日経電子版は有料会員90万人に迫る。ビジネス経済メディアの勝者は?
日経電子版は月間2億近いPV、東洋経済オンラインはエンゲージメントが高め
ビジネス経済メディアの2023年1-3月平均(日経電子版のみ2023.2.1時点公表の数値)を比較すると、自社UU順では日経電子版の4,032万がトップとなっており、次いで東洋経済オンラインが2,448万と続いています。
自社UU数では2倍近い差がついていますが、自社PVを比較すると日経電子版は1億9,000万PV、東洋経済は1億7,000万PVと拮抗しています。これは、1人あたりの月間PV数の差で日経電子版が4.7PVであるのに対して、東洋経済オンラインは7となっています。東洋経済オンラインの方が、ユーザーあたりの閲覧数が多いのです。
この特徴は、東洋経済オンラインの媒体資料にも下記のように記載されています。
東洋経済オンラインは、提供する記事を絞り込むことでクオリティを挙げ、読者を引き付けていることが分かります。
対する日経電子版は、電子版の有料会員登録画面に1日約1,000本配信という記載があり、月に換算すると約3万本です。特集記事などの読み物コンテンツ以外の即時性を持ったニュースを網羅することにより、読者あたりのPV数が下がっているものと思われます。
ダイヤモンドオンラインは自社UU数が2,126万と東洋経済オンラインに拮抗していますが、1人あたりのPVが3.5と東洋経済オンラインの約半分になっているため、自社PVも同じく5,793万と約半分程度となっています。また、PRESIDENT Onlineは自社PVが7,721万とダイヤモンドオンラインと拮抗していますが、外部PVが1億1,968万と突出して多いため、外部配信への記事提供に力を入れていることが分かります。
月間あたりのUU・PV数を比較すると、網羅性の高い日経電子版に対して、記事を絞り込んで読者あたりのエンゲージメントを高める東洋経済オンラインの2強という構図が見えてきます。しかし、日経電子版は無料を含めたWeb会員数が593万と突出している上に、後述しますが有料会員の囲い込みにも成功しています。
両者のユーザー層について、違いはあるでしょうか。
日経電子版は経営に関わる男性が、仕事の一環として視聴
両者が公表している媒体資料によると、下記のような違いが浮かび上がってきます(日経電子版は無料会員におけるデモグラフィック、東洋経済オンラインは楽天インサイトのウェブアンケートN=1000より)。
まず、年齢については30代~50代のユーザーが6~8割占めている点は同じです。特筆すべきは男女比率です。日経電子版は75%が男性であるのに対して、東洋経済オンラインは42.8%と半数弱が女性となっています。興味のあるテーマの3位が家計・貯金となっている点からも、女性向けのコンテンツも多く配信し、読者の裾野を広げていることが分かります。
また、職種についても日経電子版の経営+経営マーケティング22%(有料会員に絞ると25%)に対して、東洋経済オンラインは多い順に販売営業が13.7%、専門職が10.7%、情報システムが9.7%となっており、職種の裾野も広いことが分かります。
日経電子版は経営に関わる男性ユーザーがマジョリティとなっている一方、東洋経済オンラインは女性も含めた広い職種にユーザーが広がっていることが分かります。
特筆すべきが、日経電子版の視聴デバイスです。スマートデバイスでの閲覧が26.7%、スマートデバイス/パソコン併用が39.5%、パソコンのみでの閲覧が33.8%となっています。メディアに携わる人なら分かるのですが、昨今のメディアの視聴デバイスは8~9割がスマートデバイス=スマホになるのが一般的です。パソコンのみの視聴や併用が7割を超えるということは、会社の昼休みや勤務時間中にPCでアクセスを行っているということです。媒体資料においても、朝の通勤時間、お昼から夕方にかけてがメイン視聴時間となっています。
