコントラストを楽しむ


アンパンマンは赤ちゃんにも人気があるんです。理由は、赤ちゃんが比較的丸いものを視覚的に認識しやすいらしくて、円で構成されたアンパンマンの顔を認識しやすいんですよ。
このように、映像における造形やコントラストを単純に楽しむのが楽しみ方レベル1になるんです。

レベル2:喜怒哀楽で楽しむ


ことばを覚えるくらいの子どもになると、アンパンマンを物語として楽しめるようになるんです。バイキンマンが悪だくみをすれば、怒りの感情が湧くし、アンパンの顔が攻撃されて負けそうになったら悲しいんですよ。
ジャムおじさんが新しい顔を持ってきて、バイキンマンをやっつけたら喜ばしい。そして、最後に仲間たちで楽しく平和に終わるわけです。

このように、ことばを覚えると喜怒哀楽の感情が発達するので、物語に没入していくことができるんです。

レベル3:社会性というフィルターを通して楽しむ


大人になって改めてアンパンマンを見返すと、違う側面が見えて来るんです。

毎回、毎回バイキンマンがアンパンマンにやっつけられ、仲間たちが喜んで大団円で終わっている。

しかし、本当にバイキンマンは悪いやつなのだろうか?

そもそもバイキンマンがアンパンマンたちにちょっかいを出す理由は、彼の寂しさや孤独に裏打ちされた行動ではないのか。

しかも、アンパンマン側には食パンマンやカレーパンマンなどのたくさんの仲間たちがいる。

構造としては多勢に無勢である上に、ジャムおじさんという支援者によって、アンパンマンを追い詰めても顔を取り換えれば復活するというのは、チート行為ではないか、と思えてきます。

このように、大人になって社会人経験を積むと、幼少時代に見たアンパンマンとはまた異なる側面が見えて来るんです。
これが、社会性というフィルターを通してコンテンツを楽しむということなんです。

レベル4:歴史×文脈を通して楽しむ


さらに、アンパンマンというアニメは歴史が古いんです。もともとはアニメではなく、絵本からスタートしていたりします。

歴史が長いがゆえに、アンパンマンの中にはドキンちゃんと食パンマンの悲恋物語などサブストーリーが存在するんですよね。

このように、アンパンマンというコンテンツの歴史を通して物語を楽しむと、味わい深いものになるんです。

さらに、アンパンマンの歴史というものよりも、一段大きな歴史もある。それは児童アニメの歴史です。

「「ドラえもん」や「ちびまる子ちゃん」、そして「クレヨンしんちゃん」なども歴史のある児童向けアニメという括りでは同じなんです。
この児童アニメというくくりにおいて、長く続くアニメにはどういった共通項があるのかという文脈を探し出して分析する、というのが、歴史×文脈を通して楽しむということになるんです。

例えば「アンパンマン」は完全無欠のスター、アンパンマンによる勧善懲悪の物語という体を取っているけれど、一方ではバイキンマンというマイノリティにおける社会的な悲哀のテーマも受け取れると解釈することもできる。

一方で「ドラえもん」は極めて能力が低いマイノリティ側の人間であるのび太が、秘密道具を繰り出すドラえもんという仲間を得たことにより、人間の能力が人知を超えて拡張された世界を描いていると解釈することもできるんです。

このように同じジャンルの作品を抽象的に解釈することで、その作品の文脈や位置づけをマッピングして楽しむことができるんですよ。

レベル4まで到達できる作品は傑作


ということで、楽しみ方レベル4までを解説したんですが、ほとんどの人の楽しみ方はレベル2で留まるんです。
これは「推し」という言葉が流行っていることからも分かるように、推しというのはそのコンテンツを好きかどうかという二択なんです。好きであれば「推している」ということになる。

しかし、レベル4まで到達するのは「オタク」なんです。オタクはその作品単体の歴史、クリエイターの歴史、作品が属するジャンル全体の文脈を把握して分析できなければなりません。

しかし、現在においては「オタク」は流行らない。「推し」の時代なんです

ほとんどの人は作品の造形を楽しみ、そこに喜怒哀楽を以って感情移入して「良い作品だ」と判断する。

作品側もレベル4を精査されるほど作りこんでいる作品は少なく、逆にこの領域に到達できる作品は傑作だといえるんですよね。

例えばジブリ作品は表層的にはレベル2の喜怒哀楽で完結して楽しめますが、「崖の上のポニョ」など神話のメタファーを用いていて、深堀すればレベル4まで到達できる作品ばかりなんです。

今の時代は配信プラットフォームから、ベルトコンベアに流れてくる作品をただ咀嚼して楽しむ時代なので、そのスキームでは作品単位をレベル4まで咀嚼して楽しむことは難しいのかもしれません。


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とりさん
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