【気まぐれ映画館】「勝者なき戦い」
映画「AWAKE」をアマプラで鑑賞。国宝級イケメンともてはやされている吉沢亮・若葉達也のダブル主演で贈る、将棋を題材とした映画である。
浅川陸と清田は、幼少期から青年期をともに奨励会(プロ棋士の養成機関)で過ごし、切磋琢磨した同期。棋士としての才能・実力は互角であり、奨励会でもライバル関係と言われていた2人だが、プロになれたのは浅川だけで、清田は高校卒業の時点で奨励会から脱退する。
最後の昇級試験で敗退し、プロ棋士への道を絶たれた清田は平凡な大学生となり、将棋とは距離を置いた生活を送っていたが、大学の「人工知能研究サークル」に入部したことから将棋ソフトの開発に取りつかれるようになる。
詳しいプログラミング言語を先輩から聞かれて「日本語」とこたえてしまうほどコンピュータ音痴だった清田だが、変人・磯野の特訓によってめきめきとプログラミングの知識を吸収していく。いつしか、清田は「自分の開発した将棋ソフトで浅川に勝つこと」だけを考えるようになる。
そして、2人の人生は、プロ棋士と将棋ソフトのタイトルマッチ「電王戦」を軸として再び交差していく……。
本作は、2005年に行われた、阿久津主税八段と将棋ソフト「Ponanza」の対局をモチーフとした、実話ベースの映画である。
将棋に関心のある方は記憶に新しいかもしれないが、件の対局は電王戦の中でも特にいわくつきの対局であり、プロの間でも評価の分かれる1戦として語り継がれている。
多少ネタバレになるが、将棋ソフト「AWAKE」にさんざん翻弄され、消耗した浅川は、ソフトにたったひとつだけ残された欠陥をついて勝利する。
プロ棋士にあるまじき1手によって将棋ソフトを下した彼には現実の世界でもただならぬ批判が浴びせられ、その中には心ない誹謗中傷の声もあったと聞く。しかし、彼が棋士として選び取ったその1手は、まぎれもなく最善の1手であった。
将棋に愛された者、そうでない者……。ありきたりな映画ではなかなか描かれない「敗者」の人生までしっかりと描きこまれており、映画としては面白い。私自身、趣味程度ではあるが将棋ファンの端くれであり、電王戦にも少なからず注目していたから、題材としても興味深かった。
ただ、対局の結末が結末だけに、盛り上がりに欠けるのは致し方ないところではある。将棋や人工知能の知識が多少なりともある人には楽しめる内容だと思う。