このことから、経営に関わる男性層が、業務の一環として日経電子版を用いて情報収集をしていることが分かります。
東洋経済オンラインは、ユーザーの裾野を広げてPV数の最大化を図っている一方、日経電子版は有料会員の獲得にも力を入れています。日経電子版を含めたビジネス経済メディアの有料会員の獲得状況は、どうなっているでしょうか。
日経電子版は、有料会員が90万人に迫る
下記が、ビジネスメディアにおける有料会員の獲得状況です。各メディアとも有料会員サービスを展開していますが、会員数を公表しているのは日経電子版、NewsPicks、ダイヤモンドオンラインの3メディアでした。
最も多いのが、日経電子版の87万3000人となっており、圧倒的です。また、他メディアが月額2,000円弱の価格設定をしているのに対して、日経電子版は4,277円という2倍以上の値付けです。この価格を設定したベースは、紙の新聞価格が元になっている要因があるでしょう。媒体資料によると、紙の新聞と電子版の重複ユーザーは少ないという記載があります。もともと新聞にお金を払っていた読者の、オンラインへの受け口としての電子版があるため、紙の読者の一定割合が、そのまま電子版に移行しているのです。
日経電子版に次いで有料会員を獲得しているのは、NewsPicksの19万6,000人となっており、1/4程度のボリュームとなっています。
また、ダイヤモンドオンラインは3年前から有料会員サービスをスタートしており、35,000人の有料会員を有しています。
最も有料会員を有する日経電子版とNewsPicksの伸び幅を比較すると、どのようになっているでしょうか。
山なりに会員を増やす日経電子版。NewsPicksは頭打ちか
日経電子版が山なりにユーザー数を増やしているのに対して、NewsPicksは2019年から2020年にかけてユーザーの増加割合が多くなっています。(2023年はNewsPicksの有料会員数が公表されていないので、0になっています。)
この増加理由について、佐久間衡ユーザベースCo-CEOは下記のように語っています。
さきほど、日経電子版の読者はスマホ以外のPCでの視聴が驚異的に多いという話をしました。これは、日経電子版が業務における情報収集として使われている証拠です。一方のNewsPickはビジネスインフルエンサーにフォーカスを当て、主な視聴デバイスがスマホであることも分かるように、NewsPickはビジネスエンタメに振り切ったコンテンツが多いのです。
(ちなみに、NewsPickが他のビジネスメディアに比べて有料会員が多いのは、スタート時点でアプリに最適化していたことと、91.7万人を誇るYouTubeチャンネルからの課金導線の要因もあると思われます。)
インタビューの中でも語られていますが、日経電子版は新聞からの移行先という成り立ちからして、新聞的役割=毎日ニュースソースをチェックするというシチュエーションに対してNewsPicksは雑誌的役割=経済やビジネスにおけるエンタメ要素の強いコンテンツという色分けになっているのです。
前述のインタビューにおいても、雑誌的役割である以上は、今の有料会員数が天井であるという認識であると発言しており、佐久間Co-CEOよるとニュース的な価値創出について力を入れていくとあります。
他社とのパートナーシップで特定のテーマに沿ったニュースを集めて、専門家や当事者のコメントを掲載して、ニュース的な価値をつくっていく
今のところ日経電子版の独り勝ち状態ですが、今後も日経電子版は伸びていくのでしょうか。
日経電子版の伸び率は、鈍化傾向?
日経電子版の有料会員の伸び率を見ると、下記のようになっています。データの取得年月が同月ではないので参考程度になりますが、最低でも年間5~6万程度は増加という形で推移しているように見えます。しかし、直近1年については4万程度の増加となっており、来年の伸び率も見てみないと分かりませんが、やや成長が鈍化傾向にある可能性があります。
2020年2月時点の70万人突破時点において、20代のユーザーの伸び率が高いという記述があります。
しかし、直近の媒体資料によると、20代の有料会員における比率は14%となっており、全体の有料会員数にかけると122,000人となり、2019年時点から20代の伸びが鈍化しているように思われます。2024年の数値を見て判断する必要もありますが、日経電子版の有料会員数も天井に達しつつあるのかもしれません。
元日経記者、後藤達也氏の有料noteは2万人以上が登録
ちなみに、各ビジネスメディアの有料会員数を比較してきましたが、かつて日本経済新聞社記者の記者をされていた後藤達也氏は、Twitter60万人フォロワーを誇り、有料のnoteも2万人以上の人が有料会員となっており、年商は1億円を超えるといいます。
ダイヤモンドオンラインの有料会員が3万5000人ですから、組織で取り組むメディアに比べて、個人メディアとしての集客力と収益性がいかに高いかが分かります。
ビジネスメディアに限らずですが、中堅のメディアと個人メディアとの垣根がなくなり、巨大資本を投下したメガメディアか、個人メディアの2極化の流れが進んでいくのかもしれません。
集客、有料会員数で圧倒的な日経電子版の課題は?
ということで、日経電子版を中心とした各経済ビジネスメディアにおける状況を見てきました。
東洋経済オンラインのようにユーザーの裾野を広げてPVを最大化するメディアや、NewsPickのように有料会員の獲得に注力するメディアがある中、PVを最大化しつつ有料会員も獲得している日経電子版が、やはりビジネス経済メディアとして圧倒的存在となっています。
その要因は、先述のように新聞的役割=ニュースソースを毎日チェックする役割を果たしていることと、他社が注力する読み応えのある特集記事もまた提供出来ているからです。一方で、20代などの伸び率は鈍化傾向にある様子もうかがい知れます。
また、日経電子版の有料会員は増加傾向ですが、紙の新聞は減少傾向です。日経新聞朝刊の発行部数は2023年時点で156万8181ですが、過去数年の減少数を見ると年間10万~20万ほど減少しており、日経電子版の有料会員の増加数に比べて大きくなっています。
つまり、紙の新聞の減少の受け皿としての電子版があるわけですが、新聞の購読を止めて電子版に移行しない人も多いので、全体としては縮小しているのです。
これも経済・ビジネスというジャンルに限らずですが、紙媒体からデジタルへと移行するにあたり、媒体ごとのメディアパワーは縮小傾向にあります。
一方で、日経電子版のメディアパワーを活かし、訪問ユーザーのデータを独自開発したデータウェアハウス「Atlas」に集約し、ターゲティング広告を配信するなどのデジタルならではの取り組みも行われています。
今後も、経済・ビジネス分野については日経電子版一強の状態は継続すると思われますが、元日経記者後藤達也氏のような、記者経験を活かした個人メディアが勃興していくのかもしれません。
出典参考
https://www.nikkei.com/topic/20230714.html
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55641430U0A210C2I00000/
https://marketing.nikkei.com/media/web/id/
https://storage.pardot.com/820243/1688454007P5Y4WcV3/ds_web_Jul_Sep.20230602.pdf
https://www.nikkei.com/edit/50special/pc/index.html
https://www.nikkei.co.jp/nikkeiinfo/news/release_20180607_01.pdf
https://www.nikkei.com/topic/20200116.html
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https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00304/020600118/
https://www.at-s.com/news/article/national/1256696.html
https://finance.logmi.jp/226619
https://newspicks.com/news/4141419/body/
https://newspicks.com/news/3242316/body/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000077.000010548.html
https://www.uzabase.com/jp/info/newspicks-2million-users/
https://manamina.valuesccg.com/articles/1573
https://biz.toyokeizai.net/guide/
https://toyokeizai.net/list/about-service
https://biz.toyokeizai.net/direct/topics/topics_file_download/?topics_id=2910&ext_no=02&index=0&disp=inline
https://biz.toyokeizai.net/direct/topics/topics_file_download/?topics_id=2826&ext_no=02&index=0&disp=inline
https://jabc.or.jp/news/abc_report/2023/05/30_3183.html
